濱田めぐみ 撮影/廣瀬靖士

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 客席が360度回転することで、今までにない感覚で演劇世界に没入できる劇場、IHIステージアラウンド東京。『髑髏城の七人』シリーズのロングランで満員の劇場を沸かせた劇団☆新感線が、ここで新たなステージに突入する。宮藤官九郎さんがシェークスピアの『マクベス』を大胆にアレンジし、脚本を手がけた『メタルマクベス』を、ステージアラウンド版の新演出で上演するのだ。

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 この作品でマクベス夫人にあたるランダムスター夫人を演じるのが、“ミュージカル界の女王”こと、濱田めぐみさん。劇団四季出身で正統派ミュージカル女優の濱田さんと劇団☆新感線の組み合わせには、ビックリしたという演劇ファンも多かったよう。

「それはもう、100万回ぐらい言われました、異種格闘技戦だって(笑)。私自身、うれしかったと同時にビックリしましたもの。“私でいいの!?”って。劇団四季にいたころ劇団員にとって劇団☆新感線というのは憧れというか、羨ましい存在だったんです。

 自由で劇団四季ではできない型破りなことを思い切ってやっているという印象があって、同じ劇団でも真逆だなと。あとあと聞いたら劇団☆新感線の方々も劇団四季に対して“正統派”ということで憧れている部分があったりしたらしく、お互いに憧れ合っていたみたいです(笑)」

『メタルマクベス』は近未来と’80 年代の日本を行き来する斬新な構成ながら、原作のテイストはそのまま。曲調はメタルロックだが、ミュージカル色が強烈でもある。

「シェークスピアの作品って、実はクラシカルな曲よりもハードロックとかメタルとかパンクのほうが合うのかな、と思いました。この作品ではそれぞれの場面に合う曲がバーンと投げ込まれて、そこにある感情やテイストが見事に増幅されているんです。

 もともとシェークスピア作品は感情もハードだしキャラクターが濃いので、すごくマッチしていて。そういう意味ではすごく“ミュージカル”だと思いますね」

 宮藤官九郎さん独特の面白い台詞を、濱田さんがどう発するのかも楽しみ。

「宮藤さんの台詞は、主語と述語の間にオマケが多くて文が長いんですよ。本当はここで『。』ってしたいけど『……』でつながっていて、その後も『、』でつながっているから文章構造が不思議。“どこでブレス(息継ぎ)とるの?”みたいな(笑)。

 劇団四季的な思考回路でまじめに考えちゃうから、なかなかほかのみなさんみたいにブワーッと回していけないんです。あと、困ったのはロックの用語を知らないこと。台詞を変更するって言われても“(ブラック・)サバス? (ユーラシア・)ヒープ? なにそれ? ゲイリー・ムーア? すみません、メモっていいですかー?”とか、そこは苦労してます(笑)」

意外と子どもっぽいキャラになったかも

 濱田さんは半年前の今ごろ、ちょうど同じ稽古場で『メリー・ポピンズ』の厳しい稽古に奮闘していた。「今回も大変ですけど『メリー』に比べると真逆」という。

「『メリー』のときは演じる役が“完璧”な人でしたので、プレッシャーがすごかったんです。動きもすべて決まっていて、自由なんて1ミリもなかったですから。でも、それを経験してから今回参加したことで、いま楽しくできているところがあると思います」

 ランダムスター夫人というキャラクターに対しても、「意外とすんなり」向き合えているそう。

「自分たちがマクベス夫人と聞いてイメージする、おどろおどろしいとか、憎念とか権力欲の人というだけでなく、演出のいのうえひでのりさんが私の中から引き出してくれた面白い部分が加わっているんです」

 濱田さんならではの、意外な面白さとは?

「いのうえさんは私を“デキる人”だと思っていた節があるんですね。ところが“アレ、めぐちゃん!? なんでこんなに抜けてるの!?”となった(笑)。そこを膨らませていただいているから、今回のシリーズで夫人役をやる3人の中で、私がいちばん子どもっぽいかも!?」

 そして今回、夫のランダムスター=マクベスを演じる橋本さとしさんは、もともと所属していた劇団☆新感線へ、21年ぶりに原点復帰。濱田さんはそんな橋本さんを支え“内助の功”を発揮する存在でもある。

「さとしさんの演じるランダムスターは、すごく人間的。主役だし客席が回転する劇場だし21年ぶりの古巣で感慨深そうだし、やることがすごく多いから目が白黒しちゃって“大丈夫かな?”と思うところもあります(笑)。

 でも、さとしさんと(橋本)じゅんさんの掛け合いは関係性が確立しているからこそ面白くて笑いをこらえるのが大変だし、集中しているときのさとしさんはすごくカッコいい。だから、さとしさんが集中できるよう、私は母性本能を発揮しつつ、メッチャ働かせます(笑)」

 殻を破った濱田さんのパワーが、この劇場でどう発揮されるかにも期待。

「最初こそ自由を逆に不自由と感じたりして立ち往生しましたが、みなさん優しいので、慣れたら楽しくてしかたない。もともと劇団にいたから居心地がいい部分があって、勝手に劇団☆新感線カラーに染まっています。お客様はきっとすごく笑えますし、エネルギーが沸き立って、とにかく飽きません。劇場に来てさえくだされば、やみつきになること間違いないので、ぜひ、この特別な劇場で楽しんでほしいです!」

<出演情報>
ONWARD presents 新感線☆RS『メタルマクベス』disc 1 produced by TBS
劇団☆新感線がロックの生演奏にこだわった、“音モノ”の異色作。シェークスピアの『マクベス』を近未来の『マッドマックス』の世界観で、という演出家・いのうえひでのりさんのリクエストに宮藤官九郎さんが見事に応え、2006年の初演は大ヒット。2218年の荒廃した未来と、バンドブームに沸く1980年代の日本が交錯し、圧倒的なエネルギーとユーモアで物語が紡がれていく。今回は360度回転するIHIステージアラウンド東京(豊洲)にて、disc1〜3まで3組のキャスト&新演出により上演。disc1は7月23日〜8月31日。

<プロフィール>
はまだ・めぐみ◎1972年、福岡県生まれ。1995年、劇団四季に入団し、翌年『美女と野獣』のヒロイン、ベル役に大抜擢。2010年の退団まで、劇団の看板女優として『アイーダ』や『ウィキッド』など、数々の作品で主演を務めた。退団後も卓抜した歌唱力と演技力を生かし、ミュージカル界を牽引。主な出演作に『ラブ・ネバー・ダイ』、『サンセット大通り』、『ジキルとハイド』、『メンフィス』、『メリー・ポピンズ』などがある。

<取材・文/若林ゆり>