潜水艦の動力は主にディーゼル機関と原子力機関で、20世紀末になって非大気依存推進(AIP)機関が実用化されました。費用の面を除けば原子力機関がいろいろな点で優位ですが、技術の進歩によりAIP機関と原子力機関との差は埋まってきているそうです。

Air Independent Propulsion Could Create Silent Killer Submarines | The National Interest

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従来型のディーゼル機関搭載潜水艦(ディーゼル潜)は、ディーゼル機関でプロペラやシステムの動力源となる電力を生成し、潜航時はバッテリーにためておいた電力で航行します。しかし、ディーゼル機関を動かすと騒音が大きく、また、水中では限られている空気を必要とすることから、頻繁に浮上して充電する必要があります。

1950年代に登場した原子力機関搭載潜水艦(原潜)は「静音性が高い」「空気を消費しない」「大出力」という特徴から、行動持続力・ステルス性・速度においてディーゼル潜に対して優位にあり、アメリカ海軍は保有するディーゼル潜を全廃してすべて原潜に置き換えました。ただし、コストの問題から、他の国は原潜を導入していてもディーゼル潜を残している事例がほとんどです。

AIPの概念は19世紀までさかのぼりますが、AIP機関搭載潜水艦(AIP潜)の実用化事例は1996年に就役したスウェーデンのゴトランド級潜水艦が初。ゴトランド級潜水艦に導入されたAIP機関は、液体酸素とディーゼル燃料を組み合わせた熱機関のスターリングエンジンで、21世紀現在、燃料電池、閉サイクル蒸気タービンをあわせた3方式がAIP機関として用いられています。日本でも「そうりゅう型潜水艦」12隻のうち10隻がスターリングエンジンを搭載しています。

全面的に原潜への置き換えを行ったのがアメリカ海軍のみだったのは費用面の問題が大きかったためです。アメリカ海軍が2004年から運用しているバージニア級は1隻で26億ドル(約2860億円)。一方、AIP潜の建造費用は一般に1隻2億ドル(約220億円)〜6億ドル(約660億円)なので、原潜1隻の予算でAIP潜が4隻は配備できることになります。費用の違いは主に原子炉が高価であるという点が大ですが、原潜は1隻に100人以上が乗り込む大型艦が多いのに対し、AIP潜は30人〜60人乗りの小型艦・中型艦が多いという違いもあります。当然、潜水艦が小型だからといって魚雷やミサイルの攻撃力が低いわけではありませんが、大型艦には垂直発射システムなどの武装が搭載可能です。

また、原潜とAIP潜で大きな差がある点として速度が上げられます。速度は戦略的な機動性と戦術的な敏捷性に関わりますが、高速航行は騒音のもとになるため、原潜でも最高速度で航行することはほとんどありません。

アメリカ海軍が運用している攻撃型原潜の場合、潜航時に30ノット(およそ時速56km)以上を維持可能です。一方、AIP潜の代表であるドイツの214型潜水艦は20ノット(およそ時速37km)です。ただし、AIPそのものでの巡航速度は遅く、スウェーデンのゴトランド級の場合、行動持続力を最大発揮するための巡航速度は5ノット(時速9km強)ほどで、水上移動や長距離移動を目的とした航行速度として考えると極めて低速です。これはAIPでは高速航行に十分なだけの電力が生成できないためで、AIP潜は速度を補うためディーゼル機関を搭載しています。

潜水艦の運用において重要視されるポイントの1つがステルス性、静粛性です。2009年にイギリスの原潜「ヴァンガード」とフランスの原潜「ル・トリオンファン」が衝突する事故が起きたように、原潜のステルス性の高さは「お互いに気がつかないレベル」という折り紙付き。

一方のAIP潜は、適切に設計されていればさらなるステルス性を発揮すると考えられています。これは、たとえ騒音の少ない原子力機関といえども油圧装置が音を発するのに対し、AIP機関は事実上無音なためだとのこと。ディーゼル潜もバッテリー駆動時にはAIP潜に匹敵する静音性能を発揮しますが、駆動時間が数時間という点が難点。AIP潜はこの静音性能を数日間維持することができます。

原潜のメリットの1つに、理論上、3〜4カ月連続で潜航可能という点があります。前述の通り、古いディーゼル潜はバッテリー充電のために数時間〜数日おきに浮上する必要がありました。一方でAIP潜で必要な浮上間隔は2週間〜4週間。長距離潜航においては原潜に圧倒的なアドバンテージがあるというわけですが、日本や中国、ドイツのように活動海域の近くに友好港が多数ある場合、この行動持久力の優先度はそれほど高くないと考えられています。