13年ぶりのフルゲート(18頭立て)、しかもGI馬が8頭も集結したことで、大いに注目された今年のGI宝塚記念(6月28日/阪神・芝2200m)。その上半期の「グランプリ」を制したのは、2番人気のクロノジェネシス(牝4歳)だった。

 直線半ばで、軽く2発ほど鞭を入れられると、あとは後続を突き放す一方。終わってみれば、2着のキセキ(牡6歳)に6馬身もの差をつけた。GIで、それもメンバーがそろったレースにおいて、これほどの着差がつくことは、極めて稀。まさに、驚くほどの圧勝劇だった。


後続に大きな差をつけて、宝塚記念を制したクロノジェネシス

 勝因として、真っ先に挙げられるのは、”道悪競馬”になったことだ。

 1番人気のサートゥルナーリア(牡4歳)も、ファン投票最上位(2位)のラッキーライラック(牝5歳)も、その馬場に脚を取られて、本来の力を出し切れずに終わった。

 阪神競馬場の辺りは、前夜から雨が降り続いていた。それによって、馬場はかなりの水を含んだ状態にあったが、この日の朝には雨も上がって、午後の馬場状態は「良」発表にまで回復していた。

 ところが、10レースを前にして、突然の”ゲリラ豪雨”が阪神競馬場を襲ったのだ。レースが始まる前には雨もやんだので、ほんの短時間のことだったが、それでも馬場は水浸しになった。

「良」だった馬場状態は、一瞬にして「やや重」へ。どれほどの雨量だったのか、それだけで十分に想像できるのではないだろうか。

 人気を背負って、力を発揮し切れずに終わった陣営からは、「あの”ゲリラ豪雨”さえなければ……」といった恨み節が聞こえてきそうだ。

 翻(ひるがえ)って、「道悪巧者」と言われる馬たちには、この豪雨が幸いしたことは間違いない。

 とりわけ、やや重や重の競馬で3戦3勝のクロノジェネシスにとっては、まさしく”恵の雨”となった。”ゲリラ豪雨”によって荒れた馬場は、その巧者ぶりを見せつけるには絶好の舞台だった。

 ちなみに、2着のキセキも不良馬場のGI菊花賞を完勝した実績がある。さらに、3着に入ったモズベッロ(牡4歳)、5着と健闘したメイショウテンゲン(牡4歳)も、過去に重馬場のレースで勝ったことがある道悪巧者だ。

 こうした道悪巧者の台頭を見ると、道悪初体験で、返し馬の時から走りにくそうにしていたサートゥルナーリアが4着に食い込んだことは、善戦とさえ思えてくる。

 ただ、クロノジェネシスの勝因は、その「道悪巧者」という理由だけではない。

 この馬は、2歳時のオープン特別・アイビーS(東京・芝1800m)の際に、すでに大物の片鱗を見せていた。牡馬相手に同レースを快勝しているが、その時に上がり32秒5という、とんでもない時計を叩き出しているのだ。

「古馬でも滅多に出ないような速い上がりを、2歳の、それも牝馬がマークした。これには、驚きました。あの時から、かなり多くの関係者が『この馬は、いつかGIを勝つ馬だ』と見ていました」

 そう語るのは、関西の競馬専門紙記者。実際、クロノジェネシスはその期待どおり、着実に力をつけていき、昨秋のGI秋華賞(京都・芝2000m)で戴冠。以降もグングンと力をつけ、ここに来て”本物”になってきた。

 今年初戦のGII京都記念(京都・芝2200m)では、牡馬相手に2馬身半差の完勝。続くGI大阪杯(阪神・芝2000m)でも、インから伸びたラッキーライラックの急襲に屈しただけで、僅差の2着とその実力を存分に披露した。

 迎えた宝塚記念。際立っていたのは、馬体の充実ぶりだ。

 馬体重は前走から10kg増。昨春の3歳クラシックを戦っていた頃から比べると、およそ30kg増となる。しかしその馬体からは、太めな印象など一切感じられず、競走馬としての成長と充実が示されているようだった。

 主戦の北村友一騎手もレース後、「馬体重はプラス10kgで、馬体がすごくパワフルになっていました」と証言している。

 たしかに、馬場の渋化は好材料となった。加えて、3コーナー手前でキセキが押し上げてきた際、少しも慌てることなく、そのキセキに馬体を合わせるようにして、クロノジェネシスを導いた北村騎手の冷静な騎乗も称えられるべきだろう。

 だが、クロノジェネシスの勝利は、今に至る”成長と充実”こそ、第一の要因に挙げられるべきではないか。

 次の目標は、個人的な希望を込めて言えば、現役最強馬アーモンドアイとの激突だ。それが、どのレースになるにしろ、かなり際どい勝負になる――そんな予感がしている。もし馬場が渋れば、アーモンドアイにもひと泡吹かせられるかもしれない。

 日本競馬における、活況を呈する牝馬たちの頂上決戦。そこにまた1頭、新たな「女王候補」が登場した。