「レンタル彼氏」を利用したら驚きの連続だった
近年増えつつある女性に「癒やし」を提供するサービスを、筆者がレポートします(写真:GrandJete/PIXTA)
昨今、ネットの世界で急速に多様化を見せている“女性向け性サービス”の実態とはどのようなものなのでしょうか。書籍『男を買ってみた。〜癒やしのメソッド〜』を上梓した、女性専門生活カウンセラー・鈴木セイ子氏が解説します。
急増する「女性向け性サービス」
レンタル彼氏、女性専用性感マッサージ、出張ホスト……ネット検索すると、女性をターゲットにしたさまざまな性的サービスが出てきます。
私が約1年半前に「レンタル彼氏」とネット検索した時は、3件ほどしか出てこなかった記憶がありますが、今や何ページかにわたるコンテンツ数に膨れ上がっています。2019年はまさにその過渡期にあると言えるでしょう。
人知れず、こっそり利用する女性がそれだけ増えたということです。
「プロを使うようになったらもう人生終わる気がする……」
正直、私も以前まではそう思っていました。
しかし今回、私自らいくつかのサービスを利用してみましたが、ある意味期待を裏切るほど、皆さんイケメンばかりでした。しかも優しい! 秋の空に似た“女心”をよく研究され、お勉強しているプロたちでした。
彼らのホスピタリティーに触れ、これは女性たちが前向きに生きていくための1つのコンテンツになる、いやすでになっているのではないかと感じるようになりました。
いったいどんなサービスなのか、ざっくり言えば以下のようなかんじです。
◎レンタル彼氏……本物の彼氏になりきって、食事やテーマパーク、ショッピングなどへデート。
◎女性専用性感マッサージ……ホテルや自宅などへ出張、アロマオイルなどを使用したボディートリートメント並びに、ハンド、大人のおもちゃを使用した性感マッサージ。
◎出張ホスト……「レンタル彼氏」と「女性専用性感マッサージ」の中間的サービス。食事やショッピングなどのデートの他、自宅やホテルなどへの出張デート、性感マッサージも可。
その中から今回は、「レンタル彼氏」を利用してみた私の体験談をご報告したいと思います。
検索サイトで「レンタル彼氏」と入力して、 “彼氏”たちのプロフィール写真を見て驚いたのは、ほとんどの皆さんが顔出しをしていること。
できれば30代がよいと願う私に反して、レンタル彼氏のほとんどが20代。可愛らしいジャニーズ系や韓流系が多いので、割と若い客層をターゲットにしている印象です。
もちろんイケメンも多いのですが、驚くほどのすごいおじさんとか、まるでイケメンの要素がない“彼氏”まで、まさに玉石混淆といった感じ。
憧れだった超ベタなデートをしてみたい
現在40歳の私には、結婚して14年連れ添う夫がいます。結婚して間もなくからセックスレスになってしまったので、“結婚がゴール”だったのかもしれません。
私が結婚したときは夫からプロポーズなどなく、長く交際していたという理由からなんとなくお互いに、「じゃ籍だけ入れようか」というダラダラ婚だったので、ロマンチックな恋愛を経験してきませんでした。
若いイケメンと“手つなぎデート”だけでも十分に非現実だけれど、せっかくなら、若い頃憧れていた「遊園地で手をつなぎながら回って、ソフトクリームを鼻先につけながら笑い合って、観覧車の中でプロポーズ」みたいな、90年代の恋愛ドラマのようなベタなデートをしてみたい……。
そんな願いをかなえてくれそうな“彼氏”は、たぶんある程度熟練してないときっとアタフタしてしまうだろうと思い、口コミ数で人気がありそう&優しい癒やし系、経験年数が半年以上という条件で探し、あとは写真から伝わる雰囲気を見て、身長180センチ、細マッチョな癒やし系イケメンをチョイス。
場所は「横浜みなとみらい21」の「よこはまコスモワールド」で、2時間のデートコースをお願いすることにしてみました。
サイトから、日時、指名する“彼氏”、待ち合わせ場所、2時間デートコースと記入し、私の名前は「みーちゃん」という仮名で予約。代金は2時間1万2000円+指名料2000円で、計1万4000円。
予約した翌日の昼前に、指名した“彼氏”カナト(仮名)からショートメールがきました。
カナト<みーちゃんはじめまして。〇〇のカナトと申します。この度はご指名いただきありがとうございます。5月8日18時半に桜木町駅改札でお待ち合わせと伺っています。癒やしの時間を提供できるよう努めますので、どうぞよろしくお願いします。>
私<カナトさん、はじめまして。よろしくお願いします。当日、超ベタに遊園地デートしてもらえますか?>
カナト<はい、大丈夫ですよ! 遊園地大好きです!>
私<よかった! 若い頃にやれなかったことをやってみたいと願う40女です(苦笑)。そして、もう1つ超変なリクエストがあるのですが、聞いてもらえますか?>
カナト<40歳じゃまだまだお若いですよ! 僕にできることがあれば何でも言って下さい!(^^)>
私<カナトさん、ありがとう(^^)私、既婚なんですが、旦那とはダラダラ付き合った延長で籍入れただけで、実は、プロポーズを受けたことがないんです。それで、遊園地でいかにもっぽく、プロポーズ体験してみたいという超変なリクエストです>
私<超変なこと言っているのはわかっています。ホントごめんなさい(汗)。でもどうしても30代最後にやり残したことがないようにしたくて。私の夢をかなえてもらえませんでしょうか>
勢いよく言ってみたものの、慌てふためき、やや年齢詐称しながら言い訳をバシバシ送りつける私。
カナト<そうなんですね! 僕自身、プロポーズの経験がないのでうまくできるかわからないけど、やってみますね!>
おぉーーーー!! 間が空くことなく、すぐに快諾とは!!
いよいよ当日。朝から落ち着きません。今日の“彼氏”は私より6歳年下。洋服をどうしようかと、待ち合わせの夜までには時間がまだまだあるのにすでに緊張してきました。
桜木町駅に向かう電車の中で、窓ガラスに映る自分の姿が妙に気になります。
待ち合わせ場所の柱に背中をもたれかけ、洋服の色と、目印のバッグ、髪型をメールします。
遠くから長身小顔のイケメン風が歩いて来るたびに、ドキドキ。動悸なのかドキドキなのか途中混乱しながら待つ時間は、とても長く感じました。
初めての「レンタル彼氏」との対面
あまりキョロキョロしてても恥ずかしいし、なんとなくうつむいていると、白いスニーカーが近づいてきて「みーちゃんですか?」と、頭の上の方から声がしました。
声のするほうにゆっくり顔を上げると、180センチ長身の西島秀俊似のイケメンが優しい笑顔で私を見ています。くるぶしまでのパンツに黒のジャケットをさらっと着こなし、スマートなファッション。
「あ、はい。カナトさん? よろしくお願いします」
「お待たせしてしまってすみませんでした。寒くなかったですか?」
「うん。ちょっとだけ。でも大丈夫です。今日は変なリクエストしちゃってごめんね。でも遊園地、楽しみです」
アトラクションに乗るたびに、いちいち私がお金を払ってはなんとなく“なりきれない”感じがしたので、本日の支払い分1万4000円に加え、アトラクション2人分の金額、途中で買う飲み物とかを考えて、ひとまず2万円をポチ袋に入れて、
「先に渡しちゃっていいですか? 2万円入っているので、今日の支払い分と遊園地の乗り物代、この中でやりくりしてもらえるとうれしいです」
「わかりました。全然大丈夫ですよ! ありがとうございます。僕も楽しみです! みなとみらいなんて、もう10年ぶりとかかも! なんか新鮮でうれしいです」
みなとみらいの遊園地へ歩きはじめた私たちは、簡単な会話をはじめました。
「あ、あの、敬語はやめない?」
「うん。そうだね」
「みーちゃん、手つないでいい?」
「うん」
私は右手を差し出し、カナトはそっとその手を拾ってくれました。
「みーちゃん、冷たくなっちゃってるね。待たせちゃったから寒くなっちゃったね。ごめんね」
冷えているはずの手が、緊張のせいで汗ばんでしまいます。
「どの辺に住んでるの?」とか、「趣味は何?」とか、「好きな音楽は?」「昼間はどんな仕事してるの?」など、少しずつ緊張を解きほぐすかのように、お互いのいろいろを話しながら、あっという間に遊園地に到着しました。
遊園地にどんな乗り物があるのかわからなかったので、一緒に園内マップを見て、絶叫や目が回る系が苦手な私の乗れそうな、ゆるいアトラクションにいくつか乗りました。
あっという間に40分が経ち、いよいよ観覧車へ向かうことに。ひとり勝手に緊張が高まります。
カナトは人気の“彼氏”で、もう1年近くこの仕事をしているそうだけれど、「女性に免疫がバリバリある」という雰囲気はまるでありません。
「女性に慣れてない感じって伝わっちゃった? 女心がわからなくて過去にもプライベートで失敗しちゃったこと沢山あって、少女漫画とか、『テラスハウス』とか、いろいろ見て勉強してるんだけど、俺そもそも女性に対してのセンスがそんなないんだと思うんだよね(苦笑)。だから一生懸命でも上手に伝わらないことが多いみたいで。この仕事して、女性について勉強になること沢山あるんだ」
カナトは、名門大学を現役卒業の後、大手企業に勤務する現役サラリーマンだといいます。そんな会話をしながらいよいよ観覧車へ乗り込みます。
先に私が促されて乗り込み、後からカナトが入ります。カナトは向かい側ではなく、私の真横に並ぶように座りました。
プロポーズを心待ちにしていたが…
横浜の夜景が目の前に現れ、上昇するにつれて、今か今かとドキドキしはじめる私。
動揺しながらも、「わぁーほら高いねー」「ランドマークタワー大きいねー」とか、「夜景きれいだねー」とかたわいもない話から、会話が弾みます。
会話が弾むにつれて私は、「どんな悩みを聞いてあげることが多いの?」とか、あれやこれやと質問しまくってしまい、そして気がつけばテッペンを通り過ぎてしまったのです!! バカ私! 大馬鹿!! 結局、観覧車プロポーズの機会を逃してしまいました……。
カナトよ、話をしていたとしても、観覧車のテッペンにきたら私の口を封じてプロポーズしてくれてもよかったんじゃないか!?
この日は、はじめの1時間は遊園地で遊んで、後半は近くの眺めのいいバーで軽く飲むことに決めていました。ラストチャンスは、このバーしかありません。
バーでは夜景を眺めながらのカップルシートに座りました。
私は普段は飲まないような可愛らしいカクテル、カナトはビールをオーダーして、気怠く流れるジャズを聞きながら、学生時代の話とか、仕事の話とか、お互いのたわいもない話がまた続きます。
私はまだかまだかと、あまり会話が耳に入ってこなくて、むしろずっとドキドキしていて、お酒ばかりすすんでしまいます。
ここでまた、1時間くらい話をしていたけれど、一向にプロポーズの空気になりません。
というか、話をしていると、カナトがいかに真面目で誠実な青年であるか伝わってきて、こんな青年に無理を言ってしまったと、やや反省するような気持ちにすらなってきました。
そして、気がつけば2時間コースのタイムオーバー。
内心、「お金払ったのになんだよチェッ」という気持ちになったけど、「まぁいいや、仕方ないって思おう」と、もうすっかりプロポーズの件は諦めていました。
帰ろうとする私に彼が言った言葉
「もう2時間経っちゃったね。まだ飲み物あるけど、もう時間だからあとは自由にしてね。私はこれ飲んでから帰るね」
「時間は大丈夫だよ。もっとお話ししたいから一緒にいよ」
カナトの言葉にどこかホッとした気持ちになりました。でも、また普通のたわいもない話に結局戻ってしまい、お店のラストオーダーも終わり、いよいよ会計の時間に。
化粧室へ立ったついでに会計を済ませ、「じゃ、行こうか」と私から帰ろうと促し、お店を出ました。
「みーちゃん、もう1つのリクエスト、まだでしょ」
カナトから切り出してきました。
「みーちゃん、俺ね、正直に言うと、告白ってしたことないんだ。だからすごく緊張する。ていうか、本当に緊張してるんだ今」
さっきまで「チェッ」と思っていたけれど、「緊張する」と言いながら何度も何度も大きく深呼吸するカナトがなんだかかわいく見えてきました。
そして、カナトは私の両手をギューと強く握りなおして、私の目を真っ直ぐに見て口を開きました。
「みーちゃん、そんなきれいな眼で見つめられると、余計に緊張するよ」
また大きく1つ深呼吸してカナトはまた話しはじめました。
「みーちゃん、今日は本当に楽しかったよ。みーちゃんと、ほんの数時間だけど、いろんなこと沢山話して、みーちゃんは普段からすごく頑張ってるって知れたし、みーちゃんはすごく魅力のある女性だと本当に思ったよ。
しかも、すごくチャーミングでかわいいところもたくさん知れて、もっと一緒にいたいって思った。
みーちゃん……だから、俺……、みーちゃんのこと一生大切にしたい……俺と結婚してください!」
ドッキーーーーン!! さすがパワーワードのオンパレード!!
冷たい海風も手伝って、私はなんだか涙目になっていました。
もはや私の顔面は正気を失って、カナトの首に抱きつき、そしてそのまま、しばらく抱き合いました。
腕を解こうとしたときに、顔を寄せ合い数分間の優しいキス……。カナトはスローなキスをしながら私の背中を優しくさすってくれました。
私は「プロポーズデート」というシチュエーションから、すでに付き合ってる体(てい)でのストーリーで、台本にありそうなプロポーズがくるのかと勝手に思い込んでいたけれど、カナトが選択したのは、実際に今日会って、少ない時間で知り得た「私自身」に対してのプロポーズだったことにとても感銘を受けました。
観覧車でもったいぶられ、夜景を前にしたバーでももったいぶられて、餌を前にお座り待て状態だったから、なおさらサプライズ感があってうれしかったのかもしれません。
普段男勝りな私ですら、一瞬“乙女”の顔をしていたと思います。
もう時計は23時を指していました。カナトから追加料金の請求もなく、「きちんとリクエストに応えるまでが仕事だ」というプロ意識が見えました。
デート後の心遣いまで完璧
帰りの電車はお互い反対方向だったので、私が先に乗りホームで見送ってもらいました。
電車が発車して3駅ほどに来た頃に、カナトからメールが。
カナト<みーちゃん、今日は本当に楽しかった! ああいうとこビシッと決めれる男になりたい。またリベンジさせてー!
みーちゃんの潤んだ瞳がかわいすぎたよ。
今日はいい夢見れそう。
気をつけて帰るんだよ♡>
帰りのフォローアップまで、パワーワードを並べてきちんと行き届いたケアに心底感動しました。
「こういうところで働く人間はまともじゃない。利用する人間もまともじゃない」と偏見をもつ方もまだまだ多いだろうと思います。
何をもって「まとも」かという問題は置いておいて、彼ら、彼女らはいたって“まとも”です。いたって普通の社会生活を送っている方たちです。
「なるべくならば、このようなサービスを使ってほしくない。だって、このようなサービスを使うということは、少なくとも心が傷つくようなことがあるからじゃないですか。でも、何かつらいこととか悲しいことがあってどうしようもないときとか、孤独で押しつぶされそうなときは、こういうサービスもあるんだと知って、癒やされに来てほしい。とても複雑な気持ちなんです」という言葉をくれた、ある“彼氏”にとても共感しました。
『男を買ってみた。〜癒やしのメソッド〜』にはレンタル彼氏ほか、女性専用性感マッサージ、出張ホスト、ホストクラブを利用した体験を書きました。新たなコミュニケーションのカタチ、新たな女性社会の幕開けの1つの例としてお読みいただければ幸いです。