W杯出場へ。「世界で戦う」をキーワードに語る〜八村塁 編〜

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 2006年大会以来となるワールドカップ出場まであと1勝――。2018年11月から始まったこの予選の長い旅路も、2月21日のイラン、24日のカタールとのアウェー決戦にて決着がつく。現在、グループ3位につけている日本は、2連勝すれば出場権獲得となるグループ3位内を確保できる。1勝1敗か2連敗でも、逆グループ勝敗によっては日本が最後の7番目に滑り込む公算が大きい。

『世界で戦う』をキーワードに、3人の選手にワールドカップへの思い、今後の日本のバスケを語ってもらうインタビュー。折茂武彦、竹内譲次に続き、ラストを飾るのは八村塁(ゴンザガ大3年)だ。思えば、1年前の日本は1次予選初戦のフィリピン戦から4連敗に陥る暗闇の中にいた。この崖っぷちの状況を救い、破竹の6連勝へと結びつける原動力となったのが、2月に21歳になったばかりの八村なのである。


日本代表でも自分のプレーを発揮して貢献した八村塁

 今シーズンの八村は11月のマウイ・インビテーショナルで強豪のアリゾナ大やデューク大をなぎ倒してゴンザガ大を優勝へと導き、大会MVPを獲得。力強く、そして状況判断に優れた得意のポストムーブと正確性を増したジャンプシュートを武器に、ゴンザガ大のエースの称号を手にしている。そうした今シーズンの飛躍の背景には、昨年、4試合参戦したワールドカップ予選での奮闘がある。昨年9月、ホームでイランとの激闘を制し、アメリカに戻るときに八村は「日本代表でプレーできて本当によかった」と言い、続けてその真意をこう語っている。

「ゴンザガのコーチたちも僕に日本代表でプレーしてほしいという思いがあって、頑張ってこいと言われました。こういう大きな大会を経験することが僕の成長につながると言ってくれて、僕もその通りだったと思います。日本代表の中心選手としてやったことが、これからのゴンザガでのプレーにつながっていくと思います」

 このインタビューではゴンザガ大での飛躍の要因を探るとともに、日本代表での奮闘が自身の成長にどのような影響を与えたのかを聞いた。2月の最終予選は大学がシーズン中のために参戦することはできないが、海の向こうのアメリカから日本代表の一員として、八村塁の心はイランとカタールに飛んでいる。

――ここまでのゴンザガでの3年間の成長を、自分自身はどう感じていますか?

 ここまで勉強の面ではつらいこととか、新しい仲間ができて楽しいこととか、色々ありましたけど、1年生の時からいろんな経験をしたことがここまでやれていることにつながっているんじゃないかと思います。ゴンザガに来てたくさん学べて本当によかったと思います。支えてくれるチームメイトやコーチに感謝しています。

――年々プレーが成長している理由に、英語力の上達があると思います。1年や2年の時と比べ、今はどのくらい英語力の理解が深まり、語学の上達がプレーにどう影響していますか。

 もう、それは絶対に大きいと思います。1年生の時はほとんどまったく話せなくて、2年生になって何を言っているかだいたいでわかってきて、3年生の今は、ほぼほぼ何を言っているかもわかりますし、チームメイトとコミュニケーションもしっかり取れています。そういう中で今年は自分のやりたいことに対して意見も出せますし、言語が伸びていることが自分の成長につながっていると思います。

 3年生になってコーチから「チームの中心選手として、リーダーとしてやってほしい」と言われているので、そうなると、もっと声をかけていかなきゃいけないので、そういう中で語学が伸びていることが役立っています。

――3年生になってリーダーになることを求められているなか、自分ではリーダーになれていると思いますか?

 そうですね。試合中に声をかけるだけでなく、僕が試合の流れを持ってきていることが今までもあったので、プレーの面でもリーダーになれているんじゃないかなと思います。

――そういう、自分が引っ張ってリーダーになることは日本代表でもやっていましたが、日本代表での経験がゴンザガでのリーダーシップにつながっていますか?

 絶対にそれはありますね。日本代表だともっと年上の人たちとプレーをするので、その中でリーダーになることは難しいですけれど、そういうところでやった経験は大きいです。リーダーもそうだし、日本代表でやれたプレーの経験から、ゴンザガでもやれているのはあります。

――昨年のワールドカップ予選では、出場した4試合ともに直前の合流でしたが、すぐに馴染めてチームを引っ張っていました。すぐにひとつのチームになれた要因は?

(渡邊)雄太さん(メンフィス・グリズリーズ)や僕が遅れて入ってきても、先輩たちがオープンマインドな雰囲気を作ってくれました。すごく優しい先輩たちばかりで、コートの中でも外でもずっとコミュニケーションを取ることができたので、すぐにチームに溶け込めました。チームがひとつになることで、いい成績が残せたんじゃないかと思います。

――日本代表戦において、八村選手や渡邊選手は常にアグレッシブにゴールに向かって攻めています。2人の加入によってトランジション(攻防の切り替え)の速さが出て、目に見えてスピード感が変わりました。八村選手が日本代表で心掛けているプレーとは?

 日本代表では中心選手になっていくつもりでやっているので、試合にインパクトを与えたい思いでやっています。雄太さんとも、そういうことが僕らのやることだと話をしています。


今回は日本代表に合流できなかったが、アメリカからエールを送る

――まもなく最後のワールドカップ予選が始まります。今回は出場できませんが、八村選手の日本代表への思いとは。

 僕としてもワールドカップには出たいので、予選には出たかったです。今はシーズン中で予選に参戦できないのは僕も悔しいところはあるんですけれど、先輩たちがやってくれると思うので、しっかりと2勝してもらいたいと思います。絶対にワールドカップに出たいですし、この先はオリンピックもあるので、先輩たちに絶対に勝ってもらって先につなげてもらいたいです。

――「悔しい」という言葉が出たけれど、やっぱりシーズン中でなければ予選に出たかったですか?

 絶対に出たいです。はい。絶対に出ます。日本代表で中心になってやりたいという意識がすごくあります。

――八村選手にとってのワールドカップ、そしてその先にあるオリンピックとは、どんな存在ですか。

 昔からずっとオリンピックに出ることを目標にしてきたんですけど、そういう中で今はワールドカップに出られるチャンスがあるところまできたので、このまま目標に向かって成長していきたいと思います。

――今回はイランとカタールで予選が行なわれます。アウェーで戦うポイントは何だと思いますか。また先輩たちに頑張ってほしいことは。

 やっぱり、今までディフェンスもオフェンスでもチーム一丸でやってきたので、一つになることを忘れずにやってほしいです。今回はアウェーでの戦いになるので、そういう中ではミスをすると取り返しがつかなくなるので、ミスを少なくすることが大切です。僕も日本代表で4試合したので、仲間たちとまた試合ができることを楽しみにして、僕はこっち(アメリカ)で頑張ります。

――渡邉雄太選手が一足先にNBAでプレーしていますが、どのような刺激を受けていますか?

 僕も目標にしている舞台なので、そこで雄太さんが先に頑張って戦っていることはすごいことだし、それを見て僕も頑張ろうと思います。今回、僕たちは予選に出られないんですけど、僕たちも日本代表の一員なので、代表の試合が近くなったら連絡をしようと思っています。

――日本代表やゴンザガ大のエースとして、そしてNBAでのプレーを目指して、八村選手には様々な期待がかかっていますが、それらを背負うことをどう考えていますか?

 そういう、背負うものの重さは感じるんですけれど、それを感じてもしかたないし、考えてもしかたないと思っています。あまり考えすぎると自分のやるべきことが絡まったりするので、そういう重さみたいなものはあまり考えすぎないように横に置いといて、自分のやるべきことを今はやるようにしています。

――今だったら、ゴンザガのエースとして目の前の試合があり、そこでの役割を乗り越えていくことで、その先があるということですか?

 そうです。今はゴンザガのチームで勝つことが大事です。このチームでバスケをすることが僕はすごく好きなので、それに集中してやるべきことをやりたい。

――八村選手にとって、今のいちばんの目標は何ですか?

 僕たちは(1年生のときに経験したNCAAトーナメントの)ファイナル4をもう一度目指しているので、そこに向かってチーム一丸となってやることです。チームとしてはディフェンスをしっかりやることで僕らのチームの勢いが出るので、ディフェンスをもっと強めていきたい。今回は日本代表の試合に出られなかったけど、アメリカで目の前のことに集中して頑張ることが、僕のこれからにつながっていくと思っています。