『孤狼の血 LEVEL2』斎藤工&早乙女太一がヤバい!撮影に密着
柚月裕子の小説を原作に、広島の架空都市を舞台に警察とヤクザの攻防を「コンプライアンス一切無視」で過激に描き、映画ファンを熱狂させた白石和彌監督による『孤狼の血』の続編『孤狼の血 LEVEL2』(8月20日公開)。2020年9月29日から11月8日まで35日に及び撮影広島県呉市で行われた、熱気ムンムンの撮影の様子をレポートします!
斎藤工&早乙女太一が魅せる悪の色香
前作で、若頭の一ノ瀬が五十子会長(石橋蓮司)のクビをとった尾谷組。一ノ瀬を演じていた江口洋介といい、鉄砲玉を演じた中村倫也といい、尾谷組は白石監督の言葉を借りれば「イケメン揃い」! 今回、服役中の一ノ瀬に代わって尾谷組を引き継いだのが若頭・橘雄馬、構成員・花田優の2人だ。橘を演じる斎藤工は、映画『麻雀放浪記2020』の撮影中から「もし『孤狼の血』続編やるときは絶対に声をかけてください」と熱烈なアピールをしていたそう。映画『仁義なき戦い』が公開された直後、多くの俳優たちが映画館の公衆電話から深作欣二監督に電話をしたと言われているが、本作で新たに参加した俳優たちもそんな熱い思いでそれぞれの役柄に挑んでいる。
白石監督いわく、クランクイン前から橘という男のコンセプトアイデアが斎藤から次々と送られてきたとのこと。「いろんなアイデアが工くんから送られてきたんですが、一番びっくりしたのは、映画『ジョーカー』でホアキン・フェニックスが演じたジョーカーの写真が送られてきたときですね」と思い出し笑いをするほど、斎藤の熱は高かった。口周りの髭や、胸全面に入ったタトゥーもすべて斎藤のアイデアだ。任侠映画では、数多くのダンディで粋なヤクザが描かれてきたが、斎藤が演じる橘もまた、スクリーンに鮮明な印象を残すはずだ。尾谷組に忠誠を尽くす花田役の早乙女太一もまた、自身初となる極道役に戸惑いながらも静かに自分なりの花田像を作っていた。現場でも、劇中の花田のように斎藤の後ろで静かに佇む。何十年と舞台に立ってきた経験によるものなのか、「よーい、スタート!」の声がかかった瞬間、早乙女の周りに殺気が渦巻き、妖気のようなオーラを纏い始める。「早乙女さんは本当にかっこいいんだよなあ」と、白石監督もその立ち姿を絶賛していた。
尾谷組と上林組、何が違う?
前作では役所広司演じる大上刑事と江口演じる若頭の一ノ瀬が良好な関係を築いていた尾谷組だが、2年後の尾谷組は日岡(松坂桃李)と親しい近田真緒(西野七瀬)が尾谷組の縄張りでスナックを出していたりと相変わらず関係を保っている。だが、日岡の勝手なふるまいに、血の気の多い花田が怒りの感情を抑えきれず衝突したりと、そこはしょせんヤクザと警察、一筋縄ではいかないのが尾谷組だ。尾谷組・組長代行の天木を演じる渋川清彦、斎藤、そして早乙女が揃った姿は、敵対する鈴木亮平演じる上林組組長の凶暴性とは醸し出す雰囲気が全く異なるのが面白い。
前作でも、五十子会の会長と、尾谷組の一触即発のシーンがあったが、今回も上林組と尾谷組が火花を散らすシーンが登場する。橘は上林組の若衆たちをこれでもかと挑発し、花田は腕っ節の強さを見せつける。毎熊克哉、世界的ダンス・パフォーマンスグループ「s**t kingz」(シットキングス)のメンバーでもある小栗基裕ら上林組の若衆を演じる若手俳優たちは劇中で目を血走らせながら尾谷組の連中を罵倒する。
橘はそれを涼しい顔で笑って受け流し、花田は向かってきた男を一発で叩きのめし、尾谷組の存在感を見せつける。ちなみに、早乙女のアクションは撮影当日に作り上げたものだったが、たった一回手本を見ただけで完璧に動きをマスターした早乙女に、アクション監督も驚きを隠せなかった。抱かれたい男ランキング上位の常連俳優である斎藤と、舞台の上で艶やかに舞う早乙女が見せる普段とは全く違う姿と、圧倒的な存在感はとにかく刺激的だ。
斎藤工を悩ませた一つのセリフ
それぞれの俳優たちが、台本を読み、セリフを頭に入れる過程で少なくとも「こんな風に話そうか」という予想はしている。だが、想像していた通りにいかないのが芝居であり、それぞれの芝居が化学反応を起こしまくるのが、白石組の現場だ。俳優たちの芝居を見るのを楽しみにしているところが白石監督にもあるようで、リハーサルでは俳優たちが自分たちの想いのままに演じる。それから白石監督から演出が加えられていく、というのが白石組のスタイルだ。
ある日の午前中、呉の商店街はものものしい雰囲気に包まれていた。上林組が尾谷組を路上で襲撃するシーン。斎藤は、「このシーン、ずっと楽しみにしていたんですよね」と嬉しそうに笑みを浮かべていた。その横では、早乙女が緊張感を漂わせながら眼をギラギラと光らせている。発砲もあった撮影をのちに振り返った早乙女は、「役を演じながらも自分の中に最初に湧き上がった気持ちは、恐怖心だったんです。でもそれもリアルな感情だと思うので恐怖を感じながらも、花田がどうリアクションするかを見てもらいたい」と話していた。死が目前まで迫れば誰だって怖いし、それは極道だって同じで、そんな生々しさを花田の姿から感じで欲しい。
一方、橘もまた同シーンで非常に印象的なセリフを絶叫する。ある伝説的な俳優へのオマージュのような一言なのだが、実はこの一言が斎藤を悩ませていた。斎藤は「最初に台本を読んだとき、白石さん、俺にこのセリフをどんなふうに言って欲しいんだろうって思わず笑っちゃいました」といい、リハーサルでもさまざまな言い回しを披露。そのたびにモニター前の白石監督が楽しそうに笑っていて、『麻雀放浪記2020』というとんでもなくぶっ飛んだ映画を作った2人の絆が感じられた。斎藤の柔軟性あふれる芝居、そこに早乙女の緊張感が加わると一体どんな画ができあがるのか。俳優たちが引き起こす化学反応が見ものだ。(取材・文:森田真帆)