デスクワーカーは要注意! アクティブ・カウチポテトの深刻な健康リスク

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執筆:磯野 梨江(管理栄養士)
医療監修:株式会社とらうべ


運動不足はカラダによくない…これは誰しも十分わかっていること。

昨今、長時間のデスクワーク、つまり

「座りすぎ」

がもたらす運動不足について、世界的に問題視されています。

アクティブ・カウチポテト

とも称されるこのトレンド。

座りっぱなしの生活は、私たちの身体にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

運動不足と健康増進

身体活動量の多い人や運動をよくする人は、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん)、高血圧や糖尿病、肥満、骨粗しょう症、結腸がんなどにかかりにくく死亡率も低いことがわかっています。

また、運動はストレスを解消して活動的な気分を引き起こし、睡眠やうつ病の改善効果も実証されています。

運動にはいくつかの種類があります。

筋肉に負荷をかけるような

無酸素運動

(筋トレなど)は筋力を高めてくれます。

そして、代謝を促して肌や髪を若々しく保つ、脂肪を分解する、身体の機能低下を抑える、といった働きを持つ「成長ホルモン」の分泌を促すこともわかっています。

一方、ウォーキングや軽いジョギング、自転車こぎなどの

有酸素運動

では、神経伝達物質「セロトニン」が多く分泌されます。

頭がスッキリして問題を解く能力や運動能力が増すだけではなく、気持ちを安定させる作用もあります。

有酸素運動には、全身持久力を高めるほか、内臓脂肪の減少、高血糖・脂質異常・高血圧の改善、ストレス解消といった効果も認められています。

運動不足よりも怖い?アクティブ・カウチポテトは寿命を縮める!?

WHO(世界保健機関)によると、運動不足は死亡リスクを高める4番目の危険因子と報告されています。

とくに「座りすぎ」は、糖尿病、高血圧、心筋梗塞、脳梗塞などの血管疾患、そして、ガンまでも招いていると世界中の研究で判明し、いま話題になっています。

たとえば、オーストラリアの研究機関は2012年、「1時間の座りっぱなしで22分寿命を縮める」と発表して世界中に衝撃を与えました。

なぜ「座りすぎ」はよくないのでしょうか?

それは、座ったままでいると人体の筋肉の7割を占める脚の筋肉が動かないため、血流が滞って代謝機能が低下し、全身に影響を及ぼすからです。

習慣的に運動はしているけれど、それ以外の時間は座っている人を「アクティブ・カウチポテト」と呼びます。

このコトバには、カウチソファ(背もたれの低い長椅子)に座ったり寝そべったりする、不健康な暮らしぶりへの揶揄も込められているとか。

残念ながら、普段から運動を日課にしていても、長時間「座りっぱなし」の健康リスクは帳消しになりません。

日々の「座りすぎ」時間を少しでも減らすことこそ重要なのです。

デスクワークの人が運動量を増やすには?

それでは、長時間座りっぱなしで仕事をせざるを得ない“デスクワーカー”は、どのような対策が必要なのでしょうか。

ポイントは、仕事以外に運動をプラスするのではなく、いかに生活の中で活動量を増やすかということです。

仕事中や通勤時間などに取り入れられる、無理なく続けられる工夫をシーン別に挙げてみました。

仕事中の工夫

理想は20〜30分に一度は立ち上がって、その場で2〜3分足踏みをするか、トイレ休憩、飲み物を買いにいく、コピーを取りに行くなどして席を立ちましょう。

難しい場合は、せめて1時間に1回は必ず立ち上がり、脚の血流改善を図ります。

また、長時間の会議などで立ち上がれないときのために、机の下でこっそりできる運動をご紹介しましょう。

どちらも座りすぎによる脚の血流悪化を改善する効果があります。

・いすに座ったまま、つま先が天上に向くように脚を上げ、ひざの関節をのばしたまま床と平行になる状態を5秒間キープする「ひざ関節のばし」


 ★片脚10回ずつを1セットとして、少なくとも1時間に一回は行いましょう。

・いすに座ったまま足の裏を床につけて、つま先やかかとだけを上げる「つま先上げ・かかと上げ」


 ★10〜30回を1セットとして、できるだけ多く行いましょう。

通勤時間の工夫

身体活動量と死亡率などとの関連性を調査した疫学的研究の結果から、「1日1万歩」歩くことが理想的と厚生労働省は示しています。

「平成 29 年 国民健康・栄養調査結果の概要」によると、日本人20〜64 歳の歩数平均は男性 7,636 歩、女性 6,657 歩で、現状はこの目安よりも不足しています。

そこで厚生労働省は「アクティブガイド2013」を策定し、「+10(プラステン):今より10分多く体を動かそう」の実践によって、死亡、生活習慣病、ガン発症、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)、認知症発症を低下させることが可能と謳っています。

今よりも10分多く身体を動かせば、運動の効果は得られるというわけです。

10分であれば、多忙なビジネスパーソンが新たに運動する時間をひねり出そうと無理しなくても、通勤時間の工夫などで対応できそうです。

具体的には次のような活動を実行してみましょう。

・最寄り駅の一駅手前で降りて歩く

・エスカレーターやエレベーターを使わず階段を使う

・最寄り駅から自宅までのルートを変え、遠回りするコースを歩く


帰宅してから運動をする、ジムに通う…などを日課にするのは「ハードルが高い」という方も多いと思います。

なおかつ、運動はたくさんすればよいというわけではありません。

運動をしすぎると「コルチゾール」というホルモンが分泌され、免疫力が低下して病気にかかりやすくなるほか、ケガのリスクも高まります。

ハードな運動を頑張った挙句続かなくなるよりも、日々の活動量を少しずつでも増やす方が、健康的な身体を作る近道なのです。

まずは、今より10分多く、できる取り組みから実践してみませんか?


【参考】
・樋口満『体力の正体は筋肉』(集英社新書 2018年)
・石井直方『「老けないカラダ」をつくる!若さのスイッチを入れる習慣術』(さくら舎 2012年)


<執筆者プロフィール>
磯野 梨江(いその りえ)
大学でスポーツ医科学を専攻し、卒業後は管理栄養士に。生活習慣病など予防医療において栄養学の果たす役割が研究テーマ。運動のこともわかる栄養士として活動中

<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供