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「また絶対小さい子に手を出してしまうのをわかっているから、出来ればずっと刑務所にいたい」。これは加害者臨床に携わる精神保健福祉士の斉藤章佳さんが、ある刑務所で小児性犯罪の当事者から聞いた言葉だ。

法務省は2006年から受刑者に対し「性犯罪再犯防止指導(R3)」を始めている。性犯罪の再犯リスクの高い受刑者が、刑務所でプログラムを受講するものだが、出所後、継続的にプログラムを受ける体制が整備されておらず、再犯防止支援はぶつ切りになってしまっている。

8月26日に東京都内で開かれたシンポジウム「性犯罪をなくすための対話」で、斉藤さんは冒頭の言葉を引き合いに「社会の中に何を整備すれば、彼が再犯せずにいられるのかを考えなければいけない」と呼びかけた。

●R3受講者の声は

R3は、2004年11月に起きた「奈良小1女児殺害事件」をきっかけに導入されたプログラム。受刑者は刑務所で、性犯罪につながる自らの認知のゆがみを認識し、対人関係のスキルを身につけたり、他者への共感性を高めたりして、再犯をしないための具体的な方法を学ぶ。

受講対象者は性犯罪受刑者の全員ではなく、常習性や反復性が認められるかや再犯リスクなど2度の調査を経た上で受講すべきかどうかが判断される。

斉藤さんは、強姦罪(当時)で服役しR3を受講したAさん(50代男性)の話を紹介。

Aさんは、R3を受講したことで「自分がやったことについて、なぜやってしまったのかを整理できた。R3を受講しないと、被害者について考えなかった」と振り返ったという。しかし、刑期の中ごろでR3を受講したため、出所時は忘れており「出る前に集中的にもう1度受けたかった」と話したそうだ。

斉藤さんは「習慣を変えるプログラムなので、持続性がないと頭から抜けていく。刑務所で受けたR3や保護観察所で受けたプログラムを、どう継続させるかが問題」と指摘する。

●プログラムは出所後につながっているか

性暴力事件に詳しい上谷さくら弁護士は、被害者代理人を務めた性犯罪の事件で、R3を受講したことのある被告人が法廷で述べていたことを振り返った。

その被告人は10代後半から性犯罪を繰り返しており、刑務所でR3を受け、仮釈放中も同様のプログラムを受講し、ストレス発散方法を学んだ。

ストレスがたまると趣味のことを考えるようにしていたが、被告人質問では「1人で(プログラムを)やっている寂しさの方がストレスだった。わいせつ行為をするとストレス発散できることを覚えていて(再び)やってしまった」と話していたという。

上谷弁護士は「R3で学んだことを、出所後につなげられていないのでないか」と危惧した。

●「裁判が刑を軽くするためのセレモニーでしかない」

また、司法の問題点として「裁判が刑を軽くするためのセレモニーでしかない」と指摘する。

上谷弁護士もAさんにヒアリングを行い、裁判中に被害者に対して何を思っていたか尋ねた。

Aさんは「罪について申し訳ない気持ちはあったが、具体的にどう傷つけたのか、被害者がどう苦しんでいるのかという理解は全くなかった。これから先、長期間受刑生活をおくることの不安感の方が強かった」と振り返ったという。

また、Aさんは裁判で被害者に対して謝罪の言葉を述べたが、「今にして思えば、自分の罪がそれで少しでも軽くなればという思いがあった。『謝罪文を書いたら情状をくんでもらえるよ』と弁護人から言われたので書いた」と話したといい、「表面的な反省や反省文の提出は、被害者のことを考える機会になっていない」と指摘した。