菅義偉総理

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影も形もない保育所

 週刊新潮11月5日号で報じた「菅総理」密接業者の公有地転売疑惑。では、パチンコ経営を主たる業務とするというこの密接業者の代表を務めるのはどのような人物なのか。過去には、菅直人元総理への違法献金を行い、韓国、北朝鮮両国にもパイプを持つとされるが――。

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 改めて疑惑について振り返ろう。

 問題となったのは、横浜市保土ケ谷区の県有地。ここに神奈川県警の職員宿舎「常盤台公舎」があった。利用者減少に伴って廃止が決まり、払い下げのための手続きが始まったのが2013年。当初、県は一般競争入札を予定していたものの、そこに、この土地の「隣接地権者」である「(有)成光舎」の河本善鎬(かわもとよしたか)代表が現れ、「保育所等を作りたい」と売却を依頼。すると、奇々怪々の出来事が動き出すのだ。まず同社は、主な業務がパチンコホール経営であるにもかかわらず、横浜市から「保育所整備をしてほしい」との副申書(ふくしんしょ)(参考意見)も出て、とんとん拍子に随意契約での売却が決まる。

菅義偉総理

 その後、県が鑑定によって決定した売却額は約4億5700万円。しかし、これに河本代表は「高過ぎる」と文句を付け、値引きを要求。当初は必死で抵抗していた県もなぜか途中で要求に屈し、2014年、再鑑定を実施。約7千万円、15%も値引きした約3億8800万円での売却を決めてしまうのである。

 行政の「全面譲歩」はこれに留まらない。2015年、この土地は成光舎に売却される。その際には、「保育所等の設置」と「10年間の転売禁止」という条件が付いた。しかし、成光舎は何と売買当日にこの土地を自らの関連会社に売却。さらに転売をするべく、動きを進めていた。この契約違反が県にばれると、河本代表は「横浜市の条例で工事ができず、保育所の開設は無理」と言い出す。今更になってのとんだ背信行為に、県は激怒……と思うところだが、なぜか代表の言い分を全面的に受け入れ、「転売禁止」を解除してしまったのだ。こうして2016年、河本代表は土地を大手住宅メーカーに売却。2億円近い「濡れ手で粟」の利益を得た……と見られる。

現在の旧県有地には建物が並ぶ

 現在、その土地は、分筆して売られ、今では老人ホームや低層マンション、ドラッグストアが立ち並ぶ。保育所は影も形もない。当時、横浜市は待機児童ゼロを掲げ、保育所設置を進めていた。それを利用されたかのような取引である。

 そもそも、周辺を取材してみると、およそ河本代表と「保育所経営」は結び付かないことは明白。

 成光舎は、この県有地の「隣接所有者」であった。掲載の地図にあるように、県有地を四角形とすると、その左辺と下辺の部分をL字型に細長く持っている。しかし、もともとの地権者ではなく、地図上の(1)の部分を2006年、(2)の部分は2013年に購入している。細長い棒状の崖地であることから、

「県有地の売却を事前に知って、狙って周囲の土地を購入していたのでは」(神奈川県内の不動産関係者)

地面師の名が

(1)の土地の不動産登記を取ってみると、より胡散臭(うさんくさ)さは増す。この土地は、さる財団法人が長らく所有した後、港区内の不動産会社に移り、2006年、成光舎が購入している。その港区内の会社の商業登記を取ると、代表取締役には、一昨年、五反田の旅館を舞台に、「積水ハウス」から55億円を詐取した事件で逮捕された「地面師」の一人の名があるのだ。地面師が暗躍する土地取引に参入する……そんなことをしてまで、あえて儲けの薄い保育所の設置に挑もうという奇特な人は少ないだろう。

 また、(2)の土地についても同様だ。この土地はもともと昭和時代からの地権者が持っていたものだが、

「成光舎さんがうちに来たのは、古くて1990年代からのことです」

 と振り返るのは、その所有者の子息である。

「“1千万円で買う”と何度も家に来た。でも、ずっと断っていたんです。“何のために買うの?”と聞いても、“パチンコの寮にする”とか“カラオケにする”“横国(横浜国大)向けの学生寮にする”とか。保育園の話は一度も聞いたことがないですね。そんな感じですから、きっと県有地を落として、まとめて転売するのが目的だろうと思って、断り続けてきたんです。あそこの社長さんは警察とも親しいみたいで、伊勢佐木町で飲む仲だったとか。県警の宿舎の売却情報も取れたのでしょう。しつこく交渉に来ましたよ」

 子息の予感は結局当たったというわけだ。

「そうこうしているうちに、県もあの土地を買いたいと言ってきた。で、そちらに売るつもりでいたんですが、県の出してくる額は成光舎さんの半分くらいだったのと、もともと境界線を巡って揉めていた。ちょうどその頃、うちは家を介護用に改装するため、お金が必要なこともあって、それで成光舎さんに声をかけたら、とんで来て……」

警察が訪問、「事件性があるから…」

 2013年、土地は成光舎に売られたというわけである。河本代表は狙い通り、その後県有地も手に入れるが、

「それから2年くらいしてからのことですかね……」

 気になる出来事が起きた、と子息が続ける。

「突然、うちを神奈川県警の刑事さんが訪ねてきたんです。で、“事件性があるから……”と、成光舎さんとのやり取り、いくらで売ったのか、契約書を見せてくれなど、いろいろ聞かれたんです。県から買った後、同日転売したということを気にしているようでした」

 警察の動きはその一度切りに終わったそうだが、「事件性」とは何を意味するのか、捜査はなぜ止まったのか。

 更には、この県有地に最初の鑑定評価を下した不動産鑑定士に聞いてみても、

「この件は覚えています」

 としてこう言う。

「端の土地を事前に買っていることからして、明らかに転売目的で来てるな、とわかりました。開発するなら、とりあえず隣接地を買うのはセオリーですから。再鑑定もゼロとは言いませんが、珍しいことですし、何より保育所をやると言っていて、後に“やっぱりできません”というのは、非常に特殊なケースで、違和感を覚えますね」

 他方、“値引き”した再鑑定評価を行った鑑定士は、

「県に聞いてください」

 と言うばかりだが、こうも揃って関係者が保育所の開設を疑い、転売目的と指摘する案件。これを「プロ」であるはずの県がなぜ気付かなかったのか。あるいは、気付いているのに目を逸らしたのか。自ずと、交渉で飛び出した「菅総理」の名に目が向くのである。

韓国、北朝鮮に人脈

 改めて、総理と河本代表の関係を整理しておく。

 国会議員となった1996年から2007年まで、総理は「成光舎」から合計342万5千円の額の献金を受けている。それに加え、2007年には、自らが横浜市内に所有し、事務所を置いていたビルを購入してもらっている。

「この時期、菅総理は窮地に立たされていました」

 と、神奈川県政関係者。

「自らの所有するビルに事務所を構えていたにもかかわらず、家賃など多額の経費を計上しているのはおかしい、とメディアに批判されたのです。いわゆる事務所費疑惑で、総理は“問題ない”と反論しましたが、疑惑の種となるビルをそのままにはしておきたくなかったのでしょう」

 その問題の芽を処理してくれたのが、河本代表だったというわけだ。

「実はその時期、河本さんも経済的に苦しい時期に当たっていました」

 と、県政関係者が続ける。

「その翌年、2008年には、自宅が一時、競売開始決定されるほど。そんな金欠の時期に、億単位の金でビルを買ってあげるとは……。単なる後援者を超えた仲であることは明白」

 売却後、しばらくはそのビルに事務所を置いていた菅総理だが、2008年、やはり市内に事務所を移転する。そのビルもやはり河本代表の関係会社の所有。店子と大家の関係は、菅総理が事務所を別のオーナーのビルに移す2011年まで続いたのだ。

 ちなみにこの年、在日韓国人である河本代表は、当時の菅(かん)直人総理に違法献金をしていたことが朝日新聞に一面ですっぱ抜かれるが、

「一方で、彼は朝鮮総連系の『ハナ信用組合』とも取引がある。南北両方に人脈を持っています。また、かつて彼の関連会社が、静岡県が廃船にした防災船を落札したものの、エンジンが付いてないとわかって、撤退したこともある。その時は、祖国へのエンジン転売が目的だったのではないか、とメディアに指摘されました。エンジンは軍事転用もできますからね。菅さんとは、国会議員になる以前、横浜市議時代から30年来の付き合い。関係を隠そうとせず、『菅さんのスポンサー』との触れ込みであちこちの大物に食い込んでいました」(同)

 何故かように一癖も二癖もある人物と、菅総理が長年、交流を続けてきたのか。謎は深まるばかりである。

「この件だけは話せないな」

 当の河本代表に、改めて、かの土地は初めから転売目的ではなかったかと問うと、「そのような事実はございません」と回答。

 しかし、疑惑が報道された後、「この件だけは話せないな」……気の置けない知人に対しては、含みのある発言をしていたという。

「かながわ市民オンブズマン」代表幹事の大川隆司弁護士が言う。

「本件は、神奈川県が県民に対して不当に、不利益になるように土地の売買を行った疑いがある。住民監査請求や、損害賠償請求の対象になり得る案件です」

「たたき上げ」から宰相に上り詰めるまでには、金銭面で苦労し、さまざまな付き合いもあったはず。ようやく国のトップとなった今、そうした付き合いが、逆に自身の命取り……そんなことも起こりかねない「闇」が、果たしてこの取引には潜んでいるのか。

「週刊新潮」2020年11月12日号 掲載