新宿ドン・キホーテにはなぜ、「外国人」がどんどんやって来るのか?
豊富な品揃えと激安価格、さらに夜遅くまでの営業時間も相まって絶大な支持を誇る「ドン・キホーテ」。そのドン・キホーテが、訪日客を巧みな戦術で魅了していると話題になっています。今回の無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』では著者の佐藤昌司さんが、プロの目線で同社の戦略と「狙い」を読み解きます。
免税販売が6割の店舗も。なぜドンキは外国人に人気なのか?
ドン・キホーテを展開するドンキホーテホールディングスが発表した11月の月次売上高速報によると、既存店売上高は前年同月比5.9%増、客数が5.4%増、客単価が0.5%増となりました。訪日客の来店が大幅に増え、免税売上高を大きく牽引したといいます。
同社の業績は好調です。2017年6月期の連結決算は、売上高が前年比9.1%増の8,287億円、本業の儲けを示す営業利益は6.9%増の461億円です。ドン・キホーテ1号店創業以来、28期連続の増収、営業増益を達成している状況です。
業績を下支えしているのが免税売上高です。14年10月から、従来免税販売の対象となっていなかった食品や飲料、医薬品、化粧品といった消耗品が新たに免税対象となったことが追い風となりました。直後の14年10〜12月の店舗売上高に占める免税売上高の比率は2.6%しかありませんでしたが、17年7〜9月には6.9%にまで高まっています。
ドン・キホーテにおける訪日客の存在感は年々高まっています。東京・新宿にある「ドン・キホーテ新宿東南口店」を訪れるとそのことがよくわかります。同店は今年7月、世界一の乗降客数を誇る新宿駅東南口から徒歩1分の場所にオープンしました。
とある日の同店は買い物かごを持った外国人と思われる客で賑わっていました。売り場のいたるところで外国語が飛び交っていたのです。かごに菓子やペットボトル飲料などをつめている外国人もいれば、化粧品をたくさんつめている外国人もいました。
同店は高速バスターミナル「バスタ新宿」に近いこともあり、日本各地を旅行する前に同店で買い物する訪日客が少なくないようです。もちろん、旅行中や帰国前の人もたくさんいます。そういった人たちが買い物しやすいよう、荷物を預けられる有料のロッカーを店内に設置しています。
訪日客向けの売り場も充実しています。土産物コーナー、駄菓子コーナー、抹茶コーナーを特別に設け、お土産需要の掘り起こしを図っています。また、近年外国人の間で評判が高まっていて同店の近くにも出店しているラーメン店「一蘭」のインスタントラーメンのコーナーもあります。
こうしたことからわかるとおり、訪日客の取り込みを狙って売り場がつくられているわけですが、今のところそれは奏功しているようです。同店の7〜9月の免税売上高の構成比は33.0%(全店平均は6.9%)にも上ります。
さらに上をいく数値を叩き出している店舗もあります。大阪にある道頓堀御堂筋店と道頓堀店です。16年7月〜17年6月の免税売上高の構成比は道頓堀御堂筋店が59.6%、道頓堀店が56.3%にもなります。構成比ランキングはそれぞれ堂々の1位と2位です。しかも両店の距離は300メートルもなく、道頓堀御堂筋店は、道頓堀店がさばききれなくなるほど多くなった訪日客の受け皿として15年6月に誕生したという事情があります。それでも両店とも60%前後にも上るというから驚きです。
ドン・キホーテが訪日客の取り込みに力を入れだしたのは1998年です。この年に新宿店が初めて免税販売の免許を取得しました。さらに本格化していったのが2008年で、多くの中国人が利用する「銀聯(ぎんれん)カード」での決済を同年6月に導入しました。そして同年7月に専門の部署を立ち上げ、市場調査やプロモーションを積極的に行っていったのです。
プロモーションで大きな役割を果たしたものに「ようこそ! マップ」があります。地域企業・施設などと連携してつくった訪日客向けの無料の案内地図で、ドン・キホーテだけでなく地域の観光スポットや宿泊施設、飲食店などの情報も多言語で表記しています。
ドン・キホーテだけでなく「街ごと売り込む」ことでその街を訪れる訪日客のパイを大きく増やし、その一部をドン・キホーテで取り込むという狙いが「ようこそ! マップ」にはあります。単にドン・キホーテだけを宣伝するよりも結果としてより集客できるという考えがあるのです。
ドン・キホーテの一部の商品を割引価格で買えるなどの特典が付いた「ようこそ! カード」も大きな役割を果たしました。提携する旅行会社や宿泊施設を通じて配布し、訪日客の取り込みに成功したのです。また、カードから顧客情報や購買データを収集し、マーケティングに活用することもできるようになりました。
訪日客の取り込みで大きな注目を集めたのが、2014年に約2カ月間行われた「新宿ショッピング・キャンペーン」です。ドン・キホーテや三越伊勢丹、ルミネ、ビックカメラなど新宿に店を構える企業などが共同で販売促進施策を実施しました。店舗情報や地域の地図、特典などを掲載した冊子を旅行代理店や宿泊施設を通じて配布しました。
「新宿ショッピング・キャンペーン」も「ようこそ! マップ」と考え方は同じで、地域全体の魅力を訴求することでまずその地域に来てもらい、その後にドン・キホーテに来店してもらうという狙いがあります。
昨年10月には、「マジカプレミアムグローバル」を導入しました。訪日客が住む各国に商品を配送するサービスで、訪日客は日本滞在中だけでなく帰国後も商品を購入できるようになったのです。
こういった施策のほか、外国語表記のPOPの充実、外貨決済ができる環境の整備、免税カウンターの設置、外国語が話せる店員の増強といった施策を行い、訪日客が買い物しやすい環境づくりも並行して実施していきました。
こうした取り組みに加え、夜遅くまで営業していることも人気の理由となっています。日本での観光産業は緒に就いてきましたが、夜間の観光産業はまだ遅れていて、夕食を終えた後に時間を持て余す訪日客が少なくないなか、深夜営業のドン・キホーテが受け皿となっているのです。ドン・キホーテの時間帯別の免税売上高を見てみると、午後10時から12時がピークになっています。
こうした訪日客向けの様々な施策を早くから愚直に実行してきたことが実を結んでいます。訪日客の数は今後さらに増えることが見込まれているため、ドン・キホーテの免税売上高も当面増え続けていくことでしょう。さらなる業績の拡大が期待されます。
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