依然コロナ禍2021年の鉄道 凶悪事件などで増大する設備投資 収入減の中「選択」進む
大都市を抱える自治体では2021年、1年の多くが緊急事態宣言下にありました。ただ、世界に比べると新型コロナウイルスが落ち着きを見せ始めた日本では、徐々に外出自粛ムードも薄れ、これに伴い鉄道利用も回復しつつあります。
「極端な」鉄道離れは見られなかったものの…
コロナ禍が始まって丸2年、2度目の年末を迎えます。2021年は1月7日に発出された2回目の緊急事態宣言に始まり、延期された東京オリンピックを挟んで、9月末までほとんどの期間が宣言下にありました。
振り返れば、最初の緊急事態宣言が発出された昨年4月の定期外利用者数は各社とも軒並み7割前後減少(前年同月比、以下同)し、通年でもJR・大手私鉄の全社が最終赤字に転落するという異常事態となりました。
都市部を走る電車(画像:写真AC)。
ただコロナがクローズアップされた昨年3月以降の鉄道利用者数を見てみると、最初の感染拡大でパニック的な状況に陥った4月〜5月と、東京の感染者数が初めて1000人を超えた昨年末〜今年2月、そして過去最多を記録した8月〜9月を除けば、各社とも概ね一定で推移していることが分かります。
今年は緊急事態宣言が繰り返し発出されましたが、上記のような感染拡大への不安が極度に高まる状況にならない限り、鉄道利用が極端に減ることはありませんでした。感染症対策の観点から見れば必ずしも好ましいことではないのかもしれませんが、とりあえず鉄道離れは底を打ったと言えそうです。
とはいえコロナ前と比較すれば利用者が大幅に減少していることには変わりありません。今年度の上半期(4月〜9月)決算を見ると、JR各社は昨年度よりは改善したものの依然として巨額の純損失を計上しています。
収入減でも削れない安全対策投資
一方、大手私鉄に目を向けると西武鉄道、京成電鉄、東京メトロ、京王電鉄を除く各社が最終黒字に転換しています。前述のように4月〜5月を除けば鉄道営業収入が昨年より大きく増加したわけではありませんが、経費削減を徹底したことで利用者が少なくても黒字を出せる体質に変わりつつあるのでしょう。
JR東日本の相模線では30年ぶりに新型車両がデビューした。車両も安全・快適な輸送に寄与する重要な設備投資(2021年9月、伊藤真悟撮影)。
帳簿上の利益より重要な資金繰りはどうでしょうか。これまで鉄道事業の生み出すキャッシュは、グループ経営を支えるとともに設備投資の源泉となっていました。2020年度決算における大手私鉄の運輸事業(鉄道、バスなど)の営業利益を見ると、大手私鉄のうち南海電鉄と阪神・阪急HD以外の全社が赤字ですが、当期の現金支出を伴わない費用である減価償却費を加えると、近鉄GHD以外は黒字であり資金繰りに問題はありません。
ただ、鉄道事業は安全対策をはじめ長期的な視点に立った設備投資が必要です。首都圏大手私鉄各社の設備投資計画で見ると、コロナ前の2019年度の予定額(実績値とは異なる)と比較して、2021年度は概ね2〜3割削減されているものの、逆に言えば鉄道事業の儲けがかつてないほどに落ち込んでも、設備への投資を不断に行っているのです。完成まで長時間を要する新線建設や連続立体交差事業の推進、老朽化した設備の更新、そして近年社会的要請が強まるホームドアの整備などの安全対策費を削ることはできません。
加えて列車内での凶悪事件発生を受け、車両などへの防犯カメラ設置や巡回強化など、鉄道事業者の負担は増しています。
解けた外出自粛モード、持ち直す鉄道利用
では、投資額の削減で後回しになったのは、どのような設備でしょうか。東急電鉄は今年5月に発表した新・中期事業戦略の中で、収益悪化により先送りを余儀なくされている工事として駅の改装やホーム屋根の延伸などを挙げています。他社でも2019年度と項目を比較すると、駅施設のリニューアルや案内設備の拡充など、サービス向上の取り組みが後退していることが分かります。
現状が好転する見込みはあるのでしょうか。その指標となるのが下半期(10月〜来年3月)の業績です。新型コロナは依然として世界各国で猛威をふるっていますが、日本では10月以降鎮静化しています。これを受けて行動制限が段階的に緩和され、外出自粛ムードが解けたことで、鉄道利用者が戻り始めています。
JR東日本の月ごとの鉄道営業収入を見ると、9月までは概ね5割減(2019年度同期比、以下同)でしたが、10月と11月は3割減まで持ち直しています。新幹線も急激に利用が戻りつつあり、9月まで7割減だったのが10月以降は4割減まで回復しました。大手私鉄各社も同様の傾向です。
年明けには新たな「GoToキャンペーン」が始まる予定で、更なる上積みも期待されます。関係者は祈るような思いで2022年を迎えることになるでしょう。
とはいえ新たな変異株の出現など、新型コロナが終息する目途は立っていません。仮に終息したとしても、かつてのような「日常」には戻れないのかもしれません。新しい時代をどう生き抜くか、2021年はそれを模索する第一歩だったと言えるでしょう。