アメリカの大学に通う韓国人留学生数は約5万2000人で、日本人の約3倍にのぼる。だが、その実態はいびつだ。日米で塾を経営する船津徹氏は、「ハーバードやイェールなどアメリカのトップ大学に通う韓国人学生は44%がドロップアウト(中途退学)している。受験のための詰め込みだけでは、合格後に燃え尽きてしまう」という――。

※本稿は、船津徹著『失敗に負けない「強い心」が身につく 世界標準の自己肯定感の育て方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

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■教育熱心な韓国人は世界のトップ大学を目指す

アメリカで学習塾を経営していて驚くのが「韓国人ママの教育熱の高さ」です。私の塾にもたくさんの韓国人ママが、小学生になったばかりの幼い子どもを連れてやってきます。お母さんから話を聞くと、「子どもの教育のためにアメリカに移住(母子留学)してきた」というのです。

儒教の影響が根強く残る韓国は、「学歴信仰」が人々の価値観の根底にあります。「子どもをいい大学に入れなければならない!」という社会のプレッシャーが桁外れに強いため、韓国人は「世界一」子どもの教育に熱心なのです。

少し前まではソウル大学や高麗大学といった韓国のトップ大学が目標でした。ところが、グローバル化の進行によって、韓国のトップ大学の地位(価値)が揺らいでしまったのです。「もはや韓国の大学を出ても国際社会で通用しない! 目指すはハーバード、オックスフォード、スタンフォード、世界のトップ大学だ!」という流れが今の韓国にはあります。

■もはや「英語」は韓国人の必須教養

米国国際教育研究所(Institute of International Education)の集計によると、2019年にアメリカの大学に通う韓国人留学生数は約5万2000人で、人口が韓国の約28倍以上の中国(約37万人)、インド(約20万2000人)に次ぐ大きな規模になっています。同年の日本人留学生数は約1万8000人で韓国人の約3分の1です。韓国の人口が日本の半分以下であることを考えると、韓国人の留学熱の高さがうかがえます。

船津徹『失敗に負けない「強い心」が身につく 世界標準の自己肯定感の育て方』(KADOKAWA)

留学熱が高いとは言え、海外留学を実現できるのはごく一部の裕福層です。多くの子どもは韓国に住みながら、英語学院と呼ばれる英語塾に通ったり、オンラインレッスンを受けたりと、努力を重ねて英語を身につけます。韓国では英語を身につけられなければ「負け組」決定ですから、子どもも必死なのです。

韓国の英語学院(英語塾)は、日本の学習塾のように週1〜2回、1時間の英語レッスンを受けるというなまやさしいものではありません。学校が終わってから週に3〜5日塾に通い、3〜6時間、ネイティブ講師から英語レッスンをみっちり受けるのです。塾が終わる夜10時頃になると、英語学院がひしめき合うソウルの一角は子どもを迎える車の列で渋滞が起きるそうです。

■社会問題化する競争による「燃えつき」

英語学院の指導レベルは高く、授業はすべてネイティブ講師が英語オンリーで行うのが原則だと言います。小学生の子どもが、欧米の大学受験のための「TOEFL対策」をするのは当たり前。さらに小学生から『ハリー・ポッター』などの小説やエッセイを「原書で読んで」内容を発表したり、英語でディベートしたりといったハイレベルな授業を行っているというから驚きです。

本当に韓国ではそれほどハイレベルな英語教育が行われているのだろうか? 疑問に思い、韓国の有名英語学院で指導経験があるネイティブ講師から話を聞いてみたことがあります。その人によると、英語学院では、英語圏に留学することを前提に、英語で教科指導(数学、理科、社会)をしたり、アメリカの大学進学を目指す生徒向けにSAT(アメリカの大学適性試験)対策やエッセイ指導をしたりと、インターナショナルスクール顔負けの難易度が高い授業を行っているとのことでした。

最近は有名塾(英語学院)の人気が過熱し、入塾試験をパスするための塾が登場するなど、度を越えた「競争」が韓国の若者たちを疲弊させ、燃えつきさせてしまう(Burn out)ことが社会問題になっています。

■トップ大学に合格したあとの思わぬ落とし穴

親子で必死に努力した甲斐があって、多くの韓国人はアメリカのトップ大学への合格切符を手にしました。ところが、ここに思わぬ落とし穴がありました。ハーバード大学、イェール大学など、アメリカのトップ大学に通う韓国人学生のうち44%がドロップアウト(中途退学)してしまったと言うのです。

もの心ついたときから脇目もふらず、青春のすべてを勉強にかけてアメリカの名門大学入学を勝ち取ったのに、なぜ半数近くの学生が志半ばで中途退学することになってしまったのでしょうか?

世界中から優秀な人材が集まるアメリカの名門大学では簡単にトップにはなれません。ましてや英語ネイティブの秀才たちとは英語力で埋められない差があるのです。それまで勉強では負けたことがなかった韓国人学生が、アメリカの大学で初めて「負け/挫折」を経験したのです。ドロップアウトした韓国人学生の多くは、世界中から集まってきたエリート学生との競争に敗れ、「自分はやっていけない」「自分には無理だ」と自信喪失してしまったのです。

韓国人学生の多くは、子ども時代を勉強だけに追われ、スポーツや音楽などの課外活動に本気で従事する経験を持つことができませんでした。その結果、レジリエンス(敗北や失敗から立ち直る力)を身につけることができなかったのです。だからこそ、グローバル競争社会で生き残っていくためには、受験のための詰め込みだけでなく、失敗や挫折を乗り越えられるメンタルタフネスを育てておくことが必要なのです。

■受験大国では特に「メンタルタフネス」が重要だ

日本も韓国ほどではないですが学歴社会です。今後グローバル化が進んでいくことで、さらに受験競争に拍車がかかる可能性があります。受験で子どもを燃えつきさせないためには、勉強以外の「特技」や「強み」育てに目を向けて、「メンタルタフネス」を鍛えておくことが大切です。

日本は世界でも例を見ない「受験が多い国」です。幼稚園受験、小学校受験、中学校受験、高校受験、大学受験と、子どもは休む暇なく受験勉強に追いかけられます。最近は中学受験がブームになっていますが、中学受験で第一志望に合格できるのは「3割」程度と言われています。つまり7割の子どもたちは中学受験で「失敗体験」をするのです。

また、希望の学校への合格を勝ち取ったとしても、そこで停滞してしまう子どもが多いことを知ってください。学力レベルの高い学校に合格すれば、競争のレベルも格段に上がります。自分よりも学力も才能も優れたクラスメートに囲まれたときに、「自分はやっていけない」と自信喪失してしまう可能性があるのです。

■受験は自立のためのステップでしかない

私は受験に反対しているわけではありません。むしろ賛成派です。ただ、受験勉強に必死に取り組んでいるうちに、親子とも、受験で合格を勝ち取ることがゴールにならないように警告しているのです。受験は子どもの自立の一つのステップでしかありません。次のステップに進むためのトレーニングとして受験をするのです。

受験後の「Burn out /燃え尽き症候群」を防ぐには、困難や逆境に直面したときに「絶対に負けない!」とあきらめずに努力を継続していくメンタルタフネスを育てることが不可欠です。そのためには自己肯定感の土台を大きくすること、そして、「勉強以外の強み」や「特技」を持たせてあげることが不可欠なのです。

スポーツ、音楽、アート、ダンス、将棋、囲碁、チェス、マジック、ルービックキューブ、ユーチューバー、プロゲーマー、漫才、落語、なんでもかまいません。子どもの「好き」や「やりたい」を見つけて、「強み」や「特技」に引き上げることをぜひ実践してください。特技は子どもを燃えつきから救い出してくれます。

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船津 徹(ふなつ・とおる)
TLC for Kids 代表
明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て、幼児教育の権威である七田眞氏に師事し英語教材の制作などを行う。その後独立し、米ハワイ州に移住。2001 年、ホノルルにTLC for Kids を設立。英語力、コミュニケーション力、論理的思考力など、世界で活躍できる人材を育てるための独自の教育プログラムを開発する。著書に、『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)、『世界で活躍する子の〈英語力〉の育て方』(大和書房)ほか。
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(TLC for Kids 代表 船津 徹)