「半沢直樹」も絶好調!堺雅人の芝居にハマるワケ
7年ぶりの続編となる日曜劇場「半沢直樹」(TBS系)が19日よりスタートし、Twitterの世界トレンド1位となる反響を見せた。主人公・半沢直樹を続投する堺雅人は、制作発表会見で「半沢にはまだまだ脈がある。力強く心臓が動いている」と語っていたが、その言葉通り、画面には躍動感溢れる半沢の姿があった。SNS上でも「半沢が戻ってきた!」といった熱いコメントも多数あったが、そんな堺の俳優としての魅力に迫る。
オーバーアクトに徹する「半沢直樹」&「リーガル・ハイ」
「半沢直樹」では、幼少期に父親が銀行員によって自殺に追い込まれた過去を糧に、どんな困難にも負けない“強い男”を演じている堺。前作では最終回に視聴率42.2%という数字を叩き出し、堺の代表作と呼べるほどの大反響を得た。半沢は「やられたらやり返す、倍返しだ!」をモットーにブレず、常識に縛られることなく能動的に動く主人公だ。
同じく堺の代表作と言える「リーガル・ハイ」シリーズ(2012・2013)で演じた偏屈で毒舌な弁護士・古美門研介(こみかど・けんすけ)も「正義は金で買える」が口癖で、どんな依頼者や事件も、自分の領域に引っ張ってきて、強引に物事を終息させる強さがある。
半沢と古美門は、性格やポリシーはまったく違うが、主人公が物語を引っ張っていくという部分では共通しており、キャラクターのインパクトは圧倒的だ。視聴者にも「半沢」や「古美門」と役名で語られることが多い。こうした役を演じるときの堺はキレキレで、視聴者はある意味で、半沢や古美門の行動を追っていれば、物語に没入できるという安心感がある。主役クレジットではなかったが、映画『ジェネラル・ルージュの凱旋』(2009年)で演じた救急救命医・速水晃一もこの分類に属するキャラクターだろう。
揺らぎを感じさせる演技
濃いキャラクターを、視聴者の劇的欲求に応えるように演じることは、俳優にとってリスクも伴うように感じられる。“当たり役”として、その印象が俳優についてまわってしまうからだ。しかし、堺は堂々と濃いキャラクターを大仰に演じる一方で、人物に“揺らぎ”を持たせることができる稀有な存在だ。
“揺らぎ”という部分で、圧倒されたのが2008年の大河ドラマ「篤姫」で見せた徳川家定だ。家定と言えば、数々の奇行で周囲からは暗愚(あんぐ)と揶揄されていた人物と言われることが多いが、本作では「実は聡明な人物ではないのか」と匂わせるような描写がある。普段の阿呆な行動のなか、ふとしたところで切れ者なのかも……と思わせる芝居は、計算して作り出したものではなく、本能的なもののように感じられた。
こうした“揺らぎ”を感じられる作品が映画には多い。2001年に公開された映画『ココニイルコト』では、上司との不倫が公になり、大阪転勤となったコピーライターの志乃(真中瞳 現:東風万智子)の同僚・前野役で出演していたが、何があっても「まあ、ええんとちゃいますか」とふわっとした笑顔を浮かべる姿は、余白があり過ぎて、優しさ、悲しさ、儚さなど、いろいろなことを想起させられた。
2012年に公開された映画『その夜の侍』では、ひき逃げ事件により最愛の妻を失ってしまった男を演じた。復讐と許しという二律背反する感情のなか、闇の中をさまよう姿には、大いなる葛藤が感じられ、白黒つけがたいキャラクターを演じるときの堺のすごさを痛感した。男女が逆転した架空の江戸時代を描いた2012年の映画『大奥〜永遠〜[右衛門佐・綱吉篇]』(同年放送のドラマ「大奥〜誕生[有功・家光篇]」でも別の人物を演じている)は、のちの妻となる菅野美穂との共演が印象に残るが、菅野演じる徳川綱吉への心が動いていく変遷が見事だった。
周囲を輝かせる力
こうした、いい意味でつかみどころのないキャラクターは、周囲を輝かせる効能もある。大河ドラマで主演を務めた「真田丸」(2016)では、猛将と呼ばれた真田信繁(幸村)の生涯を多面的に演じた。堺自身も撮影終了の取材では「信繁には周囲をフューチャーさせていく力があります」と語っていたが、相手の芝居を受け、自在に変化していく役柄だった。
以前、堺は、作品に臨む際の気持ちを「使い捨ての地図を持つ感じ」と表現し、「頭で計算しているうちは大した芝居ができない」とも話していた。台本を読んで、目指す方向性は漠然とあるが、決めつけることはしないというポリシーだ。だからこそ、観ている側もキャラクターに想像力を掻き立てられるのだろう。
その他、「篤姫」でタッグを組んだ宮崎あおいとの切ない夫婦役が沁みる映画『ツレがうつになりまして。』(2011)や、つけ鼻をつけて実在の詐欺師にふんした映画『クヒオ大佐』(2009)、ある意味で堺の名を大きく広めた大河ドラマ「新選組!」(2004)の山南敬助役、一見のどかな話に見えてシビアさをのぞかせる映画『ジャージの二人』(2008)など、堺の多面性がみられる作品は多数ある。「半沢直樹」放送開始を機に堺作品を網羅してみるのも面白いだろう。(磯部正和)