2016年4月の開局時、「新しいマスメディアを作る」とブチ上げたが・・・(撮影:今祥雄)

「基本、今後も攻めていく」。ネット広告代理大手・サイバーエージェントの藤田晋社長は決算説明会の場で、同社の肝いり事業「AbemaTV(アベマTV)」の新年度の方針を力強く語った。2016年4月の開局から2年半が経ち、視聴者数や売上高の拡大は見られるものの、「新しいマスメディアを作る」という目標の進捗を不安視する声も上がっている。

サイバーエージェントは10月25日、2018年9月期の決算を発表した。売上高は4195億円で前期比2ケタ増収だったが、営業利益は301億円と1.8%の減益だった。ネット広告代理とスマホゲームの主力2事業を中心に460億円超を稼いだ一方、前年度に引き続き、アベマTVの番組制作等に200億円超を投じたためだ。

同日に発表された2019年9月期の業績予想は、売上高4700億円(前期比12%増)と増収計画なのに対し、営業利益は300億円でほぼ横ばい。アベマTVへの先行投資が前期と同規模か、それ以上になるとみられる。藤田社長はこの狙いについて、「収穫の時期を迎えたときに大きく成長できるよう基盤を作りたい」と強調した。

若年女性ユーザー取り込みに成功

アベマTVは、サイバーエージェントとテレビ朝日の合弁会社で手掛けるネットテレビ局事業だ。スマートフォンやパソコン、テレビ端末から、バラエティやニュース、スポーツなど約25チャンネルの番組を24時間無料で視聴できる。スマホアプリのダウンロード数は足元で3400万に到達。週間利用者数も500万〜600万まで成長している。ここ1年は恋愛関連のオリジナル番組を増強したことが奏功し、特に若年女性ユーザーの取り込みが進んだ。

アベマTVの収益源は、テレビのように番組の間に挿入するCMの広告収入と、見逃し番組のオンデマンド視聴機能などで得るユーザー課金収入だ。2018年9月期は、食品・飲料・日用品メーカーなど「ナショナルクライアント」といわれる巨大広告主の開拓を加速し、同事業単体の売上高は63億円(前期比約3倍)まで拡大。制作費をまかなうには程遠いものの、着実に成長しているといえる。

今期はこの売上高をさらに伸ばす計画だ。明確な目標数値は開示していないが、「(前期の)倍以上というところにはいけるだろう」(藤田社長)。「(動画の広告は)制作から配信までけっこう時間がかかるが、これまで仕込んできたものが花開き始めている。今期はかなり増収できそう」(同)と自信をみせる。

アベマTVの将来について会社側は楽観的だが、外部にはそれと異なる見方もある。懸念としてまず挙げられるのが、週間視聴者数の推移だ。開局から2年半で着実に伸びているものの、2018年に入ってからは500万〜600万台で微増かほぼ横ばいを行ったり来たりしている。2017年11月に元SMAP3人が出演した「72時間ホンネテレビ」でつけたピーク値(729万)はその後超えられておらず、開局当初から目標に掲げる1000万という大台はまだ見えてこない。


アベマTVの将来について自信を見せる藤田晋社長(撮影:ヒダキトモコ)

この点を業界アナリストから問われた藤田社長は、「すごくネガティブに、ナナメに見るとそうかもしれないが」と前置きしつつ、「世界的に注目度の高い格闘技戦を持って来るとか、そういう突飛なことはしていないし、広告もほぼ打っていない。そういう中では、順調に地固めをできていると思っている」と話した。

とはいえ、現状に100%満足しているわけではなさそうだ。「今年はレギュラー番組を拡充した一方で、『ホンネテレビ』や『亀田興毅に勝ったら1000万』(2017年5月放送)のような、世間を騒がせる特番が出せていない。年末の企画も構想中だが、今後はすごく話題になるようなものもまた出していきたい」(藤田社長)。

電通、博報堂出資の狙いは?

もう1つアベマTVに問われているのが、組織運営の舵取りだ。アベマTVの運営会社は10月23日、電通、博報堂という広告代理2社の資本参加を発表(出資比率は電通が5%、博報堂が3%)。広告拡販やコンテンツ調達で連携を深めるのが主な目的だが、「社内向けのメッセージも重視している」と藤田社長は話す。

「(サイバーも電通、博報堂も広告代理店なので)アベマTVの広告を売ってもらうパートナーでありながら、どうしても競合してしまう部分があった。現場社員の迷いも感じていた。出資関係があればそこがスムーズに行くはず。各社から1、2人の出向者も来てもらうので、それによって意思統一が図れるだろう」(同)。

合弁相手であるテレ朝との関係性も注視したい。サイバーとテレ朝両社の社内には今「一枚岩」と書かれたポスターが貼られ、連携を深める経営の意思が明示されている。「そもそも一枚岩であればこういうものを貼らなくていいのでは?」という記者の質問に対し、藤田社長は、「現状が一枚岩でないということはない」と否定しつつ、「社員に『ネット対テレビ』という、漠然とした競争意識を持たないでほしいというメッセージを込めている」と話す。

「テレビが好きで、テレビの現場で仕事をしている社員からしたら、ネットのほうが伸びていくことに不安を覚えたり、競合に思えたりするかもしれない。でもそう考える必要はなくて、(ポスターは)両社の共同事業なんだ、ということを改めて社内に強調したものだ」(藤田社長)。

アベマTVの一番のリスクはむしろ、「(サイバーエージェント本体の)広告やゲームの既存事業が失速して、先行投資を続けられなくなること」(藤田社長)だという。広告もゲームも足元は好調だが、特にゲームは市場が頭打ち状態にあり、いつまでも稼げるとは限らない。組織内の結束を固め、新たな放送局として早期に勝ちパターンを見つけたいところだ。