7分間ノックはしない!どこで最高のパフォーマンスを出すのか?古賀 豪紀監督(九州文化学園)vol.5

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 九州文化学園は試合前の7分ノックをしない。本当にノックを行わないのである。つまり「0分」である。 今までの連載コラムで、「背番号決めは、総選挙」など独創的な考え方を紹介してきたが、今回は「最高のパフォーマンスをどこで出すのか」を軸に、7分間ノックをしないと決断した、古賀 豪紀(こが・ひでとし)監督の意図に迫る。

今までの連載記事vol.1:背番号は総選挙で決めるその真意 古賀 豪紀監督(九州文化学園)vol.2:どこよりも重みのある背番号 古賀 豪紀監督(九州文化学園)vol.3:個人的な会話をしない「見る」コミュニケーション 古賀 豪紀監督(九州文化学園)vol.4:たった一言の「声がけ」が大きな力になる!古賀 豪紀監督(九州文化学園)

7分間ノックはしない!どこで最高のパフォーマンスを出すのか?九州文化学園は7分間ノックをしない

 「夏の40度ある時にシートノックが7分あるじゃないですか、(ノックで左右に)飛ばされて、泥だらけになって、汗かいて。今から試合というのにノックと試合どっちがメインかと思います。だからうち(九州文化学園)は7分間ノックしないです。公式戦も練習試合も一切ノックしないです」

 「日射病で倒れるような40度のなかで7分間ノックしないといけないんですか。シートノックをみたいとお客さんも望んでるんでるかもしれない。でも違うんですよ。お客さんのためにするわけじゃなくて、子供たちがどんな最高のパフォーマンスをグランドで出せるかですね。3年間の練習の成果を。だから僕はゆっくりベンチで休んいけって、ベンチでゆっくり呼吸整えておけって。暑いですから」

古賀監督の考えは至ってシンプルである。野球は、「相手より多くの得点を記録して、勝つことを目的とする」スポーツなのである。「シートノックの美しさを競う」スポーツでもない。だからこそ、試合で最高のパフォーマンスを出せるために、シートノックをやらないという決断をしたのである。

 「子供たちの最高のパフォーマンスを出させるためにします」

 この言葉こそ、7分間ノックをしないと決断した古賀監督の意図だ。

なぜこのような考えが生まれたのか

インタビュー中の古賀 豪紀監督(九州文化学園)

 では、なぜこのような考えが生まれたのか、古賀監督の興味深いエピソードを一つ紹介したい。

 古賀監督は、プロ野球のオリックス・バファローズで5年間プレーをした後、米軍消防で働きながら、少年野球チームを立ち上げるなど多忙な生活を送っていた。その米軍消防の火災訓練の時の出来事である。

 「米軍の映画みたいな服装(防火服)でボンベを担いで、燃えている火元を見つけて消化する訓練があったんです。僕は、20kgのボンベを担いで、そこ(火元)に走って行ったんですよ。そしたら隊長が「何してるんだ!」と怒鳴るんです。「あそこが燃えてるんで行ったんですけど」と答えると「いやいや、お前おかしいんじゃないか、お前が20 kg 以上のポンプがついて走って行って、ぜえぜえ言って、あそこで何が最高のパフォーマンスできるんだ」と「ゆっくり歩いて行って、あそこで勝負だ」。日本人って全力が美化されんですよ。だから燃えていたら、周りの人も「消防士さん走っていきなさい」って言うでしょ。でもアメリカ人は違うんですよ。あそこで最高のパフォーマンスを出すために、ゆっくりと呼吸を整えながら行くんですよ」

 これも古賀監督が、何が目的かを見失わないことの大切さを学んだ経験の一つである。野球というゲームに置き換えるなら、野球は「相手より多くの得点を記録して、勝つことを目的とする」スポーツである。7分間ノックを行わないのは、その目的を達成するための取捨選択なのである。

 次号では、更に「7分間ノックを行わない」の真意に迫ります!

文=田中 実

編集後記今回の連載コラムでは、古賀監督の「高校野球への新しいアプローチ」というテーマで執筆させてもらっている。ただ、このアプローチ以上に惹き付けられるのは、やはり古賀豪紀という人間の生き方である。今回オリックスを退団後について少し触れたが、これはあくまでも一部に過ぎない。「古賀の生き方」については、高校野球ドットコムで良いタイミングで必ず皆さんにお伝えしたいと思う。まだ連載途中だが是非期待してもらいたい。