一流経営者が「服と食事」にこうも無頓着な理由
ジョブズやザッカーバーグ、オバマはいつも同じ服を着ていたそうですが、その理由は……(写真:アン・デオール/PIXTA)
「シンプルライフ(持たない暮らし)」は日本でも浸透しつつある。ところが、モノを捨てられずため込んでしまう人は多い。そういう人は、いったい何が悪いのだろうか。
そこで、本稿では、日本マイクロソフト元社長の成毛眞氏が、常識にとらわれず、モノや習慣をバッサリ捨てていく極意をご紹介する(本稿は、成毛眞箸『一秒で捨てろ!』の一部を再編集したものです)。
「服選びをやめればクリエーティブになれる」は本当か
現代人はモノを持ちすぎだ。なぜ、捨てられずに、モノをため込んでしまうのか。それは、「ムダなこだわり」があるから。そんなものは即刻捨て去るべきだ。
アップルの故スティーブ・ジョブズといえば、いつ見ても黒のタートルネックとジーンズしか着ていなかった。その影響で、「毎日、同じ服を着ていれば、クリエーティブな人間になれる」みたいなことが言われるようになった。
同じ服と決めていれば、選ぶ手間がなくなる。そういう意思決定を減らすことで、脳のリソースをムダづかいすることなく、クリエーティブにつぎ込める――。そういう論法であるようだ。
確かに、ジョブズ以外にも同じような考え方をしている人を見かける。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグは、白いTシャツとジーンズばかりだ。また、クリエーティブとはいえないかもしれないが、アメリカ前大統領のバラク・オバマも、紺のスーツと白いワイシャツばかり着ていた。2人とも、余計な意思決定に頭を使いたくない、ということを述べている。
実は私も無意識にそうしている。サラリーマンを辞めてから20年間、毎日ほぼ同じような服を着ている。
パンツは「パタゴニア」のジーンズの完全一択。8本を代わる代わるはいている。ここ5年でパタゴニアジーンズ以外をはいたのは式服のときだけだ。
アッパーも同様に、夏は「ユナイテッドアスレ」かパタゴニアのTシャツに、「パパス」のアロハシャツ。ユナイテッドアスレのTシャツは、1着491円程度と安いのに、高級感があり、肌はまったく透けない「6.2オンス」をアマゾンでまとめ買いしている。パタゴニアのTシャツは少し高額だが、見た目以上に肌触りが良い。
冬は「メイカーズシャツ鎌倉」のワイシャツに、「ユニクロ」の紺セーターしか着ていない。シューズは「ニューバランスMRL996」。いずれにしても、ほとんどネット通販でしか買わない。
意外に時間をムダにしているのが準備時間だ。出かけるだけなのに30分くらい準備する人がいるが、時間を持て余していると言わざるをえない。
私の場合、鞄の中身も極限までシンプルにしている。モバイルバッテリーが搭載された鞄の中身は、13インチの「MacBook Pro」と予備のバッテリー、メガネくらいだ。いっさい準備に時間をかけない。ジャケットが必要な場合は、丸めて収納してもシワになりにくい多機能ジャケットを放り込む。1分もあれば外出できるというわけだ。
ちなみに鞄は、「BOPAI」という無名のブランドだ。中国製で驚くほど軽くて丈夫、マチが広くて使い勝手がいい。2日くらいの出張なら余裕でいける大きさだ。高級百貨店で売られていてもおかしくないクールな見た目だが、たったの1万5000円。アマゾンで購入したから、送料もなし。われながらいい買い物をしたと思う。
食事は「定番」を決める
食べ物に関しても、極力こだわりを捨てるべきだ。
私は、昼食に関しても、20年間、ほとんど同じようなものばかり食べている。麺類は確定で、そばが7割、うどん・ラーメン・パスタなどが3割。そばは鶏南蛮、うどんは卵とじ。実にシンプルである。
考えてみると、夜の外食も焼き鳥屋かそば屋ばかりだ。しゃれたレストランや割烹に行くと、店主か料理長が厨房から出てきて一品ずつ料理の説明をしてくれてなかなか食べさせてくれない。能書きを聞いたところで、刺身の味が変わったりするわけではないのだから、さっさと食べさせてほしい。アラカルトも、メニューが複雑でわかりにくかったりする。
そば屋を推すのは、手間をかけるほど美味いしいのが明確だからだ。寿司は新鮮なネタの仕入れルートを確保して、半年ほどの修業を積めばそれなりの味を提供できるが、そばはそうはいかない。職人としての修業を積むほど味に深みが増す。店主が一皿ごとにいちいち能書きを垂れないのもいい。むしろ、「麺が伸びるから早く食べろ」と急かされるくらいだ。
朝は食べないが、食べるときは決まって「ソーセージエッグマフィン」。そう、「マクドナルド」だ。最近は、「倍グラン クラブハウス」(通常の1.7倍の肉厚パティ2枚が挟み込まれた夜マック限定「グラン クラブハウス」。2019年2〜3月に期間限定で昼間も販売された)もマイメニューに加わったが、ほかのものは食べない。
酒も、飲むとしたら「メーカーズマーク46」のペリエ割りだけだ。
SNSを見ていると、毎日のようにミシュランの3つ星レストランのような場所に足を運んでいる人がいるが、愚の骨頂である。田舎者がルイ・ヴィトンのモノグラム・バッグを持つのと一緒で、所詮「ブランド信仰」だろう。もちろん、ハレの日に高級レストランを利用したり、ワインの教養を得るために通い詰めるのは認めるが、普段は質素倹約に努めるべきだろう。
ということは、私はアマゾン、ユニクロ、パタゴニア、メイカーズシャツ鎌倉、ユナイテッドアスレ、パパス、そば屋、焼き鳥屋、マクドナルド、メーカーズマークさえあれば生きていけるということだ。
「定番」を決めれば、時間の節約になる
このように自分の中で「定番」を決めておくのは、特別なポリシーがあるわけではない。脳の処理能力を空けているわけでもない。ただただリアル店舗に服を買いに行ったり、朝起きてから服を選んだり、店を予約したり、メニューを子細に検討したりすることがメンドーだしキライなのだ。
要するに男子小学生のままで、まったく成長していないのかもしれない。それを発達障害というのだろうか。
とすると、因果関係は逆かもしれない。つまり、ジョブズなども発達障害があって服や食事などにさほど興味を持つことのない子供のまま大人になったがゆえに、子供のような発想ができていて、それをわれわれはクリエーティブだと思い込んでいるだけかもしれないのだ。
だから、毎日同じ服を着たからといって、クリエーティブになれるかわからないし、私は無意識にやっているにすぎないのだが、意図的にやってみたら、少しは効果が得られるかもしれない。少なくとも、服装にダラダラ悩んでいる時間の節約にはなる。
1日の終わりにぜひ振り返ってみてほしい。はいている下着が高級ブランドでもユニクロでも、ランチがホテルのレストランでも駅前の牛丼店でも、ほとんど自分自身は何も変わっていないことに気づくだろう。だったら、悩む時間は極力減らしたほうがいい。