65歳にしてこのバイタリティ。そのタフな姿以上に驚かされるものとは?(写真:日刊スポーツ新聞社)

2020年も残りわずかとなり、テレビでは連日の年末特番ラッシュ。各局がこの時期だけの大型特番を放送していますが、最も出演数が多いタレントは明石家さんまさんで間違いないでしょう。

13日「誰も知らない明石家さんま」(日本テレビ系)
19日「第8回明石家紅白!」(NHK)
24日「アウト×デラックス クリスマス・イブ生放送1時間SP」(フジテレビ系)
「明石家サンタの史上最大のクリスマスプレゼントショー2020」(フジテレビ系)
26日「嵐にしやがれ 最終回」(日本テレビ系)
27日「爆笑!明石家さんまのご長寿グランプリ2020」(TBS系)
「歌ネタゴングSHOW爆笑!ターンテーブル」(TBS系)
29日「超特大!さんま御殿!!豪華芸能人&今年の顔が大忘年会SP」(日本テレビ系)
30日「アメトーーク5時間SP」(テレビ朝日系)

これ以外にも、「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)、「さんまのお笑い向上委員会」(フジテレビ系)などのレギュラー番組にも出演しているのですから、現在65歳のさんまさんが「いかにタフか」がわかるのではないでしょうか。

しかし、そのタフさ以上に驚かされるのは、さんまさんが「年末特番限定ではないか」と思わせる意外な姿を見せていること。それはどんな姿であり、どんな思いが感じられるのでしょうか。

父性を感じさせる穏やかな振る舞い

まず「誰も知らない明石家さんま」は、“さんまの知られざる顔を紹介する”というコンセプトそのものが異例の特番。2015年のスタートから毎年11月に放送されていましたが、ここ2年は12月に変わりました。つまり、「12月に明石家さんまがふだんとは異なる姿を見せる」シンボル的な番組となっているのです。

今年は息子の大竹二千翔さんが登場し、仕事を減らして育児したり、ぜん息で苦しんだときに手を握って徹夜で看病したりなど、さんまさんのよき父親ぶりを披露。さらに、「考え方、人への態度、生きざまは見習わせてもらっていて僕の資産になっています」「90歳くらいまで長生きしてずっとそばにいてほしい」「今まで出会った人間の中で、人間的にいちばんかっこいいし、素晴らしいと思っているので、尊敬しています。最高の父親です」と語りました。

二千翔さんは元妻・大竹しのぶさんの亡き前夫との間に生まれた子であり、さんまさんとは血のつながりこそありませんが、素晴らしい親子関係があることが明らかになったのです。この映像を見たさんまさんは、「これはちょっとな……反則技。これは保存版に」とうれしさを隠せず、ふだんのように笑いにもつなげず、「心のない男」というキャラクターの東野幸治さんに涙を流させました。

次に「第8回明石家紅白!」では、MCとして瑛人さん、Snow Man、櫻坂46と活動歴の浅いアーティストに対応。トークを広げて盛り上げただけでなく、瑛人さんのリクエストに応えてギャグの指導をしたり、Snow Manメンバーの持ちネタに1つ1つホメたり笑い転げたり、櫻坂46は最年少15歳の山崎天さんに高速ツッコミを入れるなど、いずれも若手をリラックスさせ、親しみやすい一面を引き出すことを優先させていました。

この特番は「実は音楽通のさんまが“今、会いたいアーティスト”を呼んで自分なりの紅白歌合戦を行う」というコンセプトですが、やはりふだんの“お笑い怪獣”ではなく、どこか父性を感じさせるような振る舞いだったのです。

少し引いた位置から盛り上げる人情派

「明石家サンタの史上最大のクリスマスプレゼントショー2020」では、浮気された女性にアドバイスしたり、コロナ禍で卒業の時期を逸したAKB48・峯岸みなみさんに笑いながら同情したりなどの優しい対応を連発。さらに応募者の「建築関係」「トントントン……」、「カットでお願いします」「できるか!」というお約束のボケにつき合う形で盛り上げました。つまり、素人の雑なボケに1つ1つ生放送で応じていたのです。

また、「爆笑!明石家さんまのご長寿グランプリ2020」では、一般のお年寄りに敬意を表すように、終始さんまさんは一歩引いたスタンス。お年寄りたちの姿を見て、どの番組よりも笑い、ほめ称えるなど、ふだんよりボケやツッコミの数が少なく、笑いを取るより盛り上げ役に徹していました。さんまさんは「この特番のメインはお年寄りで自分はサブ」というスタンスで、まるで視聴者のように見守り、楽しんでいたのです。

これら4つはすべて、さんまさんの名前をつけた冠番組であり、その話術や笑いをベースにした企画。ふだん以上に「何でも笑いにつなげておいしいところをかっさらってしまう」という“お笑い怪獣”ぶりを見せてもいいのですが、むしろ少し引いた立ち位置から出演者の魅力を引き出す人情を見せていたのです。実際、「明石家紅白」の若手アーティスト、「明石家サンタ」の一般人、「ご長寿グランプリ」のお年寄りが生き生きとした姿を見せていたことが、さんまさんの人情を物語っていました。

「ゲスト出演」で醸し出す年末の特別感

さらに、さんまさんが年末特番だからこそ見せる、もう1つの姿は、MCではなくゲストとしての出演。

「アウト×デラックスSP」は、本来その後に放送される「明石家サンタ」の番宣が目的のサプライズ出演でしたが、さんまさんは予定されていた終了5分前ではなく、20分前に登場。MCのマツコ・デラックスさんに「マツコ。(『ホンマでっか!?TV』の降板以来)ひさしぶりやな、お前」と生々しいトークで笑わせたあと、広瀬香美さん、山里亮太さん、加藤諒さん、坂口涼太郎さんらにボケを振り続けて、年末特番らしい特別感を生み出していました。

次に「嵐にしやがれ 最終回」では、嵐とゲストがご褒美グルメをかけてクイズ対決に臨む「デスマッチ」のラスボス的な存在としてゲスト出演。「さんまさんに嵐の5人を加えた6人中、クイズに正解した5人が絶品料理を食べられる」というルールで対戦しました。

そこで、さんまさんは自分の好物を食べるために誰よりも前向きに挑みつつ、おそらく“あえて”クイズに負け続け、1人だけ何も食べられずに終了。一方、嵐の5人が1つのテーブルに並んで仲よく食事するシーンを作って大団円を演出し、最後は「どうもおつかれさまでした。ありがとうございました」とねぎらいの言葉を贈りました。そもそも、さんまさんはクイズ解答者としての出演はほとんどないだけに、それだけでも最終回の特別感を醸し出していたのです。

「歌ネタゴングSHOW爆笑!ターンテーブル」では、「出張ターンテーブル」というコーナーのスペシャルゲストとして登場。まだ放送歴が浅く、若手芸人中心で大物芸能人の出演が少ない同番組を盛り上げるべく、ゲスト審査員として出演したのです。さんまさんはさらに出場芸人たちがネタを終えて舞台裏へ下がったあとに、「あいつもっと持っているんですよ」と別の十八番ネタを振って、もう1度カメラに映るチャンスを与えていました。

さんまさんは30日の「アメトーーク5時間SP」でも、「さんまVS売れっ子若手芸人」というトークバトル企画で登場予定。この企画は昨年の年末にも「さんまVSお笑い第7世代」として放送されるなど、「1年に1度、さんまさんが若手に胸を貸す場」として定着しつつあり、今後も年末の特別なコーナーになっていくでしょう。

また、さんまさんは14日に放送された「女芸人No.1決定戦 THE W 2020」(日本テレビ系)にもVTR出演。女性芸人たちに、芸能界で長く活躍する秘けつや、「踊る!さんま御殿!!」で期待していることなどを語りかけました。ここでも自分の笑いを取るのではなく、人情派のムードでふだん以上に優しかったのです。

前述した「第8回明石家紅白!」のような、ふだんめったに見られない音楽番組への出演も含めて、やはり12月のさんまさんは少し違うことがわかるのではないでしょうか。

さんまの年末特番はテレビの忘年会

昨年を振り返っても、さんまさんは9つの年末特番に出演していました。かつて「さんま&SMAP!美女と野獣のクリスマススペシャル」(日本テレビ系)が21年間に渡って放送されていたほか、現在も放送中の「明石家サンタ」も含めて、さんまさんにはクリスマスのシンボル的なイメージがありました。しかし、近年はその前後の出演特番が増えて、12月全体のシンボル的な存在になっているのです。

ただその理由は、単にさんまさんが「大御所で人気があるから」だけではないでしょう。

年末特番に求められるのは、年に1度の特別感や1年間の締めくくり。さらに、人とのつながりを実感できるような人情。その意味で12月のさんまさんは、前述したように、笑いを取るだけでなく人情を感じさせ、またゲスト出演して盛り上げることで特別感を醸し出し、視聴者に1年の締めくくりを印象づけています。

たとえば、「アメトーーク!」にさんまさんが出演したら「年に1度のお祭り騒ぎ」と感じさせられますし、あるいは「明石家サンタ」を見たら「1年の終わり」と感じられるのではないでしょうか。もともと年末特番は“テレビ番組の忘年会”という位置づけに近いものがあり、そこにさんまさんが出演することで“古き良き昭和の忘年会”というムードにすることができます。特にコロナ禍で忘年会を中止にした人が多い今年は、さんまさんが出演する年末特番を見て「年に1度のお祭り騒ぎ」「1年の終わり」を実感した人が少なくないでしょう。

また、もう1つ、さんまさんの年末特番起用を加速しているのが、若手から超ベテラン、一般人、外国人まで、あらゆる人とのトークを盛り上げられるスキル。年末特番は長時間にわたり、多くの出演者がいるものですが、MCがさんまさんなら安心ですし、ゲスト出演でも多くの出演者と絡んで番組のピークを作ることができます。

年末の「盛り上がり」「締めくくり」を感じさせられるキャラクターと、それを可能にするトークスキル。さんまさんは両方を併せ持っているからこそ、65歳の今なお年末のシンボル的存在でいられるのでしょう。

そして本当の凄さは、これほど多くの年末特番に出演しても視聴者から飽きられないこと。それを可能にしているのは、トークと笑いのスキルに加えて、ふだん見せていない顔を「ここぞの場面」と言える12月に見せているからであり、そこで昭和の古き良き人情を感じさせるから。この2点はビジネスパーソンにとっても参考になるのではないでしょうか。

コロナ禍の影響で正月も“さんま”

年末特番への出演ラッシュが明けた2021年の正月も、さんまさんはいつになく精力的。1月1日の「さんタク生放送」(フジテレビ系)、2日の「新春大売り出し!さんまのまんま」(カンテレ・フジテレビ系)、「1億人の大質問!?笑ってコラえて!初笑いSP」(日本テレビ系)、「さんまのお笑い向上委員会 新春から来たい人だけあつまれ明石家の森SP」(フジテレビ系)などへの出演が予定されています。

これは、さんまさんがコロナ禍の今回は「例年のように海外で年末年始を過ごせない」からであり、「30年ぶりに日本にいる」ことを明かしていました。ただ、さんまさんのことですから、「コロナ禍でふだんより重い気持ちで正月を迎えている人々を笑顔にさせよう」という想いがあるのかもしれません。

ここでは年末特番で見せたような人情ではなく、どこまでも笑いにこだわる姿に戻っているのではないでしょうか。コロナ禍によってさまざまな制約を強いられる正月になりそうですが、不幸中の幸いは、正月から、さんまさんの姿を楽しめることなのです。