by Clarence Risher

大場つぐみ原作・小畑健作画の漫画「DEATH NOTE」は、名前を書いた人物を確実に殺すことができるデスノートを手にした夜神月と、世界一の名探偵であるLの戦いを描いた作品で、アニメ化・実写映画化・ドラマ化と展開するほどの人気作品です。そんなDEATH NOTEの第一部で、「キラ」を名乗って殺人を重ねる夜神月がどういったミスでLに追い詰められてしまったのかを、フリーライターのGwern Branwen氏が情報科学の見地から分析を行っています。

Death Note: L, Anonymity & Eluding Entropy - Gwern.net

https://www.gwern.net/Death-Note-Anonymity

キラによる犯行は世界規模であり、匿名で姿を見せないキラの容疑者は、最初の時点では全人類70億人でした。70億はおよそ2の32.7乗なので、Lの匿名性は初期時点でLはおよそ32.7ビットの情報を持っているということになります。Branwen氏は「これは検索の問題であり、実際基本的な情報理論として扱うことができます」と述べています。その上で、月が以下の5つの間違いを犯したことで匿名性を失っていったと論じています。

◆1:殺害方法

月の根本的な間違いは、目標とは無関係な方法で殺害することだとBranwen氏は指摘しています。デスノートに名前を書かれた人物は、特定した死因を併記されない限り、心臓発作で亡くなります。その死は信じられないほど正確なものであり、何か非常に変則的なことが起きていることを示していて、キラの存在を早々に浮き彫りにしたといえます。



by zerobaek0100

◆2:殺害するタイミング

さらに、月がデスノートを使って誰かを殺害しますが、この殺害は決してランダムではなく、特定の時間帯に発生する傾向があります。地球上には時差があるため、アクティブタイムによってある程度キラの潜伏する国を絞ることが可能になります。Branwen氏は「このミスによって、Lは70億人から1億2800万人にまでキラの正体を絞ることができました。匿名性は約6ビット分失われます」と論じています。

◆3:Lの挑発

作品序盤で、月はLの影武者であるリンド・L・テイラーの挑発に反応し、生放送でキラを罵倒するテイラーを殺害しました。月の突発的な犯行により、Lは「キラは関東地方に住んでいる」と推測し、日本人口の3分の1にまで絞り込みました。Branwen氏によると、Lはこの挑発によってキラの匿名性をおよそ1.6ビット分削ったといえるそうです。しかし、関東の男性人口はおよそ2150万人であり、月はまだlog221500000≒24.36ビットの匿名性を持っているといえるとのこと。

◆4:警察情報の使用

月は警察庁幹部の父の資格情報を使って警察の機密情報を盗み出していました。Branwen氏は、父親のPCをハッキングしたことによって警察とのつながりをうっかり明らかにしてしまったことが月にとって最大のミスだと指摘。「この間違いによっておよそ1万人に容疑者がしぼられたと仮定した場合、匿名性の情報はおよそ13.29ビットになります。3つ目の間違いから比較して約11ビットの匿名性が失われています」と述べています。



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◆5:レイ・ペンバーとその婚約者の殺害

月は、自分を監視していたFBI捜査官のレン・ペンバーとその婚約者だった南空ナオミを殺害しました。ペンバーの婚約者を殺害したことによって、Lはペンバーのターゲットだった月をキラではないかと疑うようになります。月にとっては悪人以外を殺害した初めての犯行でしたが、「この殺害によって、容疑者は200人まで絞られたと仮定した場合さらに6ビットの匿名性を失ったといえます」とBranwen氏は指摘。「キラの匿名性は8ビット弱となり、理論的にはこの時点でゲーム終了といえます」と結論づけています。

こうしてLにほぼ特定されるまでに月が犯したミスを見た上で、Branwen氏は「月は何をすべきだったのか」を検証し、匿名性を高めるためには偽造の情報を加える必要があると述べています。例えば100ビットの独立した情報が存在する場合、このうち5つがランダムに改ざんされた場合、およそ26ビットの匿名性が回復するとのこと。



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そこで、具体的な答えとして「殺害のタイミング・スタイル・対象のランダム化」をあげ、以下の3点を提案しています。

・殺害実行の時間はサイコロを使って決定する。

・死因の選択は人口統計データに基づいてランダムに決定する。

・殺害対象となる犯罪者は、ニューヨークタイムズなどのような、世界中のほぼすべての人間がアクセス可能な定期刊行物に基づくべきであり、日本のテレビでしか公表されていない犯罪者の殺害は避けるべき。

最後にBranwen氏は「なぜ夜神月は暗号化された暗殺マーケットを設立しないのか」という知り合いの疑問を紹介し、「まぁ、そんな話は『DEATH NOTE』ではないでしょう」と述べました。