中国のロケット長征5号Bのエンジンがニューヨーク上空をかすめて落下、重さは約20トンでここ30年では最大のスペースデブリ
by 篁竹水声
2020年5月11日に、中国が打ち上げた長征5号Bロケットのエンジンがニューヨークの上空を通過してからわずか15分後に大気圏に再突入し大西洋に落下したと報じられています。専門家によると、このエンジンの重さは17.8トンで、制御されないまま大気圏に再突入した人工物としては1991年に落下したソ連の宇宙ステーション以来最大だったということです。
One of the largest pieces of space debris to fall uncontrolled back to Earth landed today - CNN
Massive piece of Chinese space junk slams uncontrolled into Earth's atmosphere | Space
https://www.space.com/long-march-chinese-rocket-uncontrolled-crash.html
China’s massive Long March 5B’s rocket falls out of orbit over Atlantic Ocean - Spaceflight Now
https://spaceflightnow.com/2020/05/11/chinas-massive-long-march-5bs-rocket-falls-out-of-orbit-over-ocean/
Large chunks of a Chinese rocket missed New York City by about 15 minutes | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2020/05/large-chunks-of-a-chinese-rocket-missed-new-york-city-by-about-15-minutes
中国は、5月5日に海南省の文昌市にある文昌衛星発射場から長征5号Bロケットを打ち上げました。打ち上げは成功し、ロケットが搭載していた無人の次世代有人飛行船試験機は無事予定の軌道に投入されました。
現行の打ち上げ用ロケットのエンジンは一般的に、大型の第1段エンジンと小型の第2段エンジンで構成されています。この構成のロケットが打ち上げられると、まず第1段エンジンが推力の大部分を発生させた後に切り離されて軌道に乗る前に海上などに落下し、続いて第2段エンジンがロケットのペイロード部分を軌道上に押し上げる役割を果たします。
一方、今回中国が打ち上げた長征5号Bロケットには第2段エンジンがない代わりにコアステージと呼ばれるエンジンを搭載しています。コアステージの採用により、長征5号Bロケットは従来のロケットよりも大きなペイロードを確保することが可能とのこと。一方、2017年7月2日年に行われた長征5号ロケットの打ち上げでは、コアステージに搭載されたYF-77エンジンに異常が発生し、打ち上げが失敗に終わるという事故も発生しています。
また、大型のコアステージが軌道上で切り離されるということは、巨大なロケットの部品が制御されないまま地球に再突入するという危険性も持っています。
ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの天文学者であるジョナサン・マクダウェル氏は、「長征5号Bロケットのコアステージは重さが17.8トンで、2003年の事故により墜落したコロンビア号を除けば、1991年に大気圏に突入した重さ39トンのサリュート7号以来の無制御再突入です」と指摘しました。
The CZ-5B-Y1 core stage is in a 155 x 366 km orbit, and is expected to reenter around May 11. At 17.8 tonnes, it is the most massive object to make an uncontrolled reentry since the 39-tonne Salyut-7 in 1991, unless you count OV-102 Columbia in 2003.— Jonathan McDowell (@planet4589) May 7, 2020
マクダウェル氏はアメリカのテレビ局CNNの取材に対し「これほど大きな物体、特にロケットエンジンの部品のような密度の高い物体の場合は、大気圏再突入に耐えて地表に落下する可能性があります。最悪の場合、民家を破壊する危険性もあるでしょう」と話しました。
アメリカ空軍の発表によると、5月5日の打ち上げ後に軌道上で切り離された長征5号Bロケットの部品は、太平洋夏時間の5月11日8時33分(日本時間11日24時33分)に大気圏に再突入し、太西洋に落下したとのこと。
#18SPCS has confirmed the reentry of the CZ-5B R/B (#45601, 2020-027C) at 08:33 PDT on 11 May, over the Atlantic Ocean. The #CZ5B launched China’s test crew capsule on 5 May 2020. #spaceflightsafety— 18 SPCS (@18SPCS) May 11, 2020
ロケットの部品を追跡した軌道予測から、コアステージと見られる部品の一部は再突入の15分前にはハリウッドやニューヨークの上空を通過したとされており、マクダウェル氏は「こんなに多くの主要都市の上空を通過する大規模な再突入は見たことがありません!」とTwitterでつぶやいています。
At 11:21 Eastern time the CZ-5B rocket is predicted to pass 170 km directly above Central Park, New York. I've never seen a major reentry pass directly over so many major conurbations!— Jonathan McDowell (@planet4589) May 11, 2020
さらに、ロケットの部品が大気圏に突入した場所から2100km離れたコートジボワールのMahounou村で、長征5号Bロケットの部品と見られる長さ12メートルの物体が落下し、家屋に被害を与えたとの報告もあります。
Reports of a 12-m-long object crashing into the village of Mahounou in Cote d'Ivoire. It's directly on the CZ-5B reentry track, 2100 km downrange from the Space-Track reentry location. Possible that part of the stage could have sliced through the atmo that far (photo: Aminata24) pic.twitter.com/yMuyMFLfsv— Jonathan McDowell (@planet4589) May 12, 2020
幸いにも人的被害はないそうですが、マクダウェル氏は「時速28000kmのデブリが大気圏に突入してからこれほど遠くにまで行くというのは印象的です」と投稿しています。
Sources in Cote d'Ivoire, per @zolgafolDaniel, confirm the objects crashed in the 1530-1600 UTC timeframe, consistent with them being debris from CZ-5B-Y1. Impressive how far downrange debris can get at 28000 km/hr!— Jonathan McDowell (@planet4589) May 12, 2020