貸し出す種をまとめたアルバム。栽培から採種を経験してもらうことで農業の大切さを伝えている(那覇市で)

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 種を次世代につなごう──。那覇市のブックカフェ&ホール・ゆかるひは、種を貸す図書館「シードライブラリー」を展開している。貸し出した種で栽培・収穫・採種してもらい、貸した量より少し多くの種を返してもらう。子どもたちに作物を身近に感じてもらうことを狙いとし、種や農業の大切さを伝える試みに賛同が集まる。

きっかけは種子法廃止


 ニガウリ、パパイア、島ダイコン……。カフェを営みつつ本を貸し出す同店の一角には、一風変わったアルバムがある。希望者に貸す30種類の植物の種を一覧にしたものだ。希少な在来種を含め、幅広い種を網羅する。県の言葉や文化を守るのがモットーの同店。館長の野池道子さん(67)は「種も若い世代に残していきたい」とほほ笑む。

 きっかけは、主要農作物種子法(種子法)の廃止に対する危機感から。沖縄に講演に来た山田正彦元農相らが店を訪問。山田元農相から「本を貸しているなら、種も貸したらどうか」との提案があり、図書館のように種を貸し借りする店舗を目指して準備した。県内の農家から種を譲り受ける段取りを整えるなど半年ほどかけて、今年10月に実現にこぎ着けた。

 種は一度に数粒から数十粒を貸す。借りた人が実際に栽培し、種を1割ほど増やして返すのがルールだ。「芽が出て大きくなり、食べ物や次の種になる。成長を見守り、身近に感じてほしい」と野池さんは願う。

 種を借りた人は10月だけで20人超に上る。約20種類を借りた糸満市の池野洋介さん(41)は「種子法の廃止など、一般にあまり知らされずに制度が変わることに危機感を覚えた」と強調。農業の経験はないが、「種を守るため自分で実際に栽培してみて、取り組みを発信していきたい」と、芽吹いたばかりの作物の収穫を楽しみにする。

 その他、近隣のインターナショナルスクールの教諭と児童が授業の一環で来店したり、店舗まで種を届けに来る人がいたりと、種を通じて仲間の輪が広がりつつある。

 同店は今後、貸す種を100種類ほどに増やす方針。種ごとに特徴をまとめた冊子「シードブック」も作る。それぞれの種が生まれ故郷(原産地)や性格を一人称で紹介する形式。めくっていくと種まきや収穫の時期、適した料理やレシピまで分かるようにする。

 「種を大事に思う人は想像以上に多くいた」と野池さん。「仲間を増やして、豊かな食の基本になる種をつないでいきたい」と目を細める。