Windows11

Windows 11が発表になった。機能についてはもう色々と記事も出ていることと思う。6年ぶりの「番号アップ」ということもあり、変化点も多い。

その中でも驚きが大きかったのは「Androidアプリが動作する」ということ。もちろん、これにはいくつかの留意点があるのだが。

▲Windows 11上でAndroid版のTikTokが動作している

この機能は、Windows 11において「Microsoft Store」が大幅にリニューアルした結果、生まれたものでもある。

そう考えると、Windows 11最大の変化は「ストアの変化」と言える。それはどういうことなのか、ちょっと解説してみたい。

関連記事:

マイクロソフト Windows 11 発表。正式リリースは年末

Windows 11はゲーミングも強化、Auto HDR や DirectStorage導入

Win 11ではAndroidアプリがウィンドウで動作。Amazonアプリストアと提携

「アプリストア」をめぐるMSの苦闘

Windowsにアプリケーションストアが実装されたのは「Windows 8」からだ。Windows 8が生まれた2012年当時は、AppleとGoogleによる「アプリストア・エコノミー」が急激に立ち上がった頃であり、Windowsもそれを追いかけた格好である。

アプリストア型を採る利点はいくつかある。アプリを探す手間が減り、出元が不確かなアプリを使う必要が減るので、マルウェアの混入リスクも小さくなる。そしてなにより、ストアを運営する企業にとってはそれが収益の素になるわけだ。

だが、Windows、ひいてはPCの利点は「自由さ」にあった。

Windows 8で「Windows Store」を導入した際、アプリケーションモデルとして、今まで(そして今も)Windowsで広く使われている「Win32 API」ベースではなく、「モダンUIアプリ(WinRT)」が採用された。結果としてPCの良さである「アプリ資産」が活かせず、利用は広がらなかったのだ。

その後Windows 10になり、アプリストアが2017年から「Microsoft Store」になった。新しいアプリフレームワークとして「UWP(Universal Windows Platform)」が登場し、さらにその後、Win32 APIで作られた既存のアプリをパッケージングしてMicrosoft Storeで配布することが可能になった。現在は自社のWordやExcelなどOffice 365関連アプリだけでなく、Appleの「iTunes」などもMicrosoft Storeから入手可能になっている。

▲Windows 10の「Microsoft Store」は、ゲームもあるし、iTunesまでダウンロードできる。だが、利用率は決して高くない

だがそれでも、Windows利用者の中でMicrosoft Storeを積極的に利用している……という人は少ないのではないだろうか。従来のアプリ配布方法に比べ、自由度が低いことに変わりはなかったからだ。

アプリの「出元」が明確になるのでマルウェアが混入しづらい、ということ、そして、機器を乗り換えた時でもアプリを探すのが簡単になる、という意味でも、「公式ストアを使う」ことの意味はあると思う。

事実、ゲームではSteamやEpic Storeなどを使うのが当たり前になってきたし、AppleはMacでもAppStoreの利用を基本にしている。

だが、Windowsではそれがなかなか定着して来なかった……というのがこれまでの経緯である。

「11」でストアを大幅刷新

Microsoftは、Windows 11でそこに大きくメスを入れた。

▲Windows 11のMicrosoft Store。Office 365からAndroidアプリまで、なんでも配信できる場所に様変わりする

まず、パッケージングしないWin32アプリも配信可能にした。これで、アプリ配布のハードルは下がる。

次に、収益モデルを変えた。

開発者85:Microsoft15というレベニューシェアモデルが維持されるのだが、それだけでなく「ロイヤリティフリー」、すなわち開発側の取り分が100%、というモデルも用意される。

ただこちらは、「決済に各社独自のものを使う場合」という条件が付く。

例えばAdobeのような企業は、自社でアプリのサブスクリプションを提供しているし、そのための決済機能も持っている。だから、他社のストアを使う必要はあまりない。

しかし、新しいMicrosoft Storeのモデルであれば、決済を自社で行うことにより場をタダで使えるわけで、利用率が高くなる可能性がある。

▲Adobeのように自社ストアを持つ会社でも、ユーザーへの窓口として「無料」でMicrosoft Storeを使えるようになる

そうすると結果としてMicrosoft Storeの価値が上がり、「自社決済を持たない事業者」がMicrosoftに決済を委託する例が増え、ビジネス価値が高まる……という流れになるだろう。

x86でもARMでも。「11」ならAndroidアプリが動く

そして、Microsoft Storeの利用を拡大する最大の策が「Androidアプリの動作」というわけだ。

MicrosoftでWindows General Managerを務めるアーロン・ウッドマン氏は、Androidアプリの動作方法について次のように説明する。

▲MicrosoftでWindows General Managerを務めるアーロン・ウッドマン氏。発表会後に筆者のオンライン取材に応えてくれた

「Windows 11の上にAndroidアプリを動かす機能が追加されます。x86とARMでは、Androidアプリを動かすための基盤技術が違いますが、表面上違いは見えず、使う側が違いを意識する必要はありません」

すなわち、ARM系プロセッサーで動くことが多いAndroidアプリでも、x86で動作しているWindowsの上で動かせるわけだ。そしてもちろん、同じARM系である「Snapdragon搭載Windows機」でも、Androidアプリは動く。

前述のように、Microsoft Storeは「自社のストア」であると同時に、他社のストアを中に入れ、決済もそちらへと受け渡す「メタストア」になる。その構造を生かし、Androidについては独自ストアを展開するAmazonと提携、Amazonが主にFireタブレット向けに展開してきた「Androidストア」を中に組み込む形で展開する。

▲Microsoft Storeの中に「AmazonのAndroidアプリストア」が組み込まれる形になり、まずはここからAndroidアプリが供給される

では、なぜAmazonなのか? Googleなどが追加される可能性はないのだろうか? ウッドマン氏は次のようにコメントしている。

「公表されていないパートナーシップや可能性についてはコメントを差し控えます。私たちの方向性は、複数のストアと協力して、アプリケーションをWindowsに導入することです。Amazonとの共同によりAndroidアプリストアを追加しましたが、これが最後でないことを願っています。お客様が望んでいることを実現するために、可能な限り多くのストアを提供したいと考えています」

Android対応は「ゲーム」に影響大、「Xbox」連携も追い風に

ただ、率直に言ってPCで動かしたいAndroidアプリはそこまで多くないかもしれない。今は多くがウェブサービスでも代替可能だし、本格的なプロダクティビティアプリはWindowsの方にある。

だが、ゲームやいくつかの動画配信など、よりカジュアルなものはAndroidアプリの方が多く、そこに魅力を感じる人もいるはずだ。

逆に言えば、Windowsという極めて大きな存在が、ある日いきなりAndroidアプリの市場になり、そこにAmazonが絡んでくるわけで、ゲームメーカーなどにとっては非常に気になる存在となるだろう。

そしてもちろん、ゲームと言えば「Xbox」。Microsoftは、会員制の「Xbox Game Pass」に力を入れており、クラウドゲーミングも可能になっていく。

Windows 11では、高性能なゲーミングPCでのプレイに必要な機能も拡充されたが、Game PassがOSに組み込まれたこともあり、こちらも「ストア」としての機能が強くなる。ただし、Game Pass利用には、サービス利用料金の支払いが必要になる。

▲Xbox Game Passの機能は「OS組み込み」になり、使い始めるハードルが下がる

コアゲーマーはゲーミングPCを持っているのが当たり前になったが、今後はよりカジュアルな層も「仕事の合間にちょっとゲーム」「動画を楽しんだ後にちょっとゲーム」といったようにPCを使ってゲームする機会が増えるのかもしれない。

そういう意味でも、「ストアの変化」がWindows 11のキモである……と言い切って間違いはないのだ。