ファーウェイは米中貿易摩擦激化を象徴するテーマになってしまった(撮影:梅谷秀司)

米中関係が貿易摩擦から”長期的なハイテク冷戦”へと変化していく様相がますます濃厚となってきた。中国国務院新聞弁公室が6月2日に発表した、「中米経済貿易交渉における中国側立場に関する白書」(以下、「白書」)の中には、このことを強く示唆する表現がある。

「アメリカ政府の欲望には際限がない。『いじめ』的な態度と極限まで圧力を加えるという手段で、不合理な高値を吹っ掛け、経済貿易摩擦が始まって以来進めてきた追加関税を取り消すこともなく、中国の主権に関わる強制的要求を曲げず、双方に残された食い違いを埋めることを遅らせている」という一文だ。

アメリカを「いじめ」「圧力」と非難

「欲望に際限がない」というアメリカに関する形容は、中国の立場から見れば、まさに心情を吐露した表現だと思われる。2018年2月から今年5月まで、計10回にわたる通商交渉が行われたが、一貫してアメリカが中国に要求を迫り続け、中国側はこれに譲歩してきたからだ。

アメリカは貿易赤字の縮小や強制的技術移転、産業補助金、『中国製造2025』の取り下げなどを要望しながら、交渉途中で2度、追加関税の脅しをかけてきた。中国は一貫してこれらに譲歩し、第9回交渉(2019年4月3日〜5日、ワシントン)では、協議締結にあと一歩のところまで漕ぎつけた。

しかし、第10回交渉(2019年4月30日〜5月1日、北京)で突然、問題が発生。アメリカのトランプ大統領がツイッターで、中国に対する追加関税を宣告し、情勢が急転直下したのだ。

この時点で中国側は大いに落胆していたが、それでもワシントンでの第11回交渉(5月9日〜10日)に臨んだ。しかし、アメリカは新たに華為技術(ファーウェイ)を輸出規制リストに入れ、米中摩擦を経済貿易の範囲外にまで拡大させた。そしてトランプ大統領は、ファーウェイ問題も協議の中に含む、と言ったのだ。

1年余りの交渉を通じて中国が最後に分かったのは、アメリカは貿易赤字問題よりも、中国の生産技術の進歩、特に次世代通信規格「5G」において中国が先行することを許さないという本音であろう。ファーウェイを「エンティティリスト(輸出規制リスト)」に入れ、ファーウェイをつぶすことで、5Gやそれに関連する自動運転、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)などの先端技術開発をすべて遅らせ、アメリカの覇権を維持しようという狙いだ。

ホワイトハウスは「アメリカの5Gネットワーク建設計画に2750億ドル(約30兆円)を投入すれば、米国のGDP(国内総生産)を5000億ドル(約55兆円)増加させ、同時に300万人の雇用を生み出す」と発表している。一方、中国情報通信研究院のレポートでは、「中国の商用5Gはだいたい2020〜2025年に本格普及し、経済生産額で10兆6000億元(約170兆円)の直接成長および24兆8000万元(約400兆円)の間接成長と300万人超の雇用を創出する」と推定している。

ファーウェイつぶしは中国の5Gを徹底的に停滞させるための手段であり、両大国はともに5Gを国家発展の中心に据えて、激しく競争しているのだ。「欲望に際限がない」と表現した冒頭の白書は、アメリカに徹底抗戦しようという中国の決意さえ感じさせる。米中関係は貿易摩擦から長期的なハイテク冷戦にエスカレートしたとも言えよう。

アメリカを震撼させる2つの武器

これまでも、アメリカが追加関税を行うたびに中国も反撃し、報復関税を行ってきた。しかし、それらは完全に受動的な対応であり、さらには中国の対米輸入製品への課税額はアメリカよりも小さく、奇襲的な効果はなかった。

だが、今回は異なる。中国はアメリカに2つの武器を見せつけた。1つは、「信頼できない外国企業リスト」の作成で、もう1つが「レアアースの輸出制限」である。このどちらもアメリカ側には予想外だったに違いない。

「信頼できない外国企業リスト」は、ファーウェイに打撃を与えた、アメリカの「輸出規制リスト」に直接対抗するものだ。白書を公表する前日の6月1日、中国商務部はこのリストの作成方針を公表。6月8日には、国家発展改革委員会が「国家安全保障リスクをより効果的に防止・除去する」ためのリスト化制度を構築する、と新華社が報道した。

中国が「信頼できない企業リスト」を制定するという情報は、多くのアメリカの科学技術企業をかなり緊張させた。実際、グーグル、フェイスブックなどの大手IT企業が相次いでファーウェイとの関係を断つことを公表する中、6月10日にアメリカの半導体大手インテルはむしろファーウェイのために弁解し、「(アメリカの)ブラックリストに入れるべきではない」と主張したのだ(6月11日付チャイナ・デイリー)。

インテルは営業収益のおよそ4割を中国で稼いでいる。中国の「信頼できない企業リスト」に入れられ、中国企業との取引が減ることでインテルの収益は間違いなく激減する。さらにアメリカの半導体大手クアルコムの収益の6割も中国に依存している。こうしたハイテク企業はいままでのビジネスが維持できなくなる問題を極めて真剣に考えるだろう。これはまさに中国側の狙い通りであった。

レアアースに至っては、中国が本当にこの戦略物資の対米輸出を制限すれば、アメリカに与える衝撃はとても大きい。5月23日のニューヨークタイムズは、「レアアース加工において最もカギとなる、レアアース酸化物を金属に転化させる段階では、中国が完全に主導的地位を占めている。中国のその低いコストと高い生産能力によって、他国企業は自らの工場を投資・設立することを極めて懐疑的にさせられるほどである」と指摘している。

中国の税関データによれば、2018年、米国が購入したレアアースは、中国の輸出量の3.8%しかないという。これはすなわち、中国がもしレアアースの米国への輸出を制限すれば米国への打撃は極めて大きいが、中国自身の傷は極めて小さいことを意味する。現時点でアメリカ側は何ら対抗手段を見出すことができていないのだ。

大混乱したパナソニックの現地法人

中国が対抗措置を講じたことで、「アメリカ政府が禁止すれば、中国企業との取引を中止できる」という今までの常識は、もう通用しなくなるかもしれない。「一個世界、二個系統」(1つの世界に2つのシステム)が併存する米中ハイテク冷戦は、ここに来て明らかに現実味を持つようになってきた。

このことは日本企業にとっても無関係ではない。アメリカのファーウェイ制裁に対して、ソフトバンクやKDDIなどの通信キャリアは、ファーウェイ製スマホの排除を明らかにした。日本国内だけならそれでいいのかもしれないが、パナソニックや東芝などのように中国で巨大なビジネスをしている企業は、簡単にファーウェイ排除をできるのだろうか。

5月23日に日本メディア各社は、「パナソニックがファーウェイとの取引を徹底的に中止する」(5月23日付共同通信、時事通信など)と報じた。だが、中国企業への部品供給などをいきなり停止するのは容易ではなく、この報道は中国内でも波紋を呼び、実際にパナソニックの中国現地法人にかなりの混乱を引き起こした。中国にもアメリカにもビジネスをしている日本企業は大きな試練に直面していくだろう。