子どもの前での夫婦ゲンカや親が与えた何気ない一言が、子どもに対する児童虐待に当たることも…。弁護士の森元みのりさんに、法律的にどのような行為が児童虐待に当たるのか、その定義を伺いました。

夫婦ゲンカが児童虐待に?意外な家庭内の法律

 

●子どもの前での激しいケンカは、脳に損傷を与える「虐待」

「児童虐待の防止等に関する法律では、児童虐待の定義を定めています。その行為の一例は、外傷が生じるおそれのある暴行や、子どもにわいせつな行為をすること・させること。そのほか、子どもの心身の正常な発達を妨げるようないちじるしい減食や子どもの長時間の放置、児童に対するいちじるしい暴言、いちじるしく拒絶的な対応。夫、または妻に対する暴力や子どもにいちじるしい心理的外傷を与える言動などが含まれています。その中で、子どもの前での激しいケンカは、子どもの精神に大きなストレスを与える行為に相当します」

親同士の激しいDVや言葉の暴力を目の当たりにすることで、子どもの脳が悪影響を受けると、医学的にも証明されているのだとか。たとえパートナーへの愛情を失ったとしても、子どもの前では、愛する子どもの脳に損傷を与えるような激しい夫婦ゲンカは控えましょう。

 

●兄弟姉妹間の「区別」も児童虐待にあたる

何気ない日常的のなかで、児童虐待にあたる行為。それは、夫婦ゲンカに限りません。一家のなかに、複数の子どもがいる場合は、兄弟・姉妹間での区別も、ときに虐待に当たります。

「『長男だけ大切にして、それ以外の子は大切にしない』『遅く産まれた末っ子だけをかわいがる』などといった順番による区別や、『男の子を重んじて、女の子は大事にしない』『男の子は厳しく育てるのに、女の子は優しく育てる』などといった性別による区別を、兄弟・姉妹間で行うことも、児童虐待の一種です。こうした差をつける行為は、子どもに心理的苦痛、なおかつ人格形成に大きな影響を与えます」

自分が言った何気ないフレーズが子どもの心に一生の傷を与える可能性もあるのだと、心に留めておくべきなのかもしれません。

夫婦の間に生まれた子どもは、夫婦そろって面倒を見るのが当たり前です。夫だけ、あるいは妻だけが、その養育に関わるのは、夫婦平等の観点から義務違反にあたるのだとか。

「特に、法律的に問題視されるのが、婚姻費用(生活費)ですね。『夫がお金をくれない』『妻が浪費してしまって、生活費が残らない』などとの結果、子どもに十分な教育費や生活費を渡せない。それも、立派な児童虐待だとみなされます」

●絶対にNGなのは「どっちについていきたい?」という質問

離婚を考えたとき、子どもの親権がどちらに渡るのかは大きなポイント。そんなとき、思わず子ども自身に聴きたくなるのが「お父さんとお母さんのどちらについていきたい?」という質問です。しかし、じつはこれも絶対にやってはいけない、虐待行為なのだとか。

「父と母、どちらを取るのかと子どもに問うのは、踏み絵を踏ませるのと同じこと。子どもに責任を押しつける、典型的な虐待のひとつだとみなされます。たしかに本当に離婚に至って、親権者を決める場合、子どもの意思も大切です。でも、どうしても話しあいがつかず、家庭裁判所が子どもの意思の確認が必要と認められた場合でも、子どもの意思を確認するのは、調査官という専門家です。親が直接的に『どちらについていきたい』と質問してはいけないのだと、心してください」