新ジャンル市場で14年間、販売数量トップを続けてきたキリンビールの「のどごし」がサントリーの「金麦」に逆転された(記者撮影)

第3のビール」として知られる新ジャンル市場で、2005年から14年間、販売数量トップを独走してきたキリンビールの「のどごし」。だが、2019年の販売数量実績でのどごしは2位に陥落し、サントリーの「金麦」が初めてトップに立つことになった。

キリンビールによれば、のどごしブランドの2019年の合計販売数量は前年比10.1%減の約3470万ケースだった。一方、サントリーによると、金麦ブランドの合計販売数量は3800万ケースを上回る見込み(実績値は1月9日発表予定)。

2018年に新ジャンルで3位だったアサヒビール「クリアアサヒ」の販売数量は目標を下回る、前年比13.6%減の2831万ケース(2019年実績値)だったことから、金麦ブランドがのどごしブランドを上回ることが確実になった(下グラフの2019年は、2018年時点での各社目標数値)。

数々の新商品の中で唯一残った「のどごし」ブランド

キリンは2005年に「のどごし<生>」を発売。発泡酒などを元に造られるビール風味の新ジャンルは、ビールや発泡酒よりも安い酒税が適用される。「のどごし<生>」は当時、350ml缶1本で約110円(税抜き)と、手ごろな価格であることから売り上げを伸ばしてきた。

のどごし<生>はキリンが新ジャンル市場に投入した初めての商品だったが、ビール業界においてヒットの目安とされる、販売数1000万ケースを優に超える2800万ケースを初年度に売り切った。当時のキリンでは「一番搾り」「麒麟 淡麗<生>」に次ぐ、記録的大ヒット商品となった。


のどごし<生>の販売ピークは2011年で、4776万ケースを販売。同年のキリンが販売したビール類の中で約30%(数量ベース)を占める主力ブランドになった。

しかし、のどごしブランドは2011年以降、ほぼ毎年販売数量を減らしている。理由の1つが広告宣伝費の減少だ。2000年代後半からキリンは海外投資を積極化しており、2011年には約3038億円を投じてブラジルの飲料会社を買収。投資積極化に伴い、2007年まで年間900億円を超えていたキリンの広告・販促費は2011年に約750億円へ減少。そのことも一因となって、キリンは国内ビール類のシェアも落とした。

しかし、その後ブラジル事業が苦戦し始めると、広告・販促費を増やして国内ビールに再び力を入れ始め、とくにのどごしブランドの拡販に注力。派生品や期間限定品、シールによる応募キャンペーンなど、「のどごしの販売を下げ止めるため、あらゆる手を尽くした」(キリン広報)という。その結果、2015年に販売数量が前年超えとなった。

のどごしブランドが販売数量を落としたもう1つの理由は、トレンドの変化が挙げられる。のどごしは「新ジャンルで数少ない大豆由来のブランド」(業界関係者)というように、発売当初主流だった製法でつくられるブランドだ。ただ、現在は麦の風味を打ち出した、よりビールに近い味が消費者の支持を得ており、麦風味の商品も増えている。

サントリーは「金麦」新商品で対抗

もちろんキリンも無策だったわけではなく、のどごし派生品として、2017年に麦芽由来の「のどこし スペシャルタイム」を投入したが、販売減少に歯止めはかからなかった。

サントリーはライバルの転落を黙って見ていなかった。金麦ブランドの販売数量も2016年から3年連続で前年割れしていたが、2019年2月に金麦ブランドの新商品「金麦<ゴールド・ラガー>」を投入した。コクと飲み応えがあることを訴求した商品だ。

金麦<ゴールド・ラガー>」は2018年にキリンが投入した新ジャンルの「本麒麟」と同じ赤いラベルに金のロゴを採用し、業界内では「本麒麟包囲網」と呼ばれている。「金麦ブランド合計でのどごしブランドの販売数量を上回れることができれば、営業現場にとっては大きな追い風となる」(サントリー広報)と、販売首位を奪取すべく拡販に尽力してきた。

各社にとって新ジャンルは、2020年も重視していく市場だ。2018年の新ジャンルの販売数量は前年比7%増の1億5000万ケース、ビール類市場の38%を占めた。ビール類全体の販売数量が落ち込む中で、毎年ほぼ35%を占める手堅い需要がある。

現在、ビールに対して77円(350mlあたり、以下同)、発泡酒に対して46.99円、新ジャンルに対しては28円の酒税がかかっている。ただ、この酒税の差は2026年に向けて段階的に一本化されることが予定されている。2020年10月には第一段階として、ビールは7円下がって70円となり、新ジャンルは約10円上がって39円になる。

酒税改正前の駆け込み需要を見込む

各社が見込むのが第一弾の酒税改正前の駆け込み需要だ。新ジャンルの酒税の方が低い状況がしばらく続くため、サッポロビールは2月、アサヒは3月に相次いで新商品を投入する。ビール類出荷数量のうち約7割を新ジャンルが占めるサントリーは、金麦ブランド強化を一層進めるとみられる。


1月8日の事業方針発表会で、キリンビールの布施孝之社長(記者撮影)

キリンは麦風味でコクのある本麒麟の販売が好調で、2019年は前年比60.6%増の1510万ケースを販売した。2020年も同26%増の1900万ケースの販売を目指す。のどごしブランドについては、「本麒麟の伸びを帳消しにしない程度の減少にとどめる」(キリンIR)とする。

キリンは新ジャンルの分野で、巻き返すことができるか。のどごしの落ち込みは防げそうにないが、当面は本麒麟とPBを含めた全体での勝負に持ち込む構えだ。