普通列車は停車駅が多く、特急列車は通過駅が多いですが、運転にあたり、どのような違いがあるのでしょうか。また、特急列車はベテラン運転士が乗務するのでしょうか。たとえば引退列車などは、ベテランが運転することが多くあります。

種別・車両によって決められた制限速度の違い

 数多く走る列車のなかで、ファンから注目を集める特急列車。JRでは「サンライズ瀬戸・出雲」「サンダーバード」「ソニック」、私鉄だと小田急電鉄の「ロマンスカー」、南海電鉄の「ラピート」など、特に有料特急は花形で、その事業者の顔ともいえるでしょう。

 かたや普通列車といえば「遅い」「古い」と、特急などの優等列車に比べると少し地味な印象は否めませんが、縁の下の力持ちとして日々の旅客輸送を支えています。どちらも列車という点は同じですが、では、列車によって運転方法に違いはあるのでしょうか。


駅に停車中の普通列車と特急列車(画像:写真AC)。

 特急と普通の運転方法の違いはいくつか切り口がありますが、分かりやすいのは制限速度です。まず路線ごとに最高速度が決まっており、さらにカーブや勾配、分岐器の状態など様々な条件により、区間ごとで制限速度が細かく決められています。

 それに加えて列車種別ごとにも最高速度が設定されています。特急列車がその区間の最高速度で運転されることは想像がつきますが、普通列車は同じ区間でも、特急と比べて制限速度が低く設定されている場合が多いのです。実際、駅を発車して最高速度まで達するにはある程度の時間がかかるわけですから、次の駅に停車する普通列車はそこまで速度を出す必要もありません。

 また、車両によって設計最高速度が異なる場合があります。特急は読んで字のごとく、速達性が重視されていることが基本なわけですから、おのずと車両の設計最高速度も高くなります。

「普通列車」の運転は意外と難しい

 では難易度に違いはあるのでしょうか。一般的な印象としては、普通列車より特急列車の方が格上で高速のために運転も難しいのではないかというイメージがあるかもしれません。しかし、本当にテクニックが必要になるのは、実は普通列車の運転であるともいわれています。


列車を運転する運転士のイメージ(2019年6月、草町義和撮影)。

 ATO(自動列車運転装置)運転などを除けば、運転士の技術が最も問われるのは駅停車時のブレーキです。いかに乗り心地良く、衝撃がなく停車できるかは運転士の腕の見せどころでもあります。その停車機会の分だけ技量が問われるシーンがあるわけですし、「どのようにブレーキをかけるべきか」と都度考える分、普通列車の運転は難しいといえるでしょう。

 特に、快速や急行などほかの種別も走っている路線では、運転士の誤認により、普通列車を運転しているにもかかわらず、停車駅を通過するリスクも高くなります。

 あわせて普通列車は、複々線区間を除けば次の通過・待ち合わせ駅まで、優等列車に追われる立場でもあります。つまりこの普通列車が遅れれば、後続の列車も遅れる可能性があるため、なるべく後続に影響を出さないよう定時で運転したいものです。鉄道運行の根幹は、普通列車が握っているといっても良いくらい、普通列車はタイムキーパーのような役割を担う重要なポジションなのです。

特急の運転では考えることがたくさん 見えないプレッシャーも?

 とはいえ、その反対に「特急列車だから運転が簡単である」というわけでもありません。停車駅の多い普通列車は利用客の乗降回数も多く、それが運転時間に影響することもありますが、特急列車は停車駅が少ない分、運転士自身の運転方法に左右されがちです。停車機会が少ない分、力行(自動車でいうアクセル)の仕方に運転技術が反映されます。たとえば、無闇にスピードを最高速度まで上げて停車駅手前でブレーキをかけるのではなく、「定刻だから○km/hまでで十分だ」「遅れているから○km/hまで出して取り戻そう」などといった運転につながっていきます。


小田急電鉄の特急ロマンスカー70000形「GSE」と、引退した7000形「LSE」(2018年2月、草町義和撮影)。

 また、特に有料特急となれば専用車両が運用されている場合も多いため、通勤形と比べて運転方法に違いが出ます。それは、車両によってブレーキの度合いや加速度が違うためです。たとえば小田急電鉄の特急「ロマンスカー」の一部は、運転台が展望席の上部にあるので、通勤形車両とは速度感覚や停車する際の位置感覚が異なります。

 特急列車を高速で運転中、前を走る列車に遅れが生じ、信号が「注意」を示しているとき、運転士は決められた速度まで減速しなければなりません。このとき、運転士は早めにブレーキをかけなければならず、普通列車の運転時とは別物の集中力が求められます。高速になるほど、列車の停止距離が延びるためです。

 ほかにも特急列車は、乗客の他路線への乗り継ぎや空港アクセスなど、運行そのものが与える影響は大きいので、運転士は目に見えないプレッシャーを抱えているかもしれません。

特急列車は運転が上手な運転士が乗務するのか

 運転士をはじめとする乗務員の勤務体系は、業務が時刻ごとに決められた「乗務行路表」や「仕業表」に則っています。つまり、運転士が1日どの列車のどの種別を担当するかは予め振り分けられており、特急列車を運転することもあれば、普通列車を運転することもあります。


博多駅で行われた、特急「ゆふいんの森」30周年出発式(2019年3月、恵 知仁撮影)。

 ただし事業者によっては、有料特急の乗務は、ある程度のキャリアや運転技術がなければ担当することができないなど、内規としての固有ルールが設けられている場合があります。ほかにも、新型車両のデビュー運転や引退列車、お召し列車のような特別なときは、ベテランや技術力の高い運転士が選ばれるのが通例です。

 やや話がそれますが、「経済運転」という考え方があります。たとえば次の停車駅が近ければ、運転士は発車後ほどなくしてブレーキをかけなければなりません。すぐ減速するのに最高速度まで加速すれば、乗り心地が悪いだけでなく、電車は無駄な電力を使います。これを減らそうとするのが経済運転です。自動車を運転中、先の信号が赤なのに無理にアクセルを踏まないことを想像するとわかりやすいでしょう。経済運転は多くの鉄道事業者に根付いていますが、経験を積んで、身につく動作でもあります。