創立70年を迎えるJALの歴史の中で、長年シンボルマークとされてきたのが、尾翼に描かれた「鶴丸」です。実は現「鶴丸」、先代のものとは大きく異なります。その生みの親に、誕生秘話を聞くことができました。

再建の一環としてデザインを一新

 2021年に創立70周年を迎えたJAL(日本航空)。紆余曲折を経た長い歴史のなかで、同社が長年シンボルマークとしてきたのが、尾翼に描かれた赤い鶴のマーク、「鶴丸」です。このマークは実は3代目で、2011(平成23)年に刷新。前年の経営破綻を踏まえた再建の一環として、デザインを一新し“復活”しました。


駐機場にならぶJAL機(乗りものニュース編集部撮影)。

 振り返ると初代「鶴丸」の完成は、JAL初のジェット旅客機「ダグラスDC-8」導入直前の1959(昭和34)年。海外市場での競争力強化を図るべく「日本らしさ」を重視したものとされています。その後「鶴丸」は1965(昭和40)年に社章となり、社員バッジとして制定。その後、JAL機の垂直尾翼に描かれることとなりました。

 その後「鶴丸」は1989(平成元)年の完全民営化にともなって、デザインが変わった2代目のものが採用され、2002(平成14)年まで使用されました。その後JAS(日本エアシステム)との統合にともなって、一度「鶴丸」は消滅することとなります。

 そしていまのJAL機がまとう「鶴丸」は、これまでのものとは大きな違いがあります。こういったブランドマークは、外部のデザイン会社が候補を作り、そのなかから選定するということが多いのですが、現在の鶴丸は、JALの社内による自作なのです。

 このプロジェクトの中心人物のひとりである、宣伝部クリエーティブ・ディレクターの真下淳さんにその当時のことを聞くことができました。

現「鶴丸」以外のデザイン案はどのようなものだったのか

 真下さんによると、まず最初に現在の機体デザインを構想し、その一部として尾翼の鶴丸に行き着いたとのこと。「『鶴丸』はあくまで尾翼を司るシンボルマーク」と話します。一方、新たなシンボルマークの作成については「とにかく昔に戻るんじゃないんだと意思を確実に出したかった。昔のマークに戻るのは絶対ダメ」(真下さん)というのが、社内の意向だったそうです。


初代の「鶴丸」があしらわれたJAL機のデザイン(画像:JAL)。

 真下さんは「再生するという観点から見ると、(初代「鶴丸」のときの)『親方日の丸』『半官半民』の時代に戻ってはいけない。『ただの鶴丸じゃ絶対にありえない』という話もありました」といいます。そのため「『今の鶴丸』ってなんだ? というところから考え、現代っぽい『鶴丸』など、ものすごい数を作りました」と話します。

 写真掲載はNGという条件で、「鶴丸」をはじめとする当時の尾翼デザイン案を見せてもらいました。

 たとえば「鶴丸」の翼の切れ込みがないもの、翼が左右対称でないもの、鶴の頭部や体が機首方向に寄っているもの、「鶴丸」を四角く整えたもの、一見して鶴の姿とは判別できないほど先鋭的なデザインが採用されているものなども。また、「鶴丸」ではないデザインももちろん検討されてました。

完成した現「鶴丸」どんな工夫が?

 このようなデザインのなかから選ばれた現在の「鶴丸」は、かつてのものを踏襲しつつも、ディテールに大きな変化があります。

「鶴丸」の「JAL」の文字は、JAL機の胴体に描かれる「JAPAN AIRLINES」のロゴのフォントをベースに作成したとのこと。スピード感をイメージした斜体は初代の「鶴丸」と似通った部分ではあるものの、その文字の太さは明らかに現行の方が太く一線を画します。真下さんも「鶴丸は『JAPAN AIRLINES』とセットで初めて成り立つものです」と話します。


完全民営化後に採用された2代目「鶴丸」塗装(画像:JAL)。

 加えて現在の「鶴丸」は翼の切れ込みが深く入り、従来のものより、正円が多くなっています。鶴のくちばしはクチバシが少しだけ上向きになっているとのこと。また、赤は日本の伝統色である「金赤(猩々緋)」とされました。

 この新しい鶴丸の導入で、機体デザインも変化しています。2代目「鶴丸」では上側に配置されたのに対し、現在の「鶴丸」は尾翼のど真ん中に配置。真下さんは「上側にすると視認性もあがり、スタイリッシュに見えることもありますが、正々堂々とど真ん中にしたかったんです」と話します。

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 創立70周年とともに、現在の「鶴丸」が生まれて10年――真下さんは「JALのスタッフはみんな『鶴丸』が好きです。ここまで自社のロゴマークが大好きな社員が大勢いる会社は素晴らしいですよね」と話します。