白石和彌監督『ひとよ』、田中裕子の起用秘話に拍手喝さい「作品の格が上がった」
映画『ひとよ』第32回東京国際映画祭 舞台挨拶が30日、都内・EXシアター六本木にて行われ、白石和彌監督が登壇した。
劇作家・桑原裕子率いる劇団KAKUTAの舞台作品を、『凶悪』『孤狼の血』などで知られる白石和彌監督が映画化。15年前、ある家族に起こった一夜の事件。それは、母とその子どもたち三兄妹の運命を大きく狂わせた。一家はその晩の出来事に囚われたまま別々の人生を歩み、15年後に再会。葛藤と戸惑いの中で、一度崩壊した絆を取り戻そうともがき続ける。
15年前の事件に縛られ家族と距離をおき、東京でうだつのあがらないフリーライターとして働く稲村家の次男・雄二役の佐藤健をはじめ、鈴木亮平、松岡茉優、田中裕子、佐々木蔵之介、音尾琢真らが出演する。
上映後の舞台挨拶に白石監督が登場すると、映画を見終えたばかりの観客からは割れんばかりの拍手が。昨年の『孤狼の血』に続いての東京国際映画祭登壇となる白石監督は、満員の会場を見渡しながら、感慨深げに「東京国際映画祭は年々良い映画祭になっていますね」とコメント。
劇団KAKUTAの桑原裕子による同名舞台を映画化するに至った経緯を聞かれた白石監督。KAKUTAの舞台は観ていたものの、本作の原作は未見だったといい、「原作の舞台を観た制作会社ROBOTの長谷川晴彦プロデューサーが心を撃ち抜かれて、『ぜひ白石監督とやりたい』とオファーをしてくれました」と振り返る。続けて、「母親が子供たちを守るために父親を殺すというショッキングなスタートですが、母親と子供の間や兄妹間の愛など普遍的なことを描いています。そこからどう前に進んでいくかを描いている点が魅力的でした」と、作品の根底に流れるテーマについて熱くコメントした。
また、佐藤健や鈴木亮平、松岡茉優、佐々木蔵之介といった豪華キャストが出演する中、注目が集まっているのは、久々にスクリーンでメインキャストを演じる大女優・田中裕子。本作を映画化するにあたり、まず直感的に田中に母・こはる役をやって欲しいと感じたと振り返る白石監督。
田中の出演が決まらなければ企画自体をゼロにする覚悟だったといい、「冒頭で母が父を手にかけるというショッキングなシーンがあるので、説得力を持たせたいというのが一つの理由です。それには、田中さんが若い頃からこれまで演じてきた“情念の強い女性”が必要で、この映画にはそれが非常に助けになってくれました」と、田中を希望した理由について感慨深げに語っていた。
そんな田中の撮影中の様子について聞かれると、「僕は割と猫背なんですが、ずっと背筋が伸びてました(笑)。普段はもっとダメな人たちを描いているんですが、田中さんに品があるので、映画全体の格が上がった感じがしていました」と笑いも交えつつ率直な感想を語り、観客も納得の様子。更に、「凛としているし、美しさはもちろんですが、それだけじゃないかわいらしさもあって、表現のレベルが非常に高い方だなと感じました」と、念願叶ってのキャスティングに大満足のようだった。
続いて、会場に詰め掛けた観客へのティーチインコーナーとなり、「三兄妹を演じた佐藤らのアンサンブルが非常に良かったが、それは始めから想定されていたものでしょうか?」という質問が。監督は、ほぼどのキャラクターも第一希望のキャストが決まったといい、「佐藤健さんと仕事がしてみたいという希望があったので、そこから大樹役の鈴木亮平さんと園子役の松岡茉優さんを決めていきました」と回答。
田中を含めた稲村家の面々だけでも豪華キャストだったが、そこからはとにかく上手い人を選ぶことがテーマになったという。「演出家としては、現場が自動的に芝居合戦になるのですごく楽というか、幸せな時間を過ごさせてもらいました」と、自然と相乗効果の生まれる現場の様子を振り返っていた。加えて、『孤狼の血』に続いての白石組参加となり、大樹の妻・二三子を演じるMEGUMIについては、「『孤狼の血』では1シーンだけ登場する、ある種の“セクシー要員”だったんですが、そこだけで『この人は本気で芝居している人なんだ』と感じて、いつかまた一緒にやりたいと思っていました」と、思わぬ続投エピソードも飛び出し、頷きながら真剣に話を聞いている様子の観客も多数見られた。
続いて、「三兄妹のすれ違いを表現するにあたって意識したことは?」と聞かれると、「距離感の指導など細かくはしませんでしたが、自分の弟との状況を参考に伝えたりはしました。“今自分は何を撮るべきか”を、キャスト陣に導いてもらった気がします。こはるが15年ぶりに帰ってきた時の反応もそうだけれど、それぞれの関係性をベースに佐藤さんたちが話し合いながら作ってくれました」と語り、キャストたちの自主性に任せることが、かえってリアルな空気感を生み出していたことを明かした。
最後に白石監督は、「観て頂いたら色んなことを感じて頂ける作品だと思うので、他の人にも勧めて欲しいですし、東京国際映画祭も11月5日(火)まで続きますので、ぜひ楽しんでください」とコメントし、大盛況の中イベントは幕を閉じた。映画『ひとよ』は11月8日(金)より公開。
第32回東京国際映画祭は2019年10月28日(月)〜11月5日(火)に開催
公式サイト:2019.tiff-jp.net/
映画ランドNEWS - 映画を観に行くなら映画ランド