ロイヤルホテル執行役員 中川智子さん

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チャンスがあればひるまず飛び込む。自身のモットーであり、後輩にも伝えていることだ。セールスレディー第1号、女性初の宿泊部長など、与えられたチャンスはすべてつかんできた。最大のチャレンジは、子どもが幼いころの海外への単身赴任だった――。

■ロイヤルホテル初の女性セールス

関西で生まれ育った中川さんの子ども時代、大阪のロイヤルホテルは特別な場所だった。

「お祝い事があったとき両親と食事をするのはこのホテルでした」

憧れのホテルに入社し、フロント係を経て、1年半後に「当時、日本のホテルではまれだった」コンシェルジュとなる。

そのころ、繊維の街、大阪には海外から来るバイヤーが多く、毎年ロイヤルホテルに泊まる人たちがいた。観光案内はもちろん、ビジネスのアポイントを取ったり、「お土産を持ってきたからラッピングしてほしい」という要望を聞いたり、こまやかに対応した。

「コンシェルジュの仕事は本当に楽しくて、お給料をいただいて毎日学ばせてもらっていいのかなと思うほど(笑)」

生涯の仕事にしても構わないとほれ込んだ。ところが1年半後、セールスに異動。コンシェルジュを離れる寂しさを募らせていると、常連のお客さんから「コングラチュレーション!」と握手された。「トモコ、これはグッドチャンスだよ。そんな顔をしないで頑張りなさい」と。その言葉に背中を押された。

ロイヤルホテル初の女性セールスとして、付き合いのある外資系企業の担当となった。気づいたのが看板の威力だ。

「私はまだ25、26歳の駆け出しなのに、『ロイヤルホテルのセールス担当です』と訪問すると、支店長クラスの方が応対してくれて、これは失敗することはできないなと身が引き締まりました」

■「この会場じゃそれだけの客は入らない」

ところが、許されない失敗を犯してしまう。外資系企業の社長交代パーティーの予約を200名で受けていた。社長の来日に変更があるのでパーティーの日取りを変えてほしいと言われ、同じ宴会場が空いていなかったので、他の部屋を押さえた。宴会部門の上長に「お部屋が変わりました」と伝えると、「この会場じゃそれだけの客は入らない」という返事。

「宴会場の広さをイメージできなかったんです。もう真っ青になっちゃって。案内状はすでに出しているし……」

スタッフみんなが知恵をしぼってくれた。会場をロビーまで広げてバーカウンターを宴会場の外に出し、スタンディングでカクテルを飲みながら代わる代わる新社長と話せるスタイルに変更。

「パーティーが終わるまで冷たい汗が流れっぱなしだった気がします。後で、先方のご担当者さまから『社長交代の席だから、部屋が閑散とするほうが困る。にぎやかな雰囲気でいい会だった』と言われ、ホッとしました。変更に関しては十分注意しなければと肝に銘じた経験です」

■女性の離職率が大きく改善

新しい職場に異動すればこんなミスもあるだろう。でもチャレンジは大事だと思う。

「若い子には、もしチャンスがあれば、ひるまずに飛び込みなさいと言っています」

本人も東京への転勤を含め、異動しながらチャンスをつかんできた。なかでも3歳の子どもを日本に残して、1年半、単身で海外赴任をしたのが一番のチャレンジだったかもしれない。

「男性にはNYのホテルなどに1年間研修に行く機会はあったのですが、女性には海外に行くチャンスがなかなかありませんでした。ここで『今子どもが小さいので行けません』と断ったら、2度とチャンスは来ないと思いました」

■夫と両親に子どもを託し、グアムとマレーシアへ

幸い、自分の両親も一緒に暮らしていた。夫と両親に海外赴任の話をすると賛成してくれた。

「主人と両親に子どもを託し、グアムとマレーシアのホテルオープンの応援に行きました。レストランのマネジメントを教えるのが主な仕事ですが、夕方になると着物に着替えてレストランに出ることも。お客さまへのサービスを楽しませてもらいました」

帰国後、東京のホテルで働き、再び単身赴任するのは14年後。新人で入った大阪へ宿泊部長として凱旋した。365日24時間稼働する宿泊部門。女性は結婚・出産すると働き続けられるか不安に駆られ、辞める人も多かった。当時の社長から「夢を抱いて入社する若い女性スタッフには活躍してもらいたい。女性の部長が誕生すれば、後進も次は課長になり、部長になりというのが当たり前になる」と期待を寄せられた。

それから9年が経ち、中川さんは執行役員に就く。その間、子どもを産んで職場に戻ってくる女性が増えてきた。中川さんに続く女性のホテル総支配人も誕生した。

「それはとてもうれしい。産休で抜けた人のサポートに入る女性たちにも、その時期が来たら応援してもらうんだから、あの人の分の仕事が増えて大変だわ、なんてマタハラ的なことは言わないの! と話しているんです(笑)」

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▼役員の素顔に迫るQ&A

Q.好きなことば
意志あるところに道は開ける

Q.趣味/ストレス発散
日本酒/お風呂

Q.愛読書
『蒼穹(そうきゅう)の昴(すばる)』(浅田次郎著)

Q.仕事道具
母から贈られたブローチ

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中川智子
ロイヤルホテル 執行役員
1984年、ロイヤルホテル入社。87年、セールスレディー第1号に。その後、リーガロイヤルホテル東京などを経て、2008年、リーガロイヤルホテル大阪宿泊部長、13年、都市センターホテル総支配人、17年、執行役員に就任。2児の母。

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(Top Communication 撮影=水野真澄)