今では定番商品となった「コンビニコーヒー」ですが、どのようにして生まれたのでしょうか(写真:mits/PIXTA)

今では定番となった「コンビニコーヒー」。年間11億杯以上飲まれる超ヒット商品はどのようにして生まれたのか? 流通ジャーナリストの梅澤聡氏の新刊『コンビニチェーン進化史』よりお届けする。

カウンター商材の1つ、セブンカフェは、2013年1月に導入された。年間4.5億杯からスタートし、2018年度は11億杯を突破している。1店舗当たり1日平均130杯弱の販売数になる。

セブンカフェをはじめとするコンビニのカウンターコーヒーのヒットを契機に、日本のコーヒーマーケットは大きく変化した。日本国内のコーヒーの年間消費量は、全日本コーヒー協会の統計資料によると、生豆ベースで2012年度の42.8万tから2018年度は47万tへと大きく増加している。1人1週間当たりの飲用杯数も、インスタントや缶コーヒーが減少する中で、レギュラーコーヒーは2012年度が3.2杯に対して、2018年度は3.69杯と伸長している。

コーヒーチェーンと共存するセブン

コンビニのカウンターコーヒーが登場して以来、豆や抽出や雰囲気にこだわったコーヒー専門店の市場も拡大している。セブン‐イレブンの説明によると、専門店は2013年の4580店舗から2018年の5310店舗(予測)と、約15%以上も増加している。セブン‐イレブンが強調するのが、セブンカフェが既存のコーヒーチェーンのシェアを奪っていないことだ。

仮にレギュラーコーヒーの飲用回数が6年前と比較して同じ程度であったとすれば、コンビニコーヒーがコーヒーチェーンの市場を奪ったことになる。しかし、生豆の消費量も、レギュラーコーヒーの飲用杯数も伸長しているということは、コーヒー市場を新たに創造したと考えられる。

セブンカフェのみならず、同時期に新たなカフェをスタートさせたファミリーマート、ローソンの刷新は、消費者がレギュラーコーヒーに求める水準が高くなったという仮説に基づいている。仮にインスタントコーヒーや缶コーヒーから、客がスイッチしたのであれば、レギュラーコーヒーの優位性は保たれる。

ただし、毎日のようにコンビニコーヒーを飲み続けると、レギュラーコーヒーが味のベースとなり、今度はコンビニチェーン同士の競合か、いよいよコーヒーチェーンとの戦いになるので、各チェーンはラテを導入するなど、メニューを拡充したり、品質の強化に努めるなどしている。

コンビニカフェの特徴は、コンビニで購買されるすべてのフードと相性がよいことだ。クセがなく、すっきりとした味わいに仕上げている。スイーツも絡めて、午後から夕方にかけてのカフェタイムといった新たな利用動機を生んでいく。


オフィス立地であれば、出勤前とランチの需要を集中的に取り込んできたコンビニであるが、それに加えてランチ後から夕方にかけて、カフェ需要の創出にも力を入れ始めている。

一時期、カウンターに什器を設置したドーナツは、狙いとしてはカフェ需要の「ど真ん中」であったが、肝心のドーナツ自体の市場規模が小さく、底上げを図るには至らないまま姿を消している。

今後は、コンビニカフェと相性のよいカテゴリーの創出が待たれる。

40年前にコーヒーはすでに販売されていた

セブン‐イレブンで商品本部長の経験もあるコンサルタントの池田勝彦によれば、カウンターで販売するコーヒー自体は、彼が入社した1977年の時点ですでに展開していた。そのころはカウンター内でドリップしていたが、ドリップ後2時間までは構わずに提供していたので、おいしくなかった。その後、何年かは続けていたが、やがて売れなくなり、その方式はやめてしまった。

その後も、コーヒーマシンを導入するなど、カウンターコーヒー自体は連綿と続けてきた。それがなぜ、2013年のセブンカフェが突然売れるようになったのか。池田は、コンビニコーヒーの成功について次のように考えている。

味が差別化されているのはもちろんのこと、いろいろと販売方法も改善努力がされてきたことだ。マシンから挽きたて豆の香りが立ち上がったり、出来上がるまで閉まったままのガラス扉があったり、改善が施されてきた。いちばん大きかった要因は100円に抑えた売価設定である。これらが奏功して、コーヒーはセブン‐イレブンの来店目的のいちばん大きな要因の主力カテゴリーになっている。
(『月刊コンビニ』2017年1月号)

こうして切り口を変えて導入することにより、今までの日常生活の中で、購入してこなかった高齢者や、女性の購入者も増加して、レギュラーコーヒーの客層が拡大し、自宅やオフィスでコンビニコーヒーが飲まれるようになった。レギュラーコーヒーの「買われ方」が変わったのだ。コンビニが目指す需要創造の近年の成功例である。