事故車両は、衝突現場の踏切を大きく通り過ぎて停止

「あっという間にトラックがなくなっていた。運転手に『強引にでも曲がれ』と言ってやればよかった……」(近隣住民)

 9月5日の午前11時40分ごろ、京浜急行電鉄の下り快特列車が、横浜市神奈川区の踏切で13トントラックと衝突した。

 乗客は約500人。列車は脱線し、そのままトラックを70mほど引きずった。列車もフロントガラスなどが大きく損壊したが、事故でトラックは大破し、荷台に積まれていた果実が現場に散乱。大きな火の手も上がった。

 冒頭の言葉のように、路地から右折し、踏切に進入した、全長12mのトラックが立ち往生したため起こった、今回の事故。トラック運転手の67歳男性は、列車の下敷きになり死亡した。

 地元住民は口を揃えて、「大型トラックはあそこを通らない」と話すが、「なぜ通ったか」は、9月10日時点では、はっきりしていない。

 一方で、衝突した列車内では、運転士と乗客計35人が軽傷を負ったものの、死者は出なかった。このことについて、鉄道工学が専門の日本大学・綱島均教授は、「車体の特徴が、重大な被害を防いだ」と話す。

「人的被害を抑えられたのは、京急電鉄の列車が、先頭車両にモーターを積んでいるためでしょう。モーターを積むと積まないでは、先頭車両の重さが約6トン違う。衝突したトラックの衝撃が相対的に軽いものになったと考えられます。

 トラックの重心がのっていない後方部分に衝突したのもよかったのでしょう」

 鉄道事情に詳しい『東洋経済』記者の小佐野景寿氏は、「脱線に強い設計もある」と話す。

「安全報告書によれば、京急は線路の内側に『脱線防止ガード』を設けている。衝突した列車が踏切の外に飛び出さなかったのは、これもうまく作用したからではないか」

 だが、「トラックとの衝突自体は防げたはず」との声も――。

「踏切内の『障害物検知装置』は作動していたので、600m以上手前から非常ブレーキをかけ始めて、時速120kmからゼロに近い速度まで、減速できる余裕があったはず。原因の究明は必要です。

 そしてこのような場合、運転士はまず足元のペダルを踏み、警笛を長く鳴らして非常ブレーキをかける、という行動をとることになっています」(綱島教授)

 たしかに、事故車両の乗客も本誌に「ぶつかる直前、車内では警笛が15秒、もしくはそれ以上の長さで鳴った。なので、後方車両に逃げる余裕がありました」と話した。

「事故は防げなかったが、今回の運転士は、異常発生時の行動としては、的確に遂行したと思われます」(綱島教授)

 事故が発生した時間帯も、被害に関係した。都市交通史研究家の枝久保達也氏は言う。

「事故当時の乗客数と時間帯なら、ほとんどの乗客が席に座っていた可能性が高い。もしこれが乗車率100%を超えるような、満員電車に近い時間帯なら、衝突で列車内では将棋倒しが起きたり、意図せぬ重傷者が出ていたはずです」

 想定ほどの大惨事にならなかったのは、

(1)車両の構造
(2)運転士の判断
(3)走行時間帯

 の3つが揃ったからだ。一刻も早い事故原因の解明が待たれる。

(週刊FLASH 2019年9月24日号)