サウジ戦とはシステムを変えて臨み、劇的な勝利を飾った森保ジャパン。写真:金子拓弥 (サッカーダイジェスト写真部/JMPA代表撮影)

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 サウジアラビア戦からシステム変更、先発入れ替えといった手を打ってきた森保一監督の積極策が奏功し、日本が瀬戸際から息を吹き返した。

 相手は最終予選3連勝でグループBの首位に立っていたオーストラリア。日本のこの試合にかける思いは、各選手の集中力、テンション、エネルギッシュさといった部分にも見て取れた。スタッツに目を向けると、ボール支配率はサウジアラビア戦よりもむしろ低下(48%から46%へ)している。しかし、むしろそのボールを持っていない時の動きに今回の軌道修正の効果が表われていた。

 基本システムは4‐3‐3。ポイントとなったのは、連動した守備でボールを奪うその手法だ。CFの大迫勇也は相手CBにボールが渡っても、すぐに奪いに行くのではなく、ボランチへのパスコースを切ることに注力。オーストラリアは左右のサイドバックにパスを出すが、それこそが日本の狙いだった。

 その瞬間に中盤を形成した遠藤航、田中碧、守田英正の3選手が両ウイングの伊東純也と南野拓実と連携を取りながら、さらに両サイドバックの長友佑都と酒井宏樹のサポートを受けながら、パスを受けた相手に圧力をかけて攻撃を寸断し、ボールを奪った。つまりボールを持っていない局面でも、日本は試合のイニシアチブを握ることができていた。

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 プレスのかけ方には大別して3つある。1つ目は完全にマンツーマンでディフェンスする方法。2つ目はボール保持者にプレッシャーをかけ、ロングボールを蹴らせる方法。そして3つ目がパスの受け手にプレッシャーをかける方法だ。

 森保監督は4‐3‐3の採用に伴い中盤の枚数が増えた利点を活かし、サイドへとボールを誘導するという3つ目の方法を選択した。しかもこの日は選手間の距離感が適切に保たれ、守備の統一感という点でもサウジアラビア戦との差は歴然としていた。

 攻撃陣の守備面での貢献も光ったが、中でも際立っていたが伊東だ。プレスに奔走しながら相手サイドバックにパスが渡ると自陣まで戻って酒井をサポート。攻撃時にも繰り返しスプリント、縦への突破を披露した。中盤では遠藤と田中の働きが際立った。

 いい守備が、いい攻撃を作るとはよく言われることだが、その大きな恩恵を受けたのが長友と酒井の両サイドバックだ。サウジアラビア戦に比べて両選手の位置取りは明らかに高くなっていた。

 アンカーの遠藤がビルドアップ時に両CBと横並びになるタイミングで、ポジションを上げるメカニズムもしっかり確立。こうやって両サイドバックが幅を確保し、頻繁に攻撃に顔を出す一方で、中央では両サイドハーフの田中と守田が異なる高さでパスコースを作りながら機を見て飛び出しを見せ、前線でも先述した伊東だけでなく、サウジアラビア戦では存在感が希薄だった南野もゴール前に進出する機会が増えた。

 相手を誘導してボールを奪い、連動したパス回し(良好なピッチコンディションも日本を助けた)からゴールに迫る。日本の先制ゴールはサイドでボールを奪った長友のパスを起点に縦に突いた南野がクロスを送り、走り込んだ田中が決めるというまさにその形から生まれた。

 
 後半、一旦オーストラリアに追いつかれたが、試合のイニシアチブは終始日本が握っていた。そんな中、森保監督は古橋亨梧に続いて浅野拓磨を投入。終了間際の86分にその交代で出場した浅野のシュートが相手のオウンゴールを誘い、日本が再び勝ち越しそのまま2−1で勝利を収めた。

 終始押し気味に試合を進めながら接戦になったのは、チャンスを決めきれなかったからに他ならない。しかし今回、消耗戦を制したことは浮上のきっかけにはなりうる。

 個人的に特に印象に残ったのが、チーム一丸となる雰囲気の良さだ。今の日本のように瀬戸際に追い込まれると、往々にしてチームの本性というものが現れるが、この結束力の高さは今後の戦いにおいても大きな強みになるはずだ。これもまた森保監督の功績の1つである。

文●アレハンドロ・アロージョ(戦術アナリスト)
翻訳●下村正幸