結婚に対する価値観がいま、変わりはじめています。

生涯未婚率が男女ともに過去最高になる一方で、離婚する人も増加。家族や結婚のあり方も変化し、自分に合うようにカスタマイズできるようになってきているのかもしれません。

多様化する結婚観をフラットに見つめ直す連載「結婚2.0」。一夫多妻や契約結婚、いろいろな結婚のかたちを取材しているうちに、ある人にお話を聞いてみたくなりました。

それは、交際0日婚で話題になった放送作家の鈴木おさむさん。

恋愛感情ではなく「リスペクトの気持ち」で森三中の大島美幸さんと結婚して16年…。結婚に恋愛感情のドキドキは不要なのか!?

そんな鈴木おさむさんの「リスペクト婚」について、お話を聞きました!

〈聞き手=あつたゆか〉


【鈴木おさむ(すずき・おさむ)】1972年生まれ。19歳で放送作家デビューし、バラエティを中心に多くのヒット番組の構成を担当。映画・ドラマの脚本や舞台の作演出、小説や漫画原作の執筆など、さまざまなジャンルで活躍。2002年に「交際期間0日」でお笑いトリオ・森三中の大島美幸さんと結婚

恋愛感情ゼロ、「リスペクト」のみで森三中の大島さんと結婚

あつた:
今日は「結婚に恋愛感情は必要か」というテーマでお話を伺います! よろしくお願いします!

おさむさん:
はい、よろしくお願いします。



あつた:
おさむさんは、交際0日婚なんですよね。なぜ森三中・大島美幸さんを結婚相手に選んだんですか?

おさむさん:
完全にリスペクトの気持ちだね。芸人としての彼女を本当に尊敬しています。

あつた:
リスペクト…つまり、恋愛感情はなかったと?

おさむさん:
まったくなかったです。芸人としては大好きでしたけどね。

あつた:
世間的には恋に落ちた人と結婚するのが普通だと思うのですが、なぜあえて、恋愛感情がない結婚をされたんでしょうか?

おさむさん:
これまでの自分の恋愛パターン的に、それでは失敗するってわかってたからですね。

あつた:
失敗…くわしく聞かせてください!



おさむさん:
結婚する前、僕はお付き合いする女性を「顔」や「エロさ」で選んでいました。でも、毎回2年くらいで別れてしまっていて。

セックスがどれだけうまくても飽きるし、美人な子にも上には上がいるんですよね。

なのでこれまでのように女性を選んだら、2年で離婚するだろうなと思っていました。

あつた:
なるほど…

おさむさん:
そんなときにふとテレビで、裸になって笑いを取っている大島を見かけたんです。それはもう革命的でしたよ。

少しの恥じらいもなく、全力で人を笑わせにいってる。「すごい女芸人が出てきたな」とめちゃくちゃ刺激を受けて。

あつた:
ふむふむ。

おさむさん:
それで、会ってみたいと思って芸人さんとの飲み会に呼んでもらったんです。

初めて会ったときに「結婚しよう」ってプロポーズしました。



あつた:
は、早っ!

おさむさん:
僕にとってこの結婚は「実験」でした。

当時、芸能界の離婚率は50%以上と言われていたんですよね。

あつた:
すごい…

おさむさん:
どうせ離婚する可能性が高いんだったら、恋の気持ちではなくリスペクトを軸に、想像もつかない結婚をしたいと思ったんです。

あつた:
大島さんの反応はどうだったんでしょうか?

おさむさん:
「よく知らない人と結婚したくない」と言ってたみたいですね。

あつた:
まあ、普通そうなりますよね…

おさむさん:
彼女の母親にも相談したみたいなんですが、母親から「あんたこれ逃したら結婚できないよ」と言われたみたいで(笑)。

それで、僕と結婚することをしぶしぶ了承したようです。

あつた:
(むちゃくちゃな流れだ…)


2002年10月に結婚!

結婚してからも恋愛感情は湧かない。ただ、「愛感情」が湧いてきた

あつた:
そんな結婚生活のスタートで、いきなりうまくいくものなのでしょうか…?

おさむさん:
最初はもう、めちゃくちゃ気まずかったですよ。2人で婚姻届を出してから最初に言った言葉が「なんか気まずいね」でしたから(笑)。


やっぱり気まずかったんだ…

おさむさん:
結婚して3カ月はお互い名字呼びでしたし、大島も最初は「お手伝いさんのバイト」だと割り切っていたみたいです。

あつた:
『逃げ恥』みたいですね。

そこから、二人の関係性が変わったきっかけはあるんですか?

おさむさん:
「せっかく結婚したんだから、呼び方を変えてみよう」と大島が提案してくれて、「むーたん」と「みーたん」と呼び合うようになりました。

あつた:
かわいい!

おさむさん:
呼び名の力ってすごくて。

最初は罰ゲームのような感覚でしたが、あだ名で呼び合うようになってから1週間で距離が縮まり、ひざ枕までするようになりました。

あつた:
すごい変わりようですね…!

おさむさん:
僕が「呼び名」を大切にするようになったのもこの出来事がきっかけです。

仕事関係でも、長い付き合いになりそうな人は「さん」付けじゃなくて、あえて呼び捨てにして距離を縮めるようになりました。

結婚してから「変わった」と言われることが多いんですけど、大島がそういう大切なことを教えてくれるのは大きいですね。



あつた:
素敵な関係ですね!大島さんと親密になってきて、恋愛感情が湧いた、ということはあるのでしょうか…?

おさむさん:
いや、それはないですね。

あつた:
(ないんだ…!)

おさむさん:
でも、大島に対する「愛情」はじょじょに芽生えました。

恋愛感情から「恋」を取った「愛感情」といってもいいかもしれません。

あつた:
愛感情…

おさむさん:
結婚して一緒に笑ったり、傷ついたり、いろいろなことを2人で乗り越えると、「愛おしさ」がめちゃくちゃ湧いてくるんです。それは恋する感情とは違う、もっと深いもの。

あつた:
なるほど。

おさむさん:
みんな「恋愛感情は裏切る」ってことに、年をとってから気づくんです。

恋する気持ちってすぐ消えるけど、リスペクトする気持ちは何年経っても変わらないんですよね。

いくらリスペクトしてても…恋愛的な「ドキドキ」がほしくなるのでは?

あつた:
でも…結婚相手にも恋人のようなドキドキがほしくなりませんか…?



おさむさん:
うーん、正直「ほしくない」というとウソになります。

でも、「恋愛感情のドキドキって、本当に恋愛感情なのかな?」とも思うんです。

あつた:
というと…?

おさむさん:
かわいい女の子を見てドキドキしたり、「セックスしたい」と思ったりする気持ちは果たして「恋愛感情」なのか? ただの下心なんじゃないか?と。

ちょっと会った相手にも抱く「下心」を「恋愛感情」と勘違いして、結婚生活に必要だと思いすぎなくてもいいんじゃないかな。

あつた:
なるほど…

さらに突っ込んだ質問になるんですが、「奥さんのことはリスペクトしてるけど、恋愛感情や下心は他の人に抱いている」という人もいる気がしていて。

おさむさんの場合はどうですか…?


かなり突っ込んだ質問です

おさむさん:
うーん、「ドキドキを違う人に求められたらいいな」と思わないこともないけど、絶対にやらないです。奥さんが傷つくから。

世の中の男性はみんなその気持ちとの戦いなんでしょう。

あつた:
そうなんですね…

おさむさん:
ドラマでよく、「浮気をしたあと子供の寝顔を見て胸が痛くなる」みたいなシーンがよく出てくるじゃないですか。

ああいうのって絶対そういう経験がある人が作ってるんでしょうね(笑)。

恋愛感情は本当にどうでもよくなってくる



おさむさん:
さっきから「結婚生活にドキドキはいらないのか」と聞いてくるけど、恋愛感情なんて人生においてそのうちどうでもよくなってくるんです。

あつた:
え…?

おさむさん:
新R25読者だとまだわからないかもしれないけれど、生きてたらしんどいことがいっぱいあります。

恋愛感情がどうのこうの言ってられるのなんて一瞬なんですよね。健康で楽しく過ごせる20代って本当に短くて。

あつた:
そ、そうなんですか…?

おさむさん:
子どもが生まれたらそのあとの20年なんてあっという間ですよ。

そのあとも親の介護とか、自分の体も悪くなってきたりとか、深刻な悩みのほうが増えてくる。

みんな明るい未来を想像しがちなんだけど、人生って思った以上につらいことの連続だから、そんなときに一緒に歩いていく人をどう選ぶか、何のために結婚するのか、という話だと思うんです。



あつた:
人生のしんどさ…今はまだ想像できてないのかもしれません。

おさむさん:
今年僕は父が亡くなったんですけど、親が亡くなるときの気持ちって「あ、こんな辛いんだ」とそのときに初めてわかったんです。

そういう人生を2人で乗り越えていくためには、リスペクトがないとしんどいですよね。

それこそ将来どっちかが倒れたら、相手のオムツ替えるわけじゃないですか。恋愛感情だけじゃやっていけない。

あつた:
たしかに…

おさむさん:
大島の赤ちゃんが残念なことになってしまったときも「本当にそんなことが起きるんだ…」と思いました。もう大島にあの涙を流してほしくない。

でも、そうやって奥さんが悲しみのどん底にいるときに、一緒に支えながら生きていくと夫婦の関係性が強くなってくるんです。

親の死とか、そういう人生の辛いできごとをパートナーとともに乗り越えていると、「ほかの人を好きになりそう」なんて死ぬほどどうでもよくなってくるんですよ。

あつた:
「ドキドキするか」なんて考えなくなりそうですね…

おさむさん:
そう。誰かのこと「かわいいな」と思ったとしても、それはほんの「点」じゃないですか。

人生ってもっと大変だし、すごい荒波に飲まれることもあるから、そんなことよりも一緒に隣で歩いてくれている奥さんのほうがずっと大事なんです。

だから大島と実験的に結婚してみて気づいたんだけど、恋愛感情があるかないかなんて、みんなが思っているより重要じゃないのよ。


言葉の重みがすごい

あつた:
なんか、「結婚生活に恋愛感情は必要か」なんて小っちゃいことばかり質問してすみませんでした…

結婚してすぐに結婚式をやるもんじゃない

あつた:
たとえば、読者のなかにも恋愛感情だけで結婚してしまった人ってけっこう多いと思うんです。そういう人は、どうやったら恋愛関係以外の絆も築けるのでしょうか?

おさむさん:
趣味でも仕事でもいいですけど、パートナーの頑張っていることに目を向けるといいでしょうね。

あつた:
パートナーが頑張っていること…

おさむさん:
男女の関係とはいえ、仕事のことってすごい大事だと思います。

たとえば大島は、僕が大島の出ている番組をチェックしていなかったりすると、めちゃくちゃ怒るんですよ。

あつた:
へええ…!

おさむさん:
僕はもう彼女が最高に面白い人だってわかってるから、安心感があってそういうのをサボってしまうんだけど。

でも彼女は結婚して子供を産んでも、「芸人として自分がやっている仕事をちゃんと見てほしい」って思ってるんですよね。

だからお互いの頑張っていることに対してちゃんと話を聞いてみたり、理解してあげようとしたりするとリスペクトできる部分が見つけられて、恋愛以外の絆も深まっていくんじゃないかな。

あつた:
意外とやってない人が多いかもですね。

おさむさん:
あと、結婚式はすぐやらないほうがいいね。あんなもん結婚してすぐにやるもんじゃない。



あつた:
えっ。なんでですか!?

おさむさん:
僕は披露宴をやってなくて、結婚10年目にやったんですけど。

実際に離婚した人の話を聞いていると、みんな「結婚式の日を超えられなかった」って言うんです。

あつた:
結婚式が幸せの頂点になってしまう、ということですか?

おさむさん:
そう。だって披露宴なんて、うれしいに決まってるじゃないですか。自分のために人が100人くらい集まって、「おめでとー!」って言われて、VTR作って、音楽かけて、そんなもん感動するに決まってるんですよ。

だけどそれをやっちゃうと、日常生活でそれを超える感動がなかなかつくれない。

あつた:
たしかに…

おさむさん:
僕、大島が最初に妊娠したときから、流産が分かって妻が泣きながら“あんまん”を食べてるところまで、ずっとカメラで撮っていた映像があるんです。

それを使って、10年目の結婚披露宴で「結婚して10年、流産など辛いこともあった。でも皆さんのおかげで頑張れています」というVTRを作りました。


10年目の披露宴のお写真をいただきました

あつた:
めちゃくちゃ泣けますね…

おさむさん:
10年の物語がある分、結婚してすぐの披露宴より感動するし、自分たちも辛いことを昇華できてすごく良かったです。

結婚10年とか15年とか節目のタイミングでの感謝の宴、おすすめですよ。



「恋愛感情なしのリスペクト婚でうまくいくって、最初からわかっていたんですか?」と聞くと、「当時は勢いだったから、こんなにうまくいくとは思わなかったです」と語っていたおさむさん。

結婚して17年、夫婦でいろいろなことを乗り越えてきたおさむさんの言葉には説得力がありました。

「結婚したい人ができたとしても、ずっと好きでいられるのかな…」そんな不安を抱えているR25世代も多いはず。

でも、恋愛感情を重視しないでうまくいく結婚もある。まずは身近な人の、尊敬できるところを見つけてみようと思いました。最後までお読みいただき、ありがとうございました!

〈取材・文=あつたゆか(@yuka_atsuta)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=池田博美(@hiromi_ike)〉

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