「「たった一人のメーカー」が生んだノート型ホワイトボードが、世界的に注目される理由」の写真・リンク付きの記事はこちら

バッグに入るA5/A4サイズで、しかもリングノートのように何枚も“とじて”持ち運べる──。そんなホワイトボード「BUTTERFLYBOARD 2」(バタフライボード2)が年内に発売される。クラウドファンディングサーヴィス「Makuake」で2017年5月から購入者を募ったところ、約4カ月で1,500万円近くの資金を調達(達成率4,932パーセント)するなど、注目されている商品である。

小型で持ち運べるホワイトボードや、リングノート状になっているホワイトボードは、これまでにも商品化されている。バタフライボード2の最大の特徴は、ボードのヒンジ部に強力な磁石を内蔵していることだ。4枚のホワイトボードを重ねるとピタッとくっついて振っても離れず、ノートのようにめくって使える。

独自構造のマグネットヒンジで固定するため、しっかり固定され、容易に取り外せる。一般販売の価格はA5判が3,780円(税込み)、A4判が4,190円(同)を予定。 PHOTOGRAPH COURTESY OF BUTTERFLYBOARD

もちろん引っ張れば簡単に外れるので、1枚ずつ切り離して使うこともできる。壁際に立てるスタンド型のホワイトボードとは違って、テーブルに置いた状態で数人で書き込みながら議論できるのがメリットだ。また、4枚を並べてくっつければ、最大でA3/A2サイズの大きめのホワイトボードになる。表裏どちらにも書き込めるうえ、冷蔵庫や鉄製のドアなどに磁力で貼り付けられるのも便利だ。

これらの機能をすべて備えたホワイトボードは、これまでなかった。クラウドファンディングで先行して購入したユーザーからは、「こういうホワイトボードが欲しかった」「2セット買えば8枚をつなげて使えるのが便利」といった声が次々に寄せられている。

“副業”から革新的な技術が生まれた

実はバタフライボード2の開発者は、会社員である。夜間や週末を利用して、一人で“副業”のようなかたちで2013年頃から製品開発を続けてきた。このため現時点では、名前を明かしていない。「従来のスタンド型ホワイトボードでは場所に縛られ、働き方が多様化している現代にマッチしていない」と考えていたことから、開発に乗り出したのだという。

「人が思いつくアイデアは、ホワイトボードのキャンヴァスの広さに比例して広がるはず。そこで、持ち運びできるサイズとキャンヴァスの広さという、相反する要素をひとつの商品に盛り込むことができれば、と考えていました」と、開発者は語る。

開発を始めた当初は、樹脂でつなぎ合わせた折りたたみ構造を想定していたのだという。ところが量産性に難があったため、磁石を用いて簡単にくっつけたり外したりできる構造を模索し始めた。というのも、開発者はオーディオメーカーでかつてスピーカーの開発に携わっていたエンジニアで、磁石の特性を知り尽くしていたからだ。

こうして生まれたのが、小型で強力でありながら、極性を意識せずに使える独自のマグネットヒンジである。この特許を取得した独自技術によって、向きを気にせずくっつけることができ、振っても離れないホワイトボードが誕生した。それが2015年に最初の製品として発売された「BUTTERFLYBOARD」だった。

この第1弾もクラウドファンディングによって国内外で高い評価を受けたが、紙製で耐久性や防水性に難があった。また、書き込んだホワイトボードを持ち運ぶ際に、書いた文字や図などが擦れてしまうこともあったという。そこで耐久性のある特殊素材を採用し、透明なクリアボードを付属するなどして弱点をカヴァーした進化形が、バタフライボード2というわけだ。

太さ0.5mmという極細のマーカーを独自開発。幅1.0mmで黒・青・赤の3色のマーカーも付属する。 PHOTOGRAPH COURTESY OF BUTTERFLYBOARD

さらに付属品として、0.5mmという極細のホワイトボードマーカーを新規開発した。ホワイトボードが小さければ、細かな文字を書き込めたほうが便利だ。しかし、ボールペン感覚で書き込めるような極細のマーカーは存在しなかった。協力を持ちかけた大手メーカーに門前払いされ続けたものの、偶然出合った老舗のインクメーカーの協力を取り付け、世界初の極細マーカーが完成。バタフライボード2とのセット販売が実現した。

資金調達の段階からユーザーの声を取り込む

バタフライボード2のクラウドファンディングでは、最終製品の完成度を高める仕組みも取り入れた。早い段階で申し込んだ購入者に先行して商品を届け、クローズドなSNSグループを通じて使用感をレポートしてもらったのだ。小ロットを生産して先行ユーザーに届け、フィードバックを得て改良して次のユーザーに届ける──。その繰り返しによって、「金型や生産工程のクオリティーを高めていった」という。

「設計者が想定する完璧なハードウェアを目指していたら、いつまでたっても世に出せません。設計者とユーザーがそれぞれ考える『100パーセント』を、試作の段階からすりあわせていったのです」と開発者は言う。こうしたユーザーを巻き込む仕掛けと、それによって完成度が高まることへの期待値が、冒頭でも紹介した1,500万円近い支援額につながった。

「ユーザーが商品を育て、商品がユーザーを育てる『ソフトウェア的な感覚で進化するハードウェア』にできたと考えています」と、開発者は語る。こうした開発手法は、これまで大企業によるものづくりで常識とされてきた、「完全に仕様を固めて大量生産する」やり方とは真逆だ。

今回のクラウドファンディングでの“成功”を受け、バタフライボード2の開発や生産などを専門とする会社が発足した。「ホワイトボードを“民主化”し、世界のイノヴェイションを加速させるために貢献したいのです」と、開発者は語る。

より豊かなアイデアを生むためのイノヴェイティヴな道具として生まれたバタフライボードが人々の手に行き渡り、さらなるイノヴェイションを生み出していく──。バタフライボード2が発売されることで、そんな未来が開けてくるのかもしれない。

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