セブン&アイ・鈴木敏文氏、流通王が語るリーダーに必須の力

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 コンビニエンスストア「セブン―イレブン」の創業や、流通業界初の銀行「セブン銀行」の設立。日本の流通業界に数々の革命を起こしたセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文名誉顧問に、市場を変える新しい発想について聞いた。

数々の革命を起こせた理由
 −コンビニの創業をはじめ、数多くの“国内初”や“業界初”を実現しました。
 「社内も流通業界の大物も、スーパーマーケット全盛期に小さなコンビニは成り立たないと反対した。だが、いつまでも続くものはない。小規模店が時代の変化に対応できていないだけだと考え、コンビニで生産性を高めた。私は長く流通業界にいるが、現場は経験していない。いつも常に客観的に、世の中は常に変わると見ていた。変化にショックを受けたこともない」

 −新しい発想を生むには何が必要ですか。
 「難しいことは考えてない。あれば便利だから工夫して実現した。現在のセブン銀行は、時間を気にせず現金を出し入れできたら喜ばれると思った。過去の成功や経験にとらわれると発想できない。プロはそうなりがちだ。『雨が降れば傘をさす』のと同じで、世の中が変わるのは当たり前。その変化を捉え、困り事を見つけ、常に挑戦する意欲を持つことが重要だ」

変化はネットで終わりじゃない
 −ネット通販が拡大してきた今の小売業界をどう見ていますか。
 「私は現役時代の最後に『オムニチャネル戦略』を始めたが、ネットは手段で、重要なのは商品開発だ。スーパーなどの既存の小売店は、どの店も同じ商品を販売しているため、飽和状態になって沈滞した。自主マーチャンダイジング(商品企画、MD)を行い、自分たちの力で差別化しなかったからだ。最初に自主MDを行ったのはセブン―イレブンだった。衣料品では『ユニクロ』、家具では『ニトリ』。いずれも自主的に差別化した企業が残っている」

 −平成の時代の国内産業界を振り返ると、電機や出版業の衰退が顕著でした。
 「新しいものを生み出さなければ、衰退するのは当たり前だ。従来のものは、いずれ全て成長が止まる。ただ、時代の変化に挑戦すれば、また状況は変わる。例えば、雑誌や新聞などの活字媒体はガタガタきて、今はネットと騒いでいるが、これで終わりではない。次に受け手がどう変わるか考え、そこに対する手を打つ。5−10年後、人工知能(AI)やITで世の中は更に変わる。どう変わるのかを考え、現在は何をするべきかを考えるといい」

リーダーに必須の力

 −これからの時代の経営トップの条件は。
 「どんな業種であれ、トップがきちっと先を見て決断し、それを徹底できなければ、企業は衰退する。自分で発想できる人間でなければ、新しい時代のリーダーにはなりえない。ビッグデータやコンサルタントの助言は過去の話。人に頼ってはいけない。自分で発想できないなら、トップになってはいけない」

 −発想のために普段から続けてきたことはありますか。
 「私は勉強家でも何でもないが、出社時には車のラジオをつけたままにしていた。出てきたいろいろな話を何となしに頭の中に置いておく。何かを学ぼうと思って聴くのではない。雑誌や出版物で読んだ内容もそうだ。すると、何かに挑戦しようとした時、それをもとに発想できる」
 「不況は発想するチャンスだ。何かが欠けた状態の方が、それを埋めようと工夫し、努力する」

どう仕事と向き合うべきか
 −日本でも転職が簡単になり、働き方の選択肢が増えました。鈴木名誉顧問も出版業界のトーハンから流通業界へ転身しましたが、今、仕事との向き合い方についてどのように考えていますか。
 「私は流通業界に興味はなかった。番組制作プロダクションを立ち上げるためトーハンを辞め、ヨーカ堂にプロダクションのスポンサーになってもらうため一時期の手伝いのつもりで入社した。入ってみると話が違い、転職も考えたが、トーハンを辞める時に散々反対されたため『そら見たことか』と言われるのが癪(しゃく)で居着いた」