「岸辺露伴は動かない」になぜジョジョ本編?演出・渡辺一貴が語る
12月27日より3夜にわたってNHK総合で放送される高橋一生主演のNHKドラマ「岸辺露伴は動かない」第2弾(毎午後10:00〜10:49放送)。荒木飛呂彦の漫画「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズに登場する天才漫画家・岸辺露伴を主人公にしたスピンオフ漫画「岸辺露伴は動かない」のエピソードを中心にした実写ドラマの第2弾では、「ジョジョの奇妙な冒険」を原作にしたエピソードも登場することで注目を浴びている。なぜ「ジョジョ」本編に着手したのか? その理由を、第1弾から演出を続投する渡辺一貴に聞いた。
高橋演じる主人公・岸辺露伴とは、相手を本にして生い立ちや秘密を読み、指示を書き込むこともできる特殊能力“ヘブンズ・ドアー”を備えた風変わりな漫画家。2020年12月28日から30日にかけて放送されたドラマ1弾では「岸辺露伴は動かない」から「富豪村」と「D.N.A」、「岸辺露伴は叫ばない 短編小説集」から「くしゃがら」が登場。第2弾では、「岸辺露伴は動かない」から「ザ・ラン」(4話)と「六壁坂」(6話)、そして「ジョジョの奇妙な冒険」の4部「ダイヤモンドは砕けない」に基づく「背中の正面」(5話)が放送される。
「背中の正面」では、露伴が他人に決して背中を見せようとしない男、乙雅三(きのと・まさぞう)と出会ったことから、奇妙な事態に陥る。渡辺は「ジョジョの奇妙な冒険」本編に目を付けた理由を以下のように語る。
「ジョジョの世界って、ビジュアルや世界観が面白い一方で、言葉のやりとりや、セリフのワードのチョイスが文学的だなと思っていたんですね。『岸辺露伴は動かない』というスピンオフ漫画自体が、そういうコンセプトが凝縮されたものではありますが、つまりCGバリバリのアクションではなく、会話劇、心理劇として成り立つような世界だと感じていて、もし自分が映像化させていただけるのであればそういうアプローチで取り組みたいと思っていたんです。なので、ドラマ化にGOが出た時に、何を描くかと言ったらまず1対1の腹の探り合いといいますか、言葉の駆け引きといったものが中心となるエピソードから選ばせて頂きました。第2弾の制作にあたるときにもその流れで自然に“チープ・トリック”のエピソードが浮上してきたんです」
ドラマ第2弾のエピソードタイトルが発表された際に、SNSで多く見られたのがこの“チープ・トリック”のワードだ。“チープ・トリック”とは「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズに登場する、各キャラクターの超能力“スタンド”の一種。「ドラマに“スタンド”が登場するのか?」と話題を呼んでいたが、その点はどうなるのか。
「原作の本編では、チープ・トリックはあくまで(連続殺人鬼の)吉良吉影の謎を追う流れで登場しており、チープ・トリックだけを抜き出してしまうと今回のドラマの世界にはなじまないので、ある程度アレンジしています。実は、今回の4〜6話にはもう一つ軸にしている話があって、そこに乙雅三というキャラクターがうまく入っていけるような流れにさせて頂きました。チープ・トリックに関してはネタバレになるので具体的には伏せますが、“露伴にしか見えない存在”として表現しています。脚本の小林靖子さんたちと相談しながら進めていきました」
同エピソードで露伴が出会う乙雅三を演じるのが、ドラマ「半沢直樹」のヒール役も記憶に新しい歌舞伎俳優の市川猿之助。市川の起用は、市川が出演した歌舞伎の舞台に魅了されたことが大きかったようだ。「猿之助さんは、テレビドラマとか映像の世界だと、どちらかというとシャープな腹黒い悪役といいますか、コワモテな役のイメージが強いと思うんですけど、歌舞伎の世界だと女形も含め美しい方。本当に体の動きがきれいで『色彩間苅豆 かさね』という演目では、猿之助さんが殺されて怨霊になるかさねを演じられていて、その時にまさに乙雅三のような動きをされている瞬間があって。これはもう猿之助さんしかいないとお願いさせていただきました」
18日に放送された特番「私の岸辺露伴語り」では、脚本の小林靖子が「背中の正面」を執筆する際に頭を悩ませたのが、露伴が横断歩道で歩行者に背中を付けて後ろ向きに歩くシーンだと語っていた。「他人の背中に背中を付けたら気付かれてしまうのではないか」と疑問に感じた小林は、何と自ら実践し、納得のうえで執筆したというが、同シーンの出来栄えにも注目したい。(編集部・石井百合子)