ようやく日本もワクチン接種が軌道に乗ってきた。だがわが国の「コロナ耐性世界ランキング」は急落。一方でアメリカは日本を抜いて浮上した。結局のところ、何が根本的に違うのだろうか(写真:アフロ)

アメリカのブルームバーグ社が行っている「Covidレジリエンス(耐性)ランキング」という企画がある。これは世界各国で、どの国がコロナ対策に成功しているか、毎月の症例数や死亡率、検査陽性率やワクチンの接種人口などを指数化してランキングにしているものだ。

「コロナ耐性ランキング」で日本は米国に抜かれ14位


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4月調査では、日本は世界第7位と健闘していた 。いや、真面目な話、この国の現状は「さざ波」と呼ぶとさすがに語弊があるが、世界的に見ればそれほど悪くはない。なにしろ全世界で300万人以上が死亡しているなかで、1億2500万人もいる国(世界の人口の1%以上!)としては、現時点の死者数約1万3000人は、少なくとも国民の立場からすれば一定の評価があってもおかしくはない。

ところが5月調査では、いきなり14位に落ちた 。変異種による感染も広がったが、何よりワクチン接種の出遅れが響いている。逆にアメリカがランクを上げて、日本の1つ上の13位につけている。人口100万人当たり1782人もの死者を出しているとはいえ、ワクチン接種人口が44.5%もあるのだからたいしたものだ。

これまではニュージーランドや台湾のように、うまくコロナを封じ込めている国が評価されてきた。しかしその場合、国民の危機意識は薄れるので、ワクチン接種ではどうしても後れを取る。かつての優等生・台湾もここへきて感染が急拡大し、5月は一気に5位から15位に転落した。やはりワクチン接種こそが「ゲームチェンジャー」であって、新型コロナ対策の手法が変化しているようだ。

そこで問題のワクチンなのだが、わずか1年で開発成功から生産、接種にこぎつけたアメリカは、久々に「本気になった超大国」の凄みを見せつけた。昨年5月15日、当時のドナルド・トランプ大統領は「オペレーション・ワープ・スピード」(OWS)に着手した。SFドラマ『スター・トレック』に登場する超光速航法の名を取って、「ワープの速さでワクチンを開発するぞ!」というプロジェクトを開始したのである。

ペンタゴンのホームページに一般向けのOWS解説記事がある 。これを読むと、普通にワクチンを開発→治験(1次から3次まで)→生産→配布→接種という正規の手続きを踏むと、いかなアメリカといえども73カ月(つまり6年以上)かかるという想定であった。

大胆に「見切り発車」を許したアメリカ

それを14カ月に短縮し、「安全で効果的なワクチン3億回分を2021年1月1日までに供給する」ことをミッション(使命)に定めた。具体的には、以下のような工夫が盛り込まれている。

「複数のプロジェクトを並行させ、有望なものは開発途中から治験を開始する」「事前に3万人のボランティアを集めて、早期承認のためのデータを収集する」「治験の最中から生産に踏み切る」「ワクチンが完成する前から、配布と接種の準備を始める」

特に製品ができる前から生産に踏み切る、というのは文字通りの「見切り発車」である。後で「ダメでした」となるかもしれず、その場合は投入した予算が無駄になる。とはいえ、アメリカの総人口は3億3000万人。たとえワクチンが完成しても、それだけの数量を用意できなかったら意味がない。事態はまさに「ワープスピード」を必要としていたのである。

そこで開発しながら治験をし、治験をしながら生産し、その間に配布から接種の計画を立てておく。そうでないと間に合わないから。いやもう「後手後手」批判が絶えない日本政府とはえらい違いである。もっともこれと同じようなことを日本でやろうとしたら、官僚は「法律にありません」と首を振り、野党は「失敗したら誰が責任を取るんだ!」といきり立ち、マスコミは「税金の無駄は許されない!」などとのたまうことだろう。

今から振り返ってみると、ワクチン開発の「キモ」は同時に多くの種を蒔くことにあった。OWSは「官民連携パートナーシップ」(PPP)なので、投入された資金は110億ドル(約1.2兆円)とけっして巨額ではない。その資金を受け取った医薬会社は8グループである。

そのなかからアメリカのジョンソン・エンド・ジョンソン、モデルナと英国のアストラゼネカの3社がワクチン開発に成功した。もし各社が自由に競争していたら、二重投資が起きたりしてさぞかし効率が悪かったことだろう。それぞれが違うアイデアに全力投球したおかげで、複数のワクチンという果実が得られた意義は大きい。

さらに最大手のファイザーは、資金力に自信があったので公的資金を受け入れなかった。そのうえで独自にワクチンを完成させたのだが、これもアメリカ政府による先行買い入れの対象となった。昨年秋、未承認の段階でファイザーに対して1億回分(5000万人分)のワクチンを発注している。これまた思い切った手段だが、これでファイザーも晴れてOWSの仲間入りとなった。「メンツにこだわらない」というのも、有事には重要なことである。

アメリカの感染症対策には「軍事面での蓄積」

ちなみにアメリカで緊急承認が下りたのはファイザー、モデルナ、ジョンソン・エンド・ジョンソンの3社である。アストラゼネカの分は下りていない。もったいない話にも思えるけれども、ここは監督当局のFDA(食品医薬品局)が筋を通しているのであろう。

OWSにはFDA以外にも、CDC(疾病対策センター)、NIH(国立衛生研究所)、BARDA(生物医学先端研究開発局)、HHS(保険福祉省)など多くの省庁が参加している。が、COOとして指揮を執ったのはギュスターブ・ペルナ陸軍大将であった。有事対応であるから米軍が元締めとなり、トップは軍人なのである。これも日本では考えにくいことであろう。

アメリカでは2001年に炭疽菌テロ事件があり、以降はバイオテロリズムへの備えがなされてきた。当時、外交シンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)が”Dark Winter”(暗い冬)というシミュレーションを実施して、注目を集めたことを懐かしく思い出す。アメリカの感染症対策には、軍事面での蓄積があったことを忘れてはならないだろう。

かくして、わずか1年で複数のワクチンが開発され、しかもかなりの量が完成したお陰で、アメリカの感染者数は激減している。この調子でいけば、来月の独立記念日(7月4日)には、文字通りコロナからの独立を果たせそうである。当日の花火は賑やかなものになるだろう。皆が一斉にマスクを捨てる、といったパフォーマンスがありそうだ。

ちなみにOWSをスタートさせたトランプさんは、3月10日にこんな声明を発表してボヤいておられる。

“I hope everyone remembers when they’re getting the COVID-19 (often referred to as the China Virus) Vaccine, that if I wasn’t President, you wouldn’t be getting that beautiful “shot” for 5 years, at best, and probably wouldn’t be getting it at all. I hope everyone remembers!”

皆に覚えておいてほしいのだ。Covid-19(またの名をチャイナ・ウイルス)のワクチンを受けるとき、私が大統領でなければその「ビューティフル・ショット」(訳注:このショットは「注射」とゴルフの「ショット」をかけている)は、5年は遅れたか、まったくできなかったであろうことを。頼む、忘れないでくれ!

OWSが成功を収めてくれたお陰で、日本にも輸入ワクチンが大量に回ってきた。日本政府は、すでに3億回以上の供給を受ける契約を締結済みだ。6月1日時点で、接種数は医療従事者が779万人、高齢者が620万人、合わせて1399万人と総人口の1割を超えている 。

「打ち手が足りない」「予約が取れない」などと騒いでいるけれども、ワクチンが確保できない国から見れば贅沢な悩みであろう。日本という国はつくづく動き出すまでに時間がかかるのだが、動き始めるとそれから先は意外と早いのだ。

ところで筆者がOWSの仕組みに感心していたところ、会社の同僚からこんな声をかけられた。「この手のプロジェクト・マネジメントは、日本の自動車会社のお家芸なんだけどなあ。研究開発、設計、製造、販売、管理などを一貫させて、工期を短縮するのはごく普通にやっていること。民間企業でできることが、なぜお役所じゃ無理なんだろう?」

いや、おっしゃる通り。別に日本政府の弁護をする義理はないのだが、命が懸かった問題になると誰もが腰が引けるし、医療という高度に専門的な分野であるし、そしてやっぱり組織の縦割りの問題がある。

特にわが国の厚生行政が、まことにまだるっこしいものであることは、この1年でよ〜くわかった。このところ官邸はブチ切れ気味で、地方自治体との折衝は総務省にやらせ、大規模接種は防衛省に発注し、ワクチン確保の交渉は外務省にやらせている。

どうやら菅義偉総理の頭のなかには、「ワクチン→五輪→総選挙!」というシンプルなシナリオが描かれているようだ。「一点突破、全面展開」というやつで、今のような四面楚歌状態では、それくらい単純な作戦のほうがよさそうだ。

その成否はさておいて、筆者としてはこれから先のワクチン接種が「ワープ」は無理としても、せめて「音速」ぐらいで進むことを祈るばかりである(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。

さて、競馬である。この週末は安田記念(6日開催、東京競馬場第11レース、芝1600メートルのG1競走)が行われる。

同じコースで行われた3週前のヴィクトリアマイル(牝馬限定のG1)では、グランアレグリアが4馬身差で圧勝した。ラジオ日経の小林雅巳アナは、「強い。それはなぜか。それはこの馬がグランアレグリアだからです!」とコールした。痺れるような強さであった。

安田記念の本命はあえて「あの馬」で勝負

普通に考えたら、グランアレグリアで決まりである。しかし、1年前に同じヴィクトリアマイルを圧勝したアーモンドアイ(史上初のG1 9冠馬)は、中2週という強行軍が祟ったか、安田記念では2着に敗れている。それに牝馬だけのヴィクトリアマイルと、牡馬と戦う安田記念では雰囲気も違ってくる。一抹の不安がないとは言えない。

そこであえて本命にはインディチャンプを採る。このレースでは去年は3着、一昨年は1着と安定感は随一。鞍上の福永祐一騎手は先週も日本ダービーに勝って絶好調。そのインディチャンプを軸に3連複で流す。相手はグランアレグリアとサリオス。後はシュネルマイスターとラウダシオンの合計6通りの組み合わせとなる。

順当にグランアレグリアとサリオスが相手なら、これはとっても安い馬券となる。でも、荒れるとなれば俄然おいしいレースとなるはず。ここは不確実性があると見て、柔軟に構えたい。パドック次第では、ダノンキングリーを組み込むのも一案だろう。