働き方改革を推奨するのであれば、休み方についても考える必要があるのではないでしょうか(写真:Kavalenkau Pavel/PIXTA)

「日本人は休み方がヘタ」という言葉をしばしば聞きます。せっかく休みがあっても、することがわからなかったり、いろいろやりすぎてかえって疲れたり……。そろそろ夏休みの時期がやってきますが、休みを有効に、そして楽しく過ごすにはどうすればいいのでしょうか。『fika 世界一幸せな北欧の休み方・働き方』の著者で、スウェーデンなど北欧事情に詳しい芳子ビューエル氏が、スウェーデン人の休み方を伝授します。

スウェーデンの「フィーカ」とは何か

日本では目下、働き方改革が大きくクローズアップされていますが、よく聞く声として、「休みが多くなったら、どうやって時間を過ごせばいいのかわからない」というものがあります。4月下旬から5月上旬の10連休では「やることがないから早く働きたい」という声さえありました。今の日本で働き方改革を推奨するのであれば、休み方についても考える必要があるのではないでしょうか。

スウェーデンには「fika(フィーカ)」という文化があります。家庭でも職場でも頻繁に仲間とコーヒーを飲みながら会話を楽しみ、コミュニケーションを取り合いながら、休息を取り気分転換するというもので、これによって生産性も上がるともいわれています。そんな「休息」を大事にするスウェーデンの人々はどんな休み方をするのでしょうか。

スウェーデンの場合、ほかの北欧の国々とほぼ同じ時期になりますが、6月末に学校が休みに入る頃から7月に、皆こぞって夏休みを取ります。その期間は2〜4週間と長いですが、一般企業の場合は、完全に会社を閉めてしまうわけにはいかないので、それぞれ交代で休みを取ります。

社員全員が一斉ではないにしろ、交代で2〜4週間のお休みを取ると会社が混乱するのではないかと思われるかもしれませんが、会社側は休みに対して寛容です。それは、スウェーデンには、「休みを取ること=仕事のパフォーマンスの向上」という考えがあるからです。

業種にもよりますが、取引先がある場合は、その対策をしているところもあります。例えば、筆者も、取引している企業では、休み前に営業担当者から「○○までに発注をもらえれば、休み前に出荷できます」とか、「休み中に何かあれば、出荷担当の△△に連絡してください」といった連絡がきます。スウェーデンの国内向け業務に関しては、顧客側も休みを取る時期でもあるので、さほどトラブルはないようです。

日本の場合、ゴールデンウイークやお盆休みなど、少し長めのお休みが続くと、まずお金の心配が誰の頭の中にもよぎると思います。なぜなら、日本人はお休みというと、『どこかに出かける』ということが最初に頭に浮かびやすい傾向があるからです。交通費、滞在費など、外出しようとすれば、当然のことながら、お金がかかります。

一方、スウェーデンの短い夏は日照時間が長く、比較的涼しいという特徴があり、夏はアウトドアライフを満喫するというのが定番です。自然が豊かなスウェーデンでは、サイクリング、ピクニック、キャンピング、ジョギングと、家の外にはたくさんの「すること」があります。日本ほど蒸し暑くないため、屋外で太陽の光をたくさん浴びて、気持ちのよい時間を満喫するのです。

スウェーデンの消費税は25%なので、日本人よりも外食や買い物に対して慎重です。自家製のものを持って出かけ、ランチやピクニックなど屋外で楽しむ人々をよく見かけます。首都ストックホルムに住んでいたとしても、緑が多く、お金を使わなくても、アウトドアアクティビティーに事欠くことはありません。

スウェーデンは年間33日の休みを取る

ピクニックも、近くの公園の中で、みんな水着になって、日光浴をしながらのゆったりとした時間です。太陽の光を思い切り浴びて、芝生の心地よさを体で感じ、短い夏を楽しむのです。時間がゆったりと流れていくピクニックはとても魅力的で、お金もかかりません。

以前私の会社では、スウェーデンのミニログハウスを輸入していたことがあります。ログハウスといえば、普通とても大きな丸太を使ったものを想像すると思いますが、スウェーデンでは小さな角ログを使ったログハウスも人気。大きさとしては6畳くらいの大きさから20畳くらいのものまでありました。

郊外にこういう小さなログハウスを持ち、週末や長期のお休みが取れたときに、そこで自然を満喫するという人々もいます。夏であれば、ベリーピッキングをしたり、湖畔で泳いだり、バーベキューをしたり……。ミニログハウスには必要最低限のものしかありませんが、夜も快適に過ごせます。スウェーデン王室のビクトリア王妃も、ご自身のサマーハウスの裏庭にミニログの家を建てて、子どもたちと遊ぶ様子が王室のビデオにも紹介されています。

一般的なスウェーデン人は1年に33日間の休暇を取るといわれています。これはヨーロッパの中でもトップクラスです。しかも残業をする人口はわずか1%ということです。休みをしっかりと取り、定期的な運動をし、仕事を効率的にこなすスウェーデン人の暮らし方はとても魅力的です。

それでは日本ではどのようにそれを取り入れたらよいでしょうか。筆者自身は経営者という立場から、つねに仕事を優先した生活をしていました。会社は24時間のテレビショッピングの普及とともに業績を伸ばし、どんどん大きくなっていきました。海外で商品を調達するうえで、自身で商談、通訳もこなし、会社では経営者としての業務に追われ、テレビショッピングにまで出演して商品を自ら販売するという、普通では考えられない仕事量をこなしていました。

そんなことを5年ほど続けていたときに、ストレスもマックスになり、ほんのちょっと人と肩が当たっただけで、泣き出しそうな精神状態になってしまいました。そのストレスは体にも出てきました。医者からは顎がんかもしれないと言われ、大学病院に送られるほどになったところで、娘の勧めで西表島に3泊4日の一人旅に出かけたのです。

普段は仕事に穴を開けたら迷惑をかけるからということで、危険なこと、危険な要素を含むことなどに異常に気を使っていました。ですが、西表島でいろいろなスポーツアクティビティーをこなし、大声を出すことで、ストレス発散した結果、口の中の腫れ物もあっという間になくなり、会社のスタッフからは「ビューエルさんまるで別人みたい」と言われるほど精神状態も改善しました。

リフレッシュしてきた社員のパフォーマンスは上がる

そのときから、定期的に休みを取ることにしました。会社の机にあるカレンダーはつねにスタッフに公開されているのですが、私に同席してもらいたい商談があるとスタッフがどんどん予定を書き込んでしまうため、私の生活はそのカレンダーに支配されていました。

そこで、カレンダーがまだ白いうちに前もって休みを決めてしまい、商談などを入れられないようにしたのです。その結果、年に2度ほど1週間から10日くらいのお休みが取れるようになり、ガス抜きも上手にできるようになりました。

自分自身への効果を実感した私は、スタッフにも有休を取りやすい状態にしたいと思い、有給休暇は入社順だとか、上長の次だとかという暗黙の了解の中での遠慮を排除し、早く申請した者順に変更しました。会社側にとっても、早い段階で誰がいつ休みを取るのかが明確になり、その人とかぶらないようにほかの人が休みを取っていくので、業務の調整が楽になりましたし、リフレッシュしてきた社員のパフォーマンスが上がるのも感じました。


また子どもの授業参観や家庭訪問、通院など、1日の休みは必要ないけれど、数時間の休みを取りたいというニーズがあるだろうと思い、有休は1時間から取れるように設定しました。その結果、休みを気楽に取れるようになったと社員からは喜ばれています。

もちろん、会社が制度などを変えない限り、こうした取り組みは難しいかもしれません。しかし、個人レベルで考えた場合、せっかくの休みはしっかりと取るべきだと思います。もちろん旅行に行くのも1つの過ごし方ですが、スウェーデン人のようにお弁当を作って、近くの公園で運動したり、くつろいだりすることで、休みに対する新たな「発見」があるかもしれません。