日産と三菱は「クルマだけ」では解決不可能な現実を知っている

 日産自動車は、2010年に初代リーフの発売を開始し、以来11年のEV販売実績を持つ。eNV200というミニバンも車種追加したが、今後のアリアや、軽自動車のEVとして東京モーターショーで公開したIMk以外に、EVの話は聞こえてこない。三菱自動車工業も、2009年にi-MiEVを発売したが、現在ではEVの販売を終えている。

 日産がいま力を注ぐのはe-POWERであり、三菱自はアウトランダーやエクリプスクロスなどでのプラグインハイブリッド車(PHEV)を電動化の主力と位置付けている。

 近年、輸入車を中心にEVの導入が盛んになりつつあり、国内でも、ホンダe、マツダMX-30、レクサスUX300eなどのEVが登場しはじめた。先行する日産と三菱自は、なぜ攻勢に出ていないように見えるのだろう。

 最大の理由は、充電の社会基盤整備が進まないためだ。ただし、世の中で広くいわれる急速充電器が足りないという話とは違う。

 私が何度も繰り返していっているように、マンションなど集合住宅の管理組合という障壁によって、自宅の駐車場に200Vの普通充電設備を設置できない状態が10年以上続いているからだ。加えて、昨今のEVやPHEVに対する人気の高まりに対し、まだ設置数の限られる集合住宅の充電器利用について、住民とマンション業者との間で訴訟問題も起きている。

 政府の成長戦略に、2030年に充電器を3万基設置するとの方針が出されたが、急速充電意をガソリンスタンド並みの数そろえても意味がない。3万軒のガソリンスタンドでも、すでに不便なのだ。補助金や減税をすれば、つまり金を投じれば解決する問題ではないのだ。

集合住宅の充電器整備が進まねば日本でのEV普及はない!

 EV普及には、管理組合やマンション業者による自宅の普通充電器の設置や利用を促進する対策を、政府や自治体がある程度強制的に行わなければ、日本はEV後進国になる。

 たとえば英国では、EVの購入希望者が集合住宅に住む場合、駐車場に充電設備を設置できるような政策がとられているという。

 自宅に充電設備が整備されていくことではじめて、駐車中のEVから電力を住まいへ供給するヴィークル・トゥ・ホーム(V2H)を実現でき、それによって地域や国の電力需給を平準化する道も拓ける。それは、日本のエネルギー保障にもつながる。

 日産は、すでに初代リーフの時代に、マンション業者と一緒に管理組合を説得する試みなど、集合住宅に住む人が自宅で充電できるような努力を重ねてきた。しかし、一社の取り組みだけで社会を動かせていない。それを知っているからこそ、日産は無理をしないのだ。

 日本のほかの自動車メーカーや、海外メーカーは、国内事情を理解していない。だから、一方的にEVを導入している。ただし輸入車でも、早くからEVやPHEVを販売してきたインポーターは、営業の苦しみを知っている。しかし、自動車メーカーに比べ規模の小さなインポーターの努力だけでも、先へは進まないのだ。

 トヨタが、EVシフトを考えているのなら、まず管理組合問題の解決に乗り出すべきである。同時に、国内5000店規模とされる販売店に、誰もが使える急速充電器を通り沿いに設置すべきだ。そうすれば、あっというまに5000基の急速充電器が備わり、合計1万2800基の急速充電器が整う。これに、ホンダとマツダが加わればさらに3000基ほどの上積みになる。ところが、ホンダもマツダも十分に手配できていない。

 日産が孤軍奮闘してきた土俵にタダ乗りしようとする姿勢は見苦しい。自動車工業会も、そうした視点で自らEV普及のための基盤整備を目指すとともに、補助金行政の転換を働きかけ、まともな政策論議をすべきだ。