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第11週「家族のうた」51回〈6月8日 (月) 放送 作・嶋田うれ葉 演出・松園武大〉


51回はこんな話

裕一と音に娘・華が誕生。「船頭可愛や」がヒットして裕一の作曲家としての知名度も上がった。そこへ恩師・藤堂から校歌の依頼が。それをきっかけに裕一は故郷・福島に華を連れて里帰りする。

「仕事が早い」

裕一と音に女の子・華が誕生して4ヶ月。裕一は「船頭可愛や」が売れて“悠々自適”で、赤ちゃんに夢中で仕事そっちのけ。親バカぶりを発揮する。いっこうに仕事をしない裕一に仁王立ちして仕事を促す音の恐妻っぷりににやにやしてしまった。

喫茶バンブーで「生まれたばかりのときは高いラの音で泣いてたんだ。それがかわいくてかわいくて」という「高いラの音」という台詞で、ようやく裕一の生活と音楽が重なった。

だが、バンブーで保(野間口徹)に紹介された常連客にして裕一の曲のファンに、孫を実家の親に会わせたほうがいいと言われ、複雑な気持ちで家に帰ってくると、ちょうど福島の藤堂先生(森山直太朗)から手紙が来ていた。

手紙には「船頭可愛や」のヒットを喜んでいることと、福島の小学校の校歌を作ってほしいと書いてあった。
藤堂先生とは、裕一の小学校のときの先生で、音楽に目覚め才能を伸ばすきっかけになった恩人である。藤堂先生、一度は親の面倒をみるために教師を辞めて実家に戻る話をしていたが、それはどうなった? という疑問はさておき、藤堂先生の頼みとあれば裕一は断れない。さっそく校歌を作ると、校歌完成披露会の案内が届く。

華丸「簡単につくるね」
大吉「仕事が早い」

「あさイチ」で博多華丸・大吉が舌を巻いていたが、本当に。裕一のモデルの古関裕而も生涯5000曲作ったそうだが、裕一も天才だからさくっと作れてしまうのだろう。作曲とは理系脳を使うらしいから公式を当てはめていくと無限に作ることができるのだと思う。そのわりにはコロンブスレコードの仕事は全然できないようだが、そこも天才ゆえ、気分に左右されるのかも。


「帰りたいのに帰らない 男のやせ我慢♪」

校歌完成披露会の案内には、母・まさ(菊池桃子)からの手紙も入っていた。この機会に福島に来てはいかがですかと誘うものだった。
捨てた故郷にいまさら戻ることをためらう裕一。故郷への感謝をこめて作った「福島行進曲」も売れなかったし……。だがいまは違う。「船頭可愛や」が売れている。堂々と帰れるはずなのだが、家族には思うところがたくさんある。
なにしろ、借金のかたに養子に出され、音楽の道や音との結婚を閉ざされそうになった。とはいえ、自分も、弟の人生の可能性を潰して恨みをかっている。簡単に帰ることはできないのである。

そんな裕一の心情をなんとなく察して木枯(野田洋次郎)の歌う「帰りたいのに帰らない 男のやせ我慢♪」。
さすがのRADWIMPS。このフレーズだけで、裕一の心情がよくわかるし、裕一の気持ちが動く。

脇役にエールを

喫茶バンブーでかかっていた「船頭可愛や」は青レーベルだった。ということは、西洋音楽のレーベルだから、双浦環(柴咲コウ)のほう。彼女が歌ったことでヒットしたのだから当然だが、面白くないのは藤丸(井上希美)。最初に歌ったのは私であるとおでん屋で管を巻く。藤丸の気持ちはよくわかる。ちょっとしか出番のない役ではあるが視聴者をたくさん味方につけたと思う。

「藤丸さんは売れてるからいいよ。俺は相変わらずヒット作なしだ」と自虐しながら藤丸を慰める鉄男(中村蒼)。そこに木枯が、いい詩ができたら僕が曲を書くと言う。ふたりのモデルの野村俊夫と古賀政男は1948年に「湯の町エレジー」というヒット曲をつくるが、はたしてドラマでは……。

鉄男にもヒットをと願わずにいられないし、藤丸にも報われてほしい。「エール」のすばらしいところは、脇役に目がいくことである。大スター・環に曲を歌われ手柄をかっさらわれてしまう藤丸、技術力が不足しているうえ歌も家庭もと欲張る音にヒロインの座を奪われる千鶴子があまりにもお気の毒に見えてやりきれないのだが、彼女たちがそういう役割になることで、視聴者は自ずと彼女たちの味方になる。彼女たちが主人公たちを虐めるヒールになることもドラマではあるが、そうでないのがいい。

脇役なうえ悪役ってあまり得しないから。主役が新人だと、ひたすらピュアで健気な役を求められがちで、そうするとまわりの芸達者が、導く役もやれば、イジワルする役もやらないといけない。でも、窪田正孝、二階堂ふみ、柴咲コウたちは認知度も技術も十分あり、ピュアなだけでなく、人間のいろいろな面を表現できる。その分、新鮮な脇役の人たちが好感度を持たれるほうがいい。

昨今の事情で、ハラスメント的な行為も描き辛いこともあるだろう。とはいえ、誰もが善人じゃ物語は面白くない。窪田、二階堂、柴咲の今回の役どころは、人間のずるい所やダメなところや強欲なところを自分たちが演じることで、わりをくう脇役にエールが送られるように促す存在にも見えてくる。
(木俣冬)

東京編の主な登場人物

古山裕一…幼少期 石田星空/成長後 窪田正孝 主人公。天才的な才能のある作曲家。モデルは古関裕而。
関内音→古山音 …幼少期 清水香帆/成長後 二階堂ふみ 裕一の妻。モデルは小山金子。

小山田耕三…志村けん 日本作曲界の重鎮。モデルは山田耕筰。

廿日市誉…古田新太 コロンブスレコードの音楽ディレクター。
杉山あかね…加弥乃 廿日市の秘書。
木枯正人…野田洋次郎 「影を慕ひて」などのヒット作をもつ人気作曲家。モデルは古賀政男。

山藤太郎…柿澤勇人 人気歌手。モデルは藤山一郎。
小田和夫…桜木健一 ベテラン録音技師。

梶取保…野間口徹 喫茶店バンブーのマスター。
梶取恵…仲里依紗 保の妻。

佐藤久志 …山崎育三郎 東京帝国音楽大学の3年生。あだ名はプリンス。モデルは伊藤久男。
村野鉄夫 …中村蒼 裕一の幼馴染。川俣で新聞記者をやっている。詩を書くことが好き。モデルは野村俊夫。

夏目千鶴子 …小南満佑子 東京帝国音楽学校の生徒 優秀で「椿姫」のヒロインに最も近いと目されていた。

筒井潔子 …清水葉月 東京帝国音楽大学で音と同級生。パートはソプラノ。
今村和子 …金澤美穂 東京帝国音楽大学で音と同級生。パートはアルト。

先生 …高田聖子 東京帝国音楽大学の教師。
双浦環 …柴咲コウ 著名なオペラ歌手。モデルは三浦環。


番組情報

連続テレビ小説「エール」 
◯NHK総合 月〜土 朝8時〜、再放送 午後0時45分〜
◯BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜、再放送 午後11時〜
◯土曜は一週間の振り返り

原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和