富士通ジャーナルより

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 富士通は量子現象に着想を得た新しい計算機アーキテクチャー(設計概念)「デジタルアニーラ」の普及拡大に向けて、先端領域での共同研究を本格化する。心臓部となる専用プロセッサーの性能向上の決め手となるビット間全結合の規模を、2019年度中に現行の8192ビットから100万ビットに拡張する予定。これにより、デジタルアニーラで解ける計算規模が飛躍的に高まることから、東レとの共同研究の枠組みを広げ、素材開発にもデジタルアニーラを用いる。

 デジタルアニーラはこれまで計算量が膨大で実現できなかった「組み合わせ最適化問題(多くの選択肢から、最適な変数の組み合わせを求めること)」を高速に解くことが可能。これを用いた共同研究ではカナダのベンチャーと創薬に関する分子構造解析で先駆けているが、素材開発への適用は東レが初めて。

 これに先立ち、東レとは18年にたんぱく質の分子構造の基礎研究を題材として、実証実験を実施し、デジタルアニーラの有用性を評価した。その実績を踏まえ、東レの売上高で大きなシェアを占める素材開発へと適用領域を広げる。

 まずは、ポリマーなどの材料を開発するシミュレーションをデジタルアニーラで行うための新しいアルゴリズムに取り組む。データマイニング(探索)などの情報科学を通じて新材料や代替材料を効率的に探索する「マテリアルズ・インフォマティクス」へのデジタルアニーラの適用も本格化する見通し。

 富士通はデジタルアニーラの開発ロードマップ(工程表)をユーザー企業と共有しながら、適用領域の開拓に力を注ぐ方針。20年度までに売上高1000億円を目指す。

 東レとの実証実験では、東レが94年に論文発表した創薬の基礎研究の成果をベースに、汎用コンピューターでは一定規模までしか計算できなかった問題をデジタルアニーラで解いた。その結果、論文段階で答えが分かっているアルゴリズムについては、デジタルアニーラの回答との答え合わせを確認。さらに、これまで実用時間内では終わらずに2、3時間で打ち切っていたアルゴリズムも20秒程度で解けたという。

 デジタルアニーラの概念実証(PoC)はすでに製造や物流向けを中心に400件程度を実施。創薬や素材開発のほか、倉庫部品の最適化配置、金融のポートフォリオ(投資配分)の最適化、交通渋滞対策など幅広い用途が見込まれる。