相場展望6月10日 米経済指標の成長率は高水準ながら、伸び率は鈍化 人手不足と物価上昇が深刻化すると景気後退リスク増す
■I.米国株式市場
●1.NYダウの推移
1)6/7、NYダウ▲126ドル安、34,630ドル(日経新聞) ・米国でワクチン接種が進み、新規感染者数が減少傾向にある。各州で行動制限を緩める動きが広がり、6/7にクルーズ船のカーニバルが7月上旬から米国で運行再開をすると発表した。 ・米経済活動の正常化期待で買い先行し、5/7の史上最高値を更新した。買い一巡後は、景気敏感株に利益確定売り優勢となり、下落した。 ・FRBの金融政策の行方を見極めたいと、6/10発表の5月消費者物価指数(CPI)を確認したいと買いが見送られる面もあった。【前回は】相場展望6月7日 米イエレン財務長官『インフレと金利上昇を容認』発言? 米好景気で人手不足なのに、なぜ雇用は戻らないのか? ⇒ 米経済成長の持続にとって阻害要因
2)6/8、NYダウ▲30ドル安、34,599ドル(日経新聞から抜粋) ・5/7に史上最高値に迫った高水準のため、高値警戒感から売りが出て、続落した。ただ、米経済の回復に着目した買いも入り、もみ合う展開となった。 ・米労働省発表の4月雇用動態調査では、非農業部門の求人件数は928.6万件と過去最高を更新した。ワクチン接種普及による経済活動の正常化で企業の求人が急増しており、労働市場の改善を裏付けた。
3)6/9、NYダウ▲152ドル安、34,447ドル(日経新聞) ・長期金利低下でハイテク株には買い。 ・消費者物価指数(CPI)の発表を6/10に控え、様子見姿勢が強く、引けにかけて売られた。
●2.米国株は、テーパリング(金融緩和の段階的縮小)の動向に関心が向き、方向感の無い状況
1)テーパリングに関する重要経済事項に注目したい (1)5月米消費者物価指数、6/10発表 (2)米連邦公開市場委員会(FOMC)、来週開催2)米求人件数は928.6万人で過去最高と、人手不足が深刻化。時給の上昇は、過去2カ月間で年率+7.4%のペースで上がっているが、その上昇率は過去と比べ2〜3倍の水準となり急騰している。物価上昇も顕著となってきた。
3)ただし、深刻な人手不足と、物価上昇圧力で、経済指標の伸び率に鈍化が散見できるなど、米景気成長率が減速する可能性を帯びてきた。今週、米10年国債利回りは低下基調で、6/9に1.492%まで下がったのは、債券市場では景気後退を先読み始めた可能性があり得る。
4)さらに、米インフラ投資計画は、共和党と決裂し行き詰まり、政治の混迷化が経済界に影響を及ぼすことが気になる展開を見せる可能性がある。
5)以上のような状況において、FRBの政策決定がますます重要性を増してきた。今まで以上にFRBの動向を注意深く見ていきたい。
●3.イエレン財務長官の発言が明確に豹変:「インフレは一時的」⇒『インフレ、金利高は良いこと』
1)FRBは、既にステルス・テーパリング実施決定 露払いの第1歩として、既発の社債購入分137億ドル(約1兆5,000億円)の売却開始へ。2)FRBが重視する「雇用」と「インフレ」。 ・6/10発表の、「消費者物価指数(CPI)」に注目。
●4.バイデン政権はインフラ計画で共和党との協議が6/8に決裂、政権は別の交渉模索(日経新聞)
1)相違点 (1)インフラ投資計画 : バイデン政権は投資額2超兆ドル超⇒1.7兆ドルに譲歩。 共和党は0.928兆ドルを主張。 (2)増税 : バイデン政権は企業増税で財源を賄う考えを譲らなかった。 共和党は、未使用の新型コロナ対策費用を財源に充てると主張した。2)それぞれの主張(時事通信) (1)バイデン政権 : 共和党案は、道路や橋の再建、クリーンエネルギーに向けた将来への準備、雇用創出に不可欠なニーズを満たさない。 (2)共和党 : 大統領は増税を主張し続けたと、失望感を表明した。
●5.米上院が中国への対抗で、先端技術の強化法案を可決(テレ朝より抜粋)
1)米国の上院はAI(人工知能)や半導体などの先端技術で、中国と対抗するための巨額予算(5年間で2,500億ドル、約27兆円)を織り込んだ法案を超党派の多数で可決した。2)6/8に可決された「アメリカ・イノベーション競争法案」は、 (1)AIや次世代通信ネットワークの5G (2)量子コンピューター (3)ロボット (4)半導体 といった安全保障にも関わるハイテク分野で、中国に対抗するための競争力を高めることが柱です。
3)また、この法案では来年の北京オリンピックへの選手団の派遣を認める一方で、政府関係者の派遣を取りやめる「外交的ボイコット」を求めている。
4)バイデン大統領も法案通過を歓迎し、下院で可決されれば成立する見通し。
●6.米NYダウ、熱狂無き最高値の攻防、格言「単調な相場では決して売るな」(日経新聞)
1)NYダウは5月最高値を目前に足踏みが続き、高値付近でも盛り上がりを欠いている。米相場の格言が、今の状況を的確に表現している。■II.中国株式市場
●1.上海総合指数の推移
1)6/7、上海総合指数+7高、3,599(亜州リサーチ) ・半導体株の上昇が相場全体を支える流れとなり、小幅続伸した。 ・反面、不動産株が冴えなかった。2)6/8、上海総合指数▲19安、3,580(亜州リサーチ) ・物価統計が6/9に発表されるが、内容を見極めたいとするスタンスが強まった。 ・最も、大きく売り込む動きは見られなかった。 ・中国国家衛生健康委員会はワクチン接種率目標を年末までに70%以上に引き上げた。
3)6/9、上海総合指数+11高、3,591(亜州リサーチ) ・商品市況が相場を支える流れとなり、資源・素材株が上げを主導した。 ・経済指標では、消費者物価指数(CPI)が下振れする反面、生産者物価指数(PPI)は上振れるなどまちまちの内容となった。
●2.中国・商務省は6/9、今年の貿易は楽観視できないとの認識を示した(ロイターより抜粋)
1)中国の貿易を取り巻く環境は依然として複雑だとし、楽観視できないとWEBに掲載した報告書で指摘した。●3.中国・5月貿易収支+455.3億ドルの黒字だが、市場予想+507.5億ドルを下回った(フィスコ)
●4.中国の不公正な通商慣行に、米バイデン政権は特別チームが対処すると6/8発表(ロイター)
1)半導体や電気自動車(EV)バッテリーなど重要製品の米国入手について検討結果を公表。 ・半導体 ・モーターなど産業用に使われるネオジム磁石 ・医薬品の原料 ・レアアース など。2)政府補助金や知的財産の移転強要など不公正な通商慣行を確認した。
●5.中国は、外国が中国を制裁した場合に反撃する法案「反外国制裁法案」をスピード審議し可決か(テレ朝)
1)中国外務省副報道局長「国家主権や核心的利益を断固として守る」「やられたら、やり返す」と語った。●6.中国・5月生産者物価指数は、前年比+9.0%で、市場予想+8.5%を上回った(フィスコ)
1)世界の商品価格の上昇が影響し、2008年以来の高い伸びとなった。(ブルームバーグ)4月は+6.8%の上昇だった。●7.中国は6/8に米国に警告、台湾との貿易協議の開始示唆で(AFP)
●8.中国国防部、米議員の台湾訪問に猛反発、「台湾との分裂図れば解放軍は一切の代価惜しまず」(産経新聞)
●9.中国・5月消費者物価指数は、前年比+1.3%で、市場予想+1.6%を下回った(フィスコ)
■III.日本株式市場
●1.日経平均の推移
1)6/7、日経平均+77円高、29,019円(モーニングスター) ・米国市場先週末の上昇を受けて、寄付き直後に+299円高と上昇したが、買い一巡後は戻り売りで上げ幅縮小した。 ・市場からは、「国内に材料は無く、上がれば利益確定売りが出て重くなる。米インフレ懸念の警戒感が強く、6/10発表の米5月CPI(消費者物価指数)を見極めたい」との声があった。2)6/8、日経平均▲55円安、28,963円(日経新聞) ・エーザイなど医薬品株の物色が活発化して上げ幅を+120円まであったが、上値抵抗線の29,000円当たりからは戻り待ちの売りが多く、押されて下落した。
3)6/9、日経平均▲102円安、28,860円 ・米CPI発表前に、持ち高整理の手仕舞い売りが見られた。 ・このところ目立つのは米長期金利の低下だ。米景気後退で物価が上がらない「ディスインフレ」時代の再来ではないかといぶかる向きもある。
●2.企業動向
1)岩谷産業 水素事業に600億円投資(日経新聞) 2)東芝 自社株買(1,000億円を上限、発行済み6%)を決議(ロイター) 量子暗号通信で600キロの伝送通信に成功、5年内に実用化(共同通信) 現在、製品化されているシステムの通信距離は100〜200キロ程度。 3)エーザイ アルツハイマー病新薬、米食品医薬品局が条件付き承認(読売新聞) 追加試験で、効果が認められないと判断すれば承認取り消し 米製薬企業バイオジェンと共同開発 米国での患者1人当たり年間費用は5.6万ドル (ブルームバーグ) 高額な在宅医療や介護施設でのケアを回避できる可能性がある。 4)ロート製薬 痔治療薬「ボラギノール」の天藤製薬を90億円で子会社化(時事通信) 5)トヨタ 半導体不足で、宮城県・大衡工場で3日間生産停止(東北放送) 6)ヤマダ 大塚家具(▲23億円最終赤字)を完全子会社へ(NHK) 7)コーナン商事 旧村上ファンド系の投資会社シティが、5.19%の株式取得(朝日新聞) 8)塩野義 コロナワクチンを年内3,000万人分を新工場で量産(読売新聞)治療薬の治験も始め、飲み薬での実用化を目指す。■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)
・7244 市光工業 自動車部品。増益。 ・4612 日本ペイント 塗料。業績堅調。 ・6395 タダノ 建設用クレーン、高所作業者。業績回復。執筆者プロフィール
中島義之 (なかしま よしゆき)
1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。