「将来」にフォーカスするドミニカ、「今」にフォーカスする日本(後編)

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「野球離れ」が進む中、海外での経験に裏打ちされたユニークな指導法で注目されている阪長友仁氏に、ドミニカ共和国の野球と「球数制限」について聞きました。

■「トーナメント制」の問題に行き着く

ただ日本の高校野球の現状の責任を、指導者にすべて押し付けるのはどうかとは思います。

そんなやり方でも、勝てばマスコミが騒ぐし、学校での評価も全然違ってきます。

「甲子園ってすごいね」という評価がちりばめられるのでそうせざるを得なくなる。

なんであんなに投げさせるのか、それは「勝つ」ことが大きな意味を占めるから。「勝たないと次がない」から。だから「勝つことがいいことだ」となる。子供たちの未来よりもそっちを優先することになる。

それを考えると、勝たないと次がなくなる「トーナメント制」の問題に行き着くと思います。最近は、「子供の未来を守ろう」という声も出てきていますが、システムを変えないと周囲の意識も変わらないのではないでしょうか。

■メジャーリーガーより高校生の球数が多くていいはずがない

「球数制限」をするうえで、何球を上限にするのか、は難しい話です。100球の根拠は出せないと思います。

ただ、体が出来上がったメジャーリーガーでも中4日100球で降板しているのに、17、8歳の子供が、中4日より短い間隔で100球をはるかに超す球数を投げていいはずがない。

そこから換算しても中5日、80球くらいの数字でコントロールしていけば、ケガ人が減るという結論になると思います。

こんな道理を優秀な日本人が分からないはずはないと思います。

ごくまれに何球投げても怪我をしない人もいるかもしれませんが、それは何百人、何千人に一人です。それを基準にすることはできません。

■金属バットをやめるという選択肢も

どうしても「球数制限」の導入を決められないのであれば、次善の策があります。

それは高校野球の金属バットの使用をやめて、木製バットに戻すことです。それをするだけで投手はかなり救えます。

「球数制限」の目的は投手の肩ひじをまもることです。木製バットや木製同様の低反発金属バットを使えば、球数は自然と減ります。打者の攻め方も変わり、ロースコアになります。人数が少ないチームでももう少し有利に戦えるようになります。

こうして考えると、日本は極端に打者が有利な状況で野球をしていることが分かります。しかも投手は炎天下のマウンドに立っています。それを少しでもイーブンな状態に戻すことが必要なのです。

ドミニカ共和国の野球は「子供の将来のため」という考え方が、貫かれています。日本の野球もその方向で理念を変えていく必要があるのではないでしょうか。(取材・写真:広尾晃)

阪長友仁氏

新潟明訓高校時代に甲子園に出場、本塁打も記録している。立教大学硬式野球部では主将も務める。その後、一般企業勤務を経て、世界の野球の現場をつぶさに見て、学び、指導者としての見聞を広める。現在は堺ビッグボーイズのコーチとして野球少年を指導。特にドミニカ共和国の野球指導の優秀さを日本に紹介している。