性暴力に無罪判決がくだるのは何故なのか? 衝撃の判決理由から、課題が山積みすぎる日本の性犯罪に関する刑法を考える

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 2019年末、元TBSワシントン支局長の山口敬之氏から性暴力を受け、損害賠償を求める民事訴訟を起こしたジャーナリストの伊藤詩織さんが勝訴したことが大きな話題になりました。
 この判決に前後して、日本の司法における性暴力の扱われ方が注目を集めています。

 2017年、性犯罪に関する刑法が改正され、厳罰化などの改正がおこなれました。しかし、いまだに性犯罪に関する刑法上の課題は多く、まだまだ性被害者が守られているとは言い難い状況です。下記は、その積み残された課題の一部をまとめたものです。

 こういった状況を受け、2020年に再度、性暴力に関する刑法が改正されることも議論されています。
 そんな中、2019年3月、性暴力に関する加害者側の無罪判決が立て続けに出されました。ひとつはサークルの飲み会での強制性交、もうひとつは深夜のコンビニの帰り道での強制口腔性交、残りの2つは、実父からの性虐待についてでした。

 ニコニコ生放送「【#MeTooを考える】裁判所は、性暴力をどう裁いたか 被害者達はどう闘っていけば良いのか」において、北原みのりさん小川たまかさん牧野雅子さん、石川優実さん、の4名がこれらの判決について論じました。この記事では、その様子の一部をご紹介します。

左から、北原みのりさん小川たまかさん牧野雅子さん石川優実さん

※本記事はニコニコ生放送での出演者の発言を書き起こしたものであり、公開にあたり最低限の編集をしています。

北原みのり:
 2019年3月、性暴力に関する無罪判決が4件出されました。

 この4件に関して本当に動揺し続けたんですけども。これらの無罪判決をどのようにご覧になられましたか?

小川たまか: 
 福岡地裁と静岡地裁判決浜松支部判決は、「加害者に故意がなかった」ことが無罪の理由になりました。浜松支部判決は控訴が棄却され無罪が確定しています。

 名古屋地裁岡崎支部判決、これは抗拒不能の状況に被害者側が足りなかった。法が定める抗拒不能【※】を満たしていないから無罪ということになってますよね。最後の静岡地裁判決は、実行為自体がないとされた。

※抗拒不能…泥酔している、手足を縛られている、高度の恐怖を感じているなど、身体的・心理的に抵抗することが不可能な状態のこと。

 この4件から見ると、性犯罪の裁判で被害者にとって3つのハードルがあることがわかります。

 1つ目は行為があったことについての立証。
 2つ目は、暴行脅迫があったこともしくは抗拒不能の立証。
 3つ目は、加害者の故意があったかどうか。

北原みのり:
 故意なかったと言い張れば、それが認めてしまう状況ってことですよね。

小川たまか: 
 「同意だと思っていました」とか、言えちゃいますもんね。

無神経な被害者こそ無罪になってしまう

北原みのり: 
 最初の福岡地裁、初対面の40代の男性がテキーラを物凄い飲ませたんです。客観的な事実からすると、同意が無かったというか、抗拒不能だったというのが分かっているのに、そこまで認めながら、司法では「男性に故意が無かったので無罪」という判決。納得出来ないでしょ。

石川優実: 
 意味が全然わかんない。

北原みのり: 
 この裁判の記事書いたのが、毎日新聞の女性記者だったんです。
 最初はこのサークルの飲み会の事件なんてそんな注目されている裁判じゃなかったのに、記者さんがずっと裁判通って記事にすることが出来た。そういう意味で女性が社会進出するって凄い意味があるなと思うんですけど。

北原みのり:
 浜松支部の判決、深夜コンビニに出てきた女性に声を掛けて、家に付いて来られたら困るから、話しかけられたらとりあえず笑ったり。そういう状況で追い詰められていった上での事件だったんですよね。
 それが深夜であることとか、彼女がどこで自己判断したのかっていうところが問われたのが、この裁判。

小川たまか:
 加害者の故意がなかったと認定されたということは、男性が夜、見知らぬ女性に声をかけて少しお話をしたというような状況で、女性も性行為に同意したと男性側が勘違いしてもしょうがなかったと。そういう行為にお墨付きを与える可能性がある。
 それって誰が納得するの?って私は思ってしまうんですけど。4件の無罪判決のうち、この事件だけ控訴棄却で無罪確定しています。残念です。

石川優実:
 意味が全然わかんないです、ホントに。同意がなかったのを認めているのに無罪なんですか?

小川たまか:
 同意がなかったことは認めるけど、加害者は同意だと思い込んでいたから故意がない。という判決です。

 被害者支援関係者の中で有名な判決があります。
 ゴルフコーチをしていた50代の男性が、教え子だった10代後半の女性を「度胸試しだ」と言ってラブホテルに連れて行って、そこでレイプした事件。これも高裁判決では、被害者にとってはそれがレイプだったと認定されていますが、「加害者が無神経な男性で被害者の拒否に気づかなかった」ということで無罪に。

石川優実: 
 無神経者勝ちみたいってことですよね。そんなことあるんですか……?

父親からの性暴力

北原みのり:
 この4件のうち2件がね、父親からの性犯罪だったってことが、とても重たい現実だと思うんですよね。性暴力の中の被害で、かなりの被害が、子どもの時の実父であったり親戚であったりとか、家族の中で行われる被害であることがわかってきているんです。

小川たまか:
 地裁の時には、被害者が中学2年生の時から自分の父親からの性虐待が続いていて、それは認められた。彼女が19歳の時にあった2件のレイプ事件についても、彼女の同意に基づかない性交だったのも認められた。
 でもその時に、彼女があまり抗拒不能な状況とは言えなかったから、無罪というふうになってる訳です。彼女が拒んだ時もあった、お父さんから性交を持ち掛けられて、嫌だって拒否出来たこともあったのだから抗拒不能とは言えない。
 拒んだ時も拒まない時もあったのだから、全く拒めなかった訳ではないんでしょうっていう。

性暴力に関する司法への声の高まり

北原みのり: 
 性暴力の無罪判決増えてるのかな、っていう実感があります。

小川たまか: 
 これまでも年に10件位の性犯罪の無罪判決は出ていたようです。でも、メディアで報じられてなかったり、報じられても凄く小さな記事で終わっていたりして。
 それが記者さんに無罪判決を拾われて、それなりの反響を得た。反響を得て、また更に次の記事が出て、追って記事を書いてくれる人がいて、そういう循環が生まれたっていうのは、やっぱりここ数年の#MeTooの活動や、伊藤詩織さんの一連のアクションでの世論の盛り上がりがあったからだと思います。

生放送情報

 3月8日「国際女性デー」にあわせて、「性暴力を許さない」「性暴力をなかったことにしない」ために声を上げる東京のフラワーデモが開催されます。
 新型コロナウイルス感染拡大の影響でオンラインデモとなりますが、ニコニコではその模様を生中継します。