米トランプ政権が北朝鮮との有事に備え、韓国に駐留する米軍人家族の帰国をすでに決めている――デイリーNKジャパン編集部は4日までに、東京と韓国・ソウルの情報筋からこのような情報を入手した。

この問題を巡っては、米共和党のリンゼー・グラハム上院議員が3日のCBSニュースのインタビューで、米国と北朝鮮の軍事衝突が近づいているとの認識を示し、「在韓米軍の家族を韓国国外へ退避させ始める時が来た」と述べていた。今後、米国政府が取るべき方針として主張した形だが、実際にはすでに帰国は決まっており、グラハム発言はそれを知った上で「口がすべった」ものだというのが情報源の説明である。

ちなみに、ソウルで情報を入手したのは3日前で、グラハム発言が出るよりも先だった。それらの情報が事実ならば、国際社会による経済制裁にも増して、北朝鮮に大きな衝撃を与える可能性が高い。

入手した情報を総合すると、米国は家族の帰国を急いではおらず、時間をかけて徐々に進めるということだ。ただ、クリスマス・シーズンが近づいていることから、そこで一定規模の動きが出ることはあり得る。

それでも、この情報だけをもって米軍の北朝鮮攻撃が差し迫っていると見るのは早計だろう。米軍が軍事行動に出るには、何より韓国政府との調整が重要であり、それが行われているとする情報はない。

ではなぜ、米国は軍人家族の韓国からの「脱出」を決めたのか。理由は3つほど考えられる。

第1に、軍人家族の「気持ち」の問題がある。北朝鮮とトランプ大統領の間で、「核先制攻撃」だの「完全に破壊」するだの物騒な舌戦が展開される中、韓国に在住する家族はもちろん、米国本国に残っている家族・近親者たちの気持ちが平穏なはずはない。そうした人々から、「早く帰して」との要望が出ていたとしてもおかしくはなかろう。

第2に、北朝鮮に対する威嚇効果の問題がある。韓国には米軍人の家族が約3万人もいる。その存在は、「米軍が家族も避難させず軍事行動に出るはずはない」として、実力行使をちらつかせるトランプ氏の「本気度」を疑わせる要素となってきた。

そして最後に、家族の帰国は北朝鮮に対する「心理戦」として行われる可能性がある。韓国から家族を帰国させることで「米軍は本気だ」と伝え、心理的な圧力をかけるのだ。実際、北朝鮮は在韓米軍が年2回実施している「非戦闘員後送作戦(Non-Combatant Evacuation Operation = NEO)」訓練に対し、神経質な反応を見せている。

訓練に対してもそんな具合なのだから、本当に帰国が始まったとしたら、どんな反応を示すだろうか。

金正恩党委員長をはじめとする指導部は、いっそう強気な姿勢を見せることだろう。しかし庶民の間には、米国と戦争になる可能性に対する不安感が厳然と存在する。

(参考記事:「アメリカ軍に勝てるはずない…」北朝鮮の幹部に動揺広がる

とくに朝鮮人民軍(北朝鮮軍)は、先日の板門店における兵士亡命にも見えるとおり、思想的に強固な状態にあるとは言えない。それどころか一部のエリート部隊を除いて軍紀は乱れきっており、本当に戦争を遂行できるか疑わしい有様にある。

そんな軍隊に身を置く1人ひとりの兵士にとって、今回の情報は相当な不安を誘うものになる可能性がある。今後の北朝鮮国内の動向に、要注目である。