『サタデーナイト・チャーチ』“土曜の教会の母”ジェナ・タインのインタビュー映像、LGBT支援プログラムとは?
2月22日(金)より公開中の映画『サタデーナイト・チャーチ -夢を歌う場所-』。この度、“サタデーチャーチ”に2004年から参加し、2005年から10年間、プログラム・ディレクターとして活動したジェナ・タイン・メイヤー氏のインタビュー映像が到着した。
本作の主題である“サタデーチャーチ”とは、LGBTの人々のために実在する支援プログラムのこと。毎週土曜の夜だけ教会が開放されて、食事が振る舞われ、悩みごとの相談にも乗ってくれる場が提供されている。さらに、会場を借りて本格的なダンスコンテストを定期的に開催するなど、決して平穏ではない人生を歩む彼らが、生き甲斐を見つけるためのサポートも果たしている。
そんな教会の一つでボランティアを務めていた、プロデューサーで俳優のデイモン・カーダシスが、自身の実体験と綿密なリサーチをもとに、LGBTの人々が直面する厳しい現実や社会問題に焦点を当てて脚本を書き上げ、自ら初の長編映画監督に挑んだ本作『サタデーナイト・チャーチ -夢を歌う場所-』。セクシュアル・マイノリティであることによる学校でのいじめや、家族でさえ自分のことを理解してくれない孤独や家出などの辛い現実の一方で、土曜の夜の教会での新たな仲間との出会い、そして恋愛模様も描かれていく。
物語が進むにつれて主人公の辛い経験が増え、現実逃避をするかのようにミュージカル調に歌い上げる空想も同調して増えていき、その空想は教会で出会う仲間たちにも広がり、彼らのダークな人生の中に光が射した瞬間をミュージカルタッチで描いているのも見どころのひとつとなっている。監督がボランティア中に、若者たちが歌やダンスで解放されていく様を見て、本作には主人公たちが歌うシーンが必要だと感じていたのが、この演出のきっかけになっている。
“サタデーチャーチ”プログラムは、家族や周囲から理解を得られずに居場所が無くなって家出をし、ストリートチルドレンとなり、生き延びる手段として何度も売春をせざるを得なくなり、薬物乱用に苦しむLGBTの若者が後をたたず、ニューヨーク市が宿泊施設を開放するも、粗悪な環境が原因で寄り付かなくなり、ホームレス化が進んでいた中、2001年10月にセント・ルーク・イン・ザ・フィールズ教会が本プログラムに乗り出し、24歳までの若者たちに、食事や衣服の提供、安全なセックスの指導、HIV検査、ダンスやバスケ等のスポーツをする場の提供、その他個々の相談に乗る機会を設けたことが始まり。
一番盛んな時期には、本プログラムを約100もの教会が実施しており、今でも約30の教会が続けている。参加しているのは約9割が有色人種であり、白人は少ないのが現状だ。それは、いわゆるダブル・マイノリティ(人種的マイノリティと、性的マイノリティの両方)であることが要因で、LGBTの中でも声を持たない存在。それもまた本作の大きなテーマのひとつとなっている。
本作が公開された今、本作をこれから観る人は勿論、既に本作を鑑賞済みの人にも、本作が描いた世界をより深く、現実の事と理解するために、実際本作の舞台となったNYの教会の取材を敢行。“サタデーチャーチ”に2004年から参加し、2005年から10年間、プログラム・ディレクターとして活動したジェナ・タイン・メイヤー氏のインタビュー映像が到着した。
【以下、インタビューより】 ※映像の中の日本語字幕は字数制限があるため、下記より簡易的に意訳しています。
“サタデーチャーチ”は、2001年の10月、米国同時多発テロ後に始まりました。ホームレスのLBGTの若者向けの国内最大の住宅提供施設である、ニューヨークのアリー・フォーニー・センターを経営するプログラム・ディレクターが、セント・ルーク・イン・ザ・フィールズ教会で始めたプログラムです。
“サタデーチャーチ”は、 ニューヨークのクリストファー・ストリートの教会を活用する案のひとつでした。(本作のロケ地でもある)そこの近くの埠頭は、昔からLBGTの若者が集まる中心的な場所でした。
最初は小さなプログラムから始め、その時はダンス教室の開催とピザを出したそうです。そして私は2004年から関わり始めて、2005年にプログラム・ディレクターを引き継いでから10年間活動しました。最初の参加者は、毎週10人から12人くらいでしたが、一番多い時期には毎週60人から90人ほどが参加してくれました。その頃からHIV検査や法律相談なども行い、プロのシェフによって調理されたフルコースの食事を毎週提供するようになりました。ボランティアによるアート教室や、ダンス教室が開かれ、ヴォーグダンス用の場所もありました。『サタデーナイト・チャーチ -夢を歌う場所-』の劇中でも描かれていましたが、まさにあの通りの光景でしたよ。
私は10年間、毎週土曜にこのプログラムで働いてきました。カウンセラーの手配や、“ポップアップ・ショップ”と呼ばれる寄付された衣服のある楽しい“お店”を提供していました。寄付された衣服をもらうという恥辱を取り払い、気兼ねなく持ち帰られるような環境にしたのです。LGBTの若者が様々な体験を楽しめる場所にしました。長期で利用する若者も多く、5〜8年間くらい通ってくれた子たちもいました。
“サタデーチャーチ”に駆け込んでくる多くのLGBTの若者は、悲惨な状況に陥っています。家から追い出され、HIV陽性と診断された子もいました。彼らは助けを求めてやってきます。住まいを見つけ、仕事に就けるまでサポートします。その中でひとり、私が特に強い絆を感じた子がいました。出会った時、彼は学校を中退したばかりでした。そこは、職業訓練校のような授業ばかりで、彼は失望して退学し、学資ローンも支払えなくなりました。彼は真剣に学校に戻りたいと考えていたけれど、アメリカでは一度学資ローンが債務不履行になると、再び(他の学校でも)学資ローンを得ることはできないの。そこで私たちが支援したのです。9ヶ月間、彼を働かせて、債務を払わせて、学校に戻れるようにしました。出会った頃、彼はほぼホームレスの状態で、友人や親戚の家を転々としてソファーで寝ていましたが、今や自身でアパートを借り、銀行の支店長になり、もうすぐ(大学院の)博士号も取れそうです。私たちにとっても励みになりました。酷い状況に苦しんでいた若者が、私たちのサポートにより、良い人生を手に入れたのです。
彼と似た境遇の若者たちも勇気づけられました。仲間の存在は本当に大きいようです。本作でも、それがきちんと表現されていますね。プログラムのスタッフも、彼らに食事を提供したり、カウンセリングしたり、多大なサポートをしていますが、でも最も効果的なことは、同じ境遇のLGBTの若者間で起きます。彼らがお互いを支え、助け合い、変わっていく力を、デイモン監督は本作で完璧にしっかりと描いてくれました。
映画『サタデーナイト・チャーチ -夢を歌う場所-』は新宿ピカデリー他全国公開中
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