仕事の現場で奮闘するビジネスパーソンたちの魅力、スキルを“○○力”と名付けて、読者の皆さんにお届けしたい! 題して、連載「あのビジネスパーソンの『○○力』」。

今回登場するのは…書籍やメルマガ、YouTubeで大活躍するMBさん。



2016年にはまぐまぐメルマガ総合大賞1位を受賞。自著や監修漫画など、関連書籍の売上は累計100万部を突破するなど、ファッション×メディアという業界において独自の成功を成し遂げている方です。

メルマガ、書籍、そしてアパレル店員時代の服…MBさんがこれほどまでに「モノを売れる」のはなぜなのでしょうか?

セールスやマーケティングの仕事に従事する読者のために、MBさん流の「モノを売るコツ」をきいてみたところ、その秘訣は「ドラッカー」にあるというお話が始まりました…。

〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉

「B’zって毎回あんなにテンション上がってると思いますか?」

天野:
メルマガは大人気で、関連書籍も100万部以上売れてたり…

MBさんがここまで成功できた要因は、ズバリなんだと思いますか?


閑静な住宅街にあるめちゃオシャレな事務所で取材です

MBさん:
僕、大学でドラッカーを専攻してて、ドラッカー風に言うなら「顧客の定義」「顧客の創造」ということになるんですが…

「同じことを繰り返す強さ」はありますねえ。

どんな本でも動画でも「オシャレの鉄則は“ドレスとカジュアルのバランス7対3”!」って言い続けてるんですよ。

天野:
たしかにそんなイメージですが…それが強みなんですか?

MBさん:
僕、B’zってすごいと思うんです。

ウルトラソウル! ハイ!」って歌ってるけど、毎回あんなにテンション上がるわけないじゃないですか。

天野:
ど、どうなんでしょう??


稲葉さんに聞いてみないと

MBさん:
もう何億回と演奏してるのに、彼らは毎回フルマックスで、ドオン!って火を出してるわけです。

それは、「もうウルトラソウルなんて何回も聴いてるよ」って人じゃなくて、「人生初めてB’zのライブに来ました」っていう新しい顧客を満足させるためだと思うんですよ。

天野:
そこがプロ意識だと。

MBさん:
ユニクロの一番すごいところも、そこなんです。フリースジャケット、ウルトラライトダウンというヒット商品をずーっと続けるところ。

常連以外が入ったら「誰こいつ」みたいな顔する居酒屋って潰れるじゃないですか。それは新規の顧客のほうを向いてないから。

本来なら新規客には“店の大定番のチャーハン”を何としてでも食べてもらわなきゃいけないんですよ。


たしかに、大定番チャーハンをおすすめしてくれるのはいい店っぽい

MBさん:
“そろそろ違うものを…”は売る側のエゴなんですよね。

コンテンツの仕事をしてる人もよくこのワナに陥りがち。「3年前に言ったからもういいや」は驕り。新規の顧客は理解できないですよね。

天野:
コンテンツの仕事してる人としてグサッときてます(汗)。

MBさん:
僕、メルマガ10年もやってますけど、いまだに“コーディネート診断”に「ドレスとカジュアルのバランス7対3」、思いっきり外れている人からたくさん相談来ますから

いったい何を見てメルマガ登録したんだろう!?(笑)」っていつも思うんですけど、でも「そんなもんだよな」とも思うんですよね。

自分の売っているものや言っていることが、世の中に届いているというのは幻想。絶対伝わらないものなんですよね。


B’zの話からの急激な学び。さすがです

店長時代に売上を爆増させた「絶対に売らないイベント」。どういうこと…?

天野:
MBさんが「MB」になる前の話も聞きたいんですが…

もともと、新潟のアパレル店で店長をやられてたんですよね?

MBさん:
そうです。ちょうどそのころ「ドラッカーってもしかしたらすごいこと書いてるのかも?」と思って、東京で開かれているドラッカー解説セミナーみたいなのに行ってた時期で。

その内容を応用してたら、自分が管轄してるお店で、売上の「昨対130」とか「140」がどんどん出るようになってきて…

天野:
すご。具体的にどんなことを?

MBさん:
いろいろやりましたけど…「売るのをやめた」のは大きかったですね。

「絶対にレジを開けない2日間」というイベントをやったんです。


「絶対に笑ってはいけない」みたいな…どういうこと…

MBさん:
なんでそんなことしたかというと、売っている商品に自信があったからです。

その証拠に、試着したらだいたいみんな買ってくれてたんですよ。ということは、売上を上げるためには「試着してくれる人」を増やさなきゃいけない。

そのときのハードルは何だろう?って考えたときに「お金だろうな」と思ったんですよ。「試着したら買わなきゃいけない」と思うから試着しない。

天野:
それはめちゃくちゃ思いますね…

MBさん:
じゃあもう、「試着だけしてもらうイベント」をやろうと思ったんです。今日と明日は絶対に売らない日ですって告知して。

僕らバイヤーってブランドの展示会でたくさん着て、服を発注するんですけど、すごい楽しいんですよ。それを味わってもらおうって。

お客さんめっちゃ来てくれて、2日間は当然売上ゼロでとんでもないことになったんですけど(笑)、シーズンで見たら、めちゃくちゃ売上上がったんですよ。みんなリピーターになってくれたんですね。


すげ〜。こんな型破りな店長さんがいたのか…

MBさん:
ドラッカーは“天使が社長になっても、利益には関心を持たざるを得ない”って説明してるんです。お金とは「どれだけ喜ばれたか」の指標だから絶対に必要だと利益も出さなきゃいけないと。

一方で「顧客満足度を高めなければいけない」とも言うんです。哲学なんですよね(笑)。

僕は「ムリヤリ売るのではなく、試着し放題というメリットを先に提供する」ことで、顧客満足度と利益の両方を追ったということなんですよ。

天野:
そんな裏付けがあったのか…ヤケクソで「試着し放題」にしたわけじゃないんですね(笑)。

MBさん:
そうです。だから、セールスの仕事をしている人に覚えておいてほしいのは「顧客満足にフォーカスしているんだけど、数字は無視していない」という、矛盾している状態をつくらなければいけないということ。

短期的に売りつければいいっていうのはこれの真逆だから、気をつけたほうがいいですね(笑)。


「これがまさにドラッカーの理論です」

「みんな、時間を軽んじすぎている」

MBさん:
ただ、結局地方の店なのでお客様の数にも限度がある。それで「通販やるしかないな」と思って、個人でいろいろ勉強し始めたんです。

ECという言葉すら知らない状態で、Dellの4万円のノートPCだけ買って、お店が終わったあと近くのスタバで2時まで作業して…

天野:
そこから今のMBさんにつながるんですね。

MBさんがそこまで、“考え抜いて努力する”ことができた理由ってどこにあるんでしょうか?

MBさん:
そこは「どう過ごしたら差別化できるか」っていう考えがあって…

僕は、みんな時間を軽んじすぎていると思いますね。

朝出勤して、1日仕事して、終わったら帰ってテレビ見て、風呂入って寝る…みたいな生活じゃないですか?


そこにプラスして、寝る前にお酒も飲んでます(個人の感想)

MBさん:
センスも工夫も、何も必要ない差別化の仕方って“時間”だと思うんですよ。

1日1時間何かしたら、絶対まわりの人の成果と差別化できると思います。

僕は、1時間でいいから時間を作って「来年はこうしたい、だから来月はこうしていたい、じゃあ明日は何しよう」みたいなことを考えてやってきました。

天野:
レベル低い質問をするんですけど、仕事していると“ああもう今日もこんな時間だ”というのを繰り返してしまって…。時間を作る習慣ってありますかね?

MBさん:
僕は意外と体育会系なんで、「歯を食いしばってやれ」としか…


そんな…(泣)

MBさん:
まあ、これはあんまり言いたくないですけど、一番簡単なのは金かけちゃうことですね。

投資したらみんな逃げないんですよ。

天野:
金…!!

MBさん:
冷静に考えると、僕が東京までドラッカーのセミナーに行って聞いた話って、本に書いてある内容と全部同じなんですよ

古本屋で500円で買える内容を、10万円とか払って学んでるんです。マジで。

そこに何の差があるんだ?って言うと「金」なんですよ。お金ってのは自分の命を削って作ったものなので、人間は払ったぶん取り返そうとするんで。

天野:
たしかにそうですね…

MBさん:
PCを買うとかセミナー申し込んじゃうとか。

ヘンに鵜呑みにして失敗する人が出てもよくないから、あんまりこういう話で「金をかけろ」って言いたくないんですけど…意志が弱くてどうにもならないという人は、最終手段は金かなと思います。



天野:
「来年こうなりたい」という目標から逆算するというお話がありましたが、MBさんは目標をちゃんと立てて、次々と実現してきたんですか?

MBさん:
そうなんですよ。この前うちの母親が、僕が昔書いたメモを見つけたらしいんですけど、そこに今の僕がやっていることが全部書かれてあったって。

母親は「偶然じゃないんだ」と思ってけっこう感動したらしいです(笑)。

店から独立して最初に事務所を借りたときも、ホワイトボードにでっかく「テレビに出る」って書いてたんですけど、先輩が「こんな田舎でコソコソブログやってるやつがテレビなんか出れるわけねーだろ」って言ってたのを覚えてますね…


今ではレギュラー番組も持つMBさん。サクセスストーリーや…

MBさん:
実は、ウチって本当に貧困状態だったんで…

それをなんとかしなきゃっていう気持ちがあったことが、なんだかんだ大きかったと思いますね。金銭への執着が、多分すごく強かったと思います。

まわりと差別化して、どうやったら売れるか考えるということも、自分の育った環境が養ってくれた力なのかなと思いますね。



MBさんは、キャリアをスタートさせた販売員時代にまわりを見て、「『このアイテム、僕も持ってます』『ラスト1点です』とか、ホワホワしたことだけでよく仕事してんなって思った」ことが、さまざまな物事を深く考えるきっかけになったと言います。

そんな素朴な気付きが、「ドラッカー」の教えを経て爆伸び。

“モノを売る”仕事に就いている皆さんは、ぜひ「顧客満足と利益の両立」を意識してみてください…!(難易度高そうだけど…)

〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=森カズシゲ〉

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