日本代表の指揮を執る森保監督。前半は攻撃に閉塞感が漂ったが、遠藤の投入で打開した。(C) JFA

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 森保一監督はパナマ戦前の2度のトレーニングでも「直近の試合次第で働きかけるポイントは異なるが、内容は変えていない」という。「選手がどう捉えているかは判らないが」と前置きしながら、攻撃については「まずボールを奪った瞬間に相手の背後を取れれば速攻」で「それが出来なければマイボールを大切に」と、ごく常識的な意識を確認したそうだ。

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 だがパナマ戦の前半は、攻撃以前に問題を抱えて有効な仕掛けが乏しかった。もちろんパナマがプレスバックも含めて勤勉な守備をしてきた影響もある。しかし日本も最後尾に5人が並び、その前にシャドーの久保建英や三好康児までが降りて来るので、攻撃に出ていく位置が低く個々が相手のプレッシャーを感じながらのプレー選択を迫られ、必然的に無理が生じた。余裕がなくギリギリのプレーを強いられるので、パスの精度が落ちて連係が崩れた。結局重心が下がった日本は、バイタルエリアに降りてくるパナマの選手を捕まえ切れずミドルシュートを連発されている。

 こうなると軽量の日本は、個々が分断された状況ではデュエルで劣勢に回り、なかなか攻撃に出ていく流れを創出できなかった。

 歯痒い展開を劇変させたのが、後半開始からの遠藤航の投入だった。シュツットガルトで好調を続ける遠藤は、相手の状況を把握しながらボールを引き出し、速いタイミングで縦にボールをつける。これで攻撃にスイッチが入り、3人のFWの連動がテンポアップすることで前半には見られなかった両翼の攻撃参加も引き出せるようになった。

 前回オランダ遠征中に森保監督は3バックの利点について「ウイングバック(WB)が高い位置に張ることで相手の4バックに難しい対応をさせて、1トップ2シャドーが起点になれる」と語った。しかしパナマ戦の前半は、その前段階のビルドアップで滞り、WBも次第に受けに回り最終ラインに止まるシーンが増えた。日本は3バックがそのまま並んでビルドアップを始めるが、降りてくるボランチにつける決断も含めてパスコース探しに苦慮。サイドチェンジ等の揺さぶりもなく閉塞状況が長引いた。
 
 逆に遠藤投入後は、パナマのプレスの緩みもあり、速い攻撃で決定機を連発した。決勝点となるPKを生んだのも、一度最後尾に降りた遠藤が、マークするカラスキージャのボールサイドへのスライドで自分を見失っているのを確認。中央にポジションを移しフリーで植田直通からのパスを引き出し、そのまま久保へ繋げて南野拓実へのダイレクトのラストパスを導いた。遠藤の縦パス→FWのダイレクト処理→そこからの連動という展開が何度か続くことで、幅を使う攻撃へと繋がっていった。また鎌田大地が交代出場するとキープ力、迅速な判断が際立ち、とりわけ同時に交代で入った浅野拓磨を有効活用し、パナマは退場者を出すことになった。

 試合後の指揮官は「チーム全体の力をつけるには、経験の浅い選手にも強い相手と戦わせていく必要がある」と、多分にチャレンジ色の濃い試合だったことを示唆した。その点でメンバーの鮮度の高さを考えれば、それなりに意義深い一戦だったという見方も出来る。

 だが反面前半の停滞への特効薬が、遠藤という個の投入だったという事実がある。それなら攻撃の基盤となるビルドアップ部分や、パナマ戦では見られなかった「ボールを大切にしてコントロールする」方法については、改めて擦り合わせ、全体への落とし込みの効率性を高めたい。選手間の話し合いやピッチ上の臨機応変も必要だが、迷いや躊躇を減らし判断を加速させるのは、明確な指針に裏打ちされた適切な伝達だと思う。

文●加部 究(スポーツライター)