70年を超えるJALの歴史のなかでも、現行の機体デザインは群を抜いたシンプルさが特徴です。このデザインはどのように作られたのでしょうか。生みの親に、デザイン誕生までの経緯を聞くことができました。

2011年から導入始まった現行塗装

 創立70周年を迎えたJAL(日本航空)。2011(平成23)年から導入されている現行の機体デザインは、その長年の歴史のなかでも群を抜いたシンプルさです。機体は真っ白でラインなどは一切ナシ。胴体に「JAPAN AIRLINES」の黒い文字、尾翼のシンボルマーク「鶴丸」だけ。このシンプルなデザインはどのように生み出されたのでしょうか。


JALのボーイング787(乗りものニュース編集部撮影)。

 現行のデザインは、2010(平成22)年の経営破たんを経たJALの再生の一環として、2011(平成23)年に採用されました。ただ、機体デザイン採用の経緯も、これまでのものとは大きく異なります。通常機体デザインは、外部のデザイン会社が候補を作り、そのなかから選定するということが多いのですが、現行のものは、JALの社内による自作なのです。

 現在のJAL機のデザインにおける“生みの親”といえるのが、宣伝部クリエーティブ・ディレクターの真下 淳さんです。このシンプルを極めたデザインについて賛否両論があったことも承知していたようで、「シンプルすぎてかっこ悪いという意見もあったが、『大丈夫だ』と確信していました」と話します。

「飛行機のデザインというのはお客様にとって、一番の目に入る基礎デザインです。もちろん、フォントを『JAL』とするのか『JAPAN AIRLINES』とするか、(胴体に)線を引くか、無数の案がありました」(真下さん)

実は「ちょっと派手目のデザイン」も検討されていた?

 真下さんは現行のJAL機のデザインについて次のように話します。

「白地に文字、そしてシンボル(鶴丸)というシンプルな形で、デザインを表現したいというのがありました。この無駄を削ぎ落としたシンプルの美が日本のエアラインに相応しいと思っていました。ここは私の信念だったし、ラインがゴテゴテと入ったりする案はあまり作っていないんです」(真下さん)


JALのエアバスA350-900(乗りものニュース編集部撮影)。

 とはいえ、シンプルをテーマにしながらも「JAPAN AIRLINES」のフォントや配色、尾翼のデザインなどはさまざまな形が検討されていました。

 写真掲載NGの条件でデザイン案を見せてもらったところ、胴体前方の文字が「JAL」となったもの、字が赤字のもの、尾翼デザインが「鶴丸」ではないもの――さまざまな案が、“検討済み”だったのです。もちろんこれには、現行のものよりだいぶ派手なデザインも多数含まれます。

 真下さんは完成したデザインについて「文字の太さと尾翼でしか勝負しないという意味では、他のエアラインに類を見ないですよね」と話します。ただこのデザイン、さまざまなところにデザイナー魂がこもった技巧が凝らされていました。

「JAPAN AIRLINES」の文字へのこだわり

 真下さんのデザインへのこだわりが見られる大きなポイントのひとつが「JAPAN AIRLINES」のフォントです。「これ(書体)が決まったときは、『よし!』と。大きな転機でした」と同氏は振り返ります。この文字に合わせる形で、鶴丸をはじめとする現行の機体デザインのイメージが固まっていきました。

 このフォントについて同社は「シンプルな力強いボールド書体は、改革への強い決意。斜体は『前へ進化を続ける』JALフィロソフィーを表現し、『果敢に挑戦する』信念を示す。アルファベットの『A』の一部、角を丸くした親しみやすいタイプフェイスは、『心づかい』を表現したもの」と公開していますが、実は工夫はこれだけではありません。


さまざまな型式のJAL機が乗り入れる羽田空港(乗りものニュース編集部撮影)。

 胴体に描かれている「JAPAN AIRLINES」の黒い文字は、100%の漆黒ではなく、“墨色”と呼ばれる、若干グレーがかかった薄めの黒となっています。「塗料だともっと黒くできますが、機体デザインにすると、油性マジックで塗ったように重たくなってしまうんです」(真下さん)

 また、文字が書かれている場所も工夫が。多くの機種でもっとも機首側の文字が、窓3つ程度スペースが開けられたところから描かれ始めています。つまり、文字があえて“後ろ側へズラされている”のです。「こうすることで、機体のおでこを出すことができ、“余白をデザイン”とすることができます」と、真下さんは解説します。

「いまのJAL機は、白もデザインなのです」――このことを真下さんはインタビューを通じて強調していました。

 新デザインが採用されて10年。「このシンプルなデザインが美しく、スタンダードに見えるとすれば、社員が日頃、さまざまな努力を積み重ねてきた結果でしょう。JALは本当にいい会社になったと思います」と真下さんは話します。