すばらしきタルガの世界(1) フィアットX1/9 vs ホンダCR-Xデルソル
もくじ
ー特集をはじめるにあたって
ー不遇のミドエンジンスポーツ
ーCR-X、オーナー目線の◯と△
ー「CR-Xを批判するのはむずかしい」
ーX1/9 乗り心地や操舵感覚はロータス
ー2台のスペック比較
ーもうひとつの選択肢
特集をはじめるにあたって
オープンエアモータリングの魅力は抗いがたいものだが、そこに制約があるのも事実。
冷たい突風が首筋からしみ入るような季節ともなれば、トップを降ろして走るのは辛い。
それを軽減するために、リアにウインドディフレクターを備える例が増えてきた。トップを閉じたのでは乗る意味がないのだ。
しかしノイジーで雨漏りする室内で閉所恐怖症になりそうなコンバーチブルも存在する。それならタルガスタイルはどうだろう?
妥協の産物と呼びたいなら、それでもいいが、そもそもルーフパネルを脱着するという行為ひとつとっても、楽しさをもたらしてくれる。
驚くべきは、いかに多くのメーカーがこのボディタイプを採用してきたか、ということだ。
ただし、「タルガ」の名を使えるのは1社だけ。ポルシェがタルガを発明したと言いたいところだが、そんなことを書いたら、この記事が公開されるやいなや、「1922年のアルフォンス・ガッダバウトに同様のルーフがあった」とか「トライアンフのサリートップについてはまだ決着が付いていない」といったコメントが入るだろう。
わたしが確信を持って言えるのは、ポルシェが1966年12月に最初の911タルガを送り出して以来、タルガは同社の登録商標になっているということだ。
しかし、同じテーマを持つ、ほかのクルマたちはどうなのか? われわれはお手頃なランナバウトからプレミアムなスーパーカーまで10台を集め、1年を通じてオープンエアモータリングを楽しめる世界を探求してみた。
まずはフィアットX1/9とホンダCR-Xデルソルに乗ってみよう。
不遇のミドエンジンスポーツ
フィアットのこの小さなミドエンジンスポーツは、実力ほどのステータスを得たことがない。
ボディの錆や電気系トラブルの懸念が買い手を慎重にさせ、価格を下げてきたのだ。
しかしX1/9は純粋に楽しいドライバーズカーであり、12km/ℓの低燃費で維持費も安い。
それを見過ごしているのは残念なことだ。
右ハンドルを待たねばならなかったので、英国に導入されたのは発表から5年後の1977年。そしてその翌年、1.3ℓと4速の組み合わせが1.5ℓと5速に進化した。
これはよいが、同時にアメリカ向けのビッグバンパーになったのは嬉しくない変更であった。
今回の取材車、86年型ベルトーネX1/9(82年以降、ベルトーネの商標で販売)はベストな組み合わせだ。
1.5ℓユニットを積み、今や希少なスモールバンパーや小型スポイラーなど、ディテールを1.3ℓ時代のものに交換している。
オーナーはコニー・カキア・カルアーナだが、彼女のパートナーのマーカス・ハリソンがわれわれの試乗会場まで運んできてくれた。
CR-X、オーナー目線の◯と△
「去年、衝動買いしたんです」とハリソン。「小さくて可愛いクルマだし、運転して非常に面白い。100km/hも出せば充分に楽しめますよ」
X1/9のルーフは4つのクリップで固定されており、簡単に取り外してフロントの荷室に収納できる。
CR-Xデルソルの電動トップとは違って、じつにシンプルな構造である。
「トランストップ」と呼ばれるデルソルのシステムは、せり上がってきたトランクリッドの下にルーフパネルをスライド収納するというもの。
今回の「すばらしきタルガの世界」特集のなかで最も面白い仕掛けであり、トランクリッドとルーフパネルが自動的に動く様子を見ているぶんには素晴らしい。
しかしCR-Xのオーナーのアリソン・ハーディによれば、これに要する時間は38秒。
「雨が降り始めたときは、それが38分にも感じますね」とアリソン。
「じつはこのCR-X、日本から取り寄せました。バッジを見るとVGiというグレードで、英国仕様のESiとほぼ同等だと思います。めずらしく無改造車だけれど、ボディの塗装を元通りにするために2回半の再塗装が必要でした」
乗った感じはどうだろう。
「CR-Xを批判するのはむずかしい」
デルソルの黒一色のインテリアには何の刺激もないが、ドライビングポジションは良好で、すべての部品がしっかりと取り付けられている。
ドアのウインドウを上げておけば、スピードを高めてもコクピットに風が巻き込むことはほとんどない。
エンジンは1.6ℓの125ps。ホンダらしく吹け上がりのよい4気筒だから、加速もまずまずだ。
速いとは言わないまでも、楽しい(もっとパワーが欲しければ170psのVTi/SiRがある)。
FFにしてはターンインが俊敏で、グリップは充分。小気味よいシフトも美点に加えてよいだろう。
実際のところ、批判すべきことを見付けるのがむずかしいクルマだ。これこそ本当の掘り出し物。
英国では希少車という事実も価値を高めてくれる。
いっぽう、X1/9は、まるでカートのような感覚だ。
X1/9 乗り心地や操舵感覚はロータス
X1/9のカートのようなハンドリングは、メディアから繰り返し称賛されてきた。どの記事も褒めている。
フィアットはこの小さなミドシップを開発するなかで、シャシーバランスのスイートスポットを見出した。
乗り心地とハンドリングのバランスについて言えば、ほぼロータスと同じレベルのクオリティだ。
パワーアシストのないステアリングはとくに低速で思った以上に重いが、走り始めてしまえば扱いやすく、正確無比の反応を示す。
「この道がもっとツイスティなら、もっと楽しいのに!」と思いたくなるクルマだ。エンジンはおとなしいが、ボディが軽いから充分な速さで次のコーナーに飛び込んで行ける。
インテリアは思いのほか広々としているが、X1/9のボディが写真で見る以上に大きいということも知っておいたほうがよいだろう。
風の巻き込みは少ないとはいえ、デルソルに比べれば大きい。デルソルは毎日の足として楽しめるクルマ。
X1/9がそれを超えているのは、走りのキャラクターとスポーティなサウンドの2点である。
2台のスペック比較モデル名フィアットX1/9 1500ホンダCR-Xデルソル
生産台数 160000台(X1/9全て) 3000台(UKモデル)
シャシー スティールモノコック スティールモノコック
エンジン SOHC4気筒1498cc SOHC4気筒1590cc
エンジン配置 ミド横置き フロント横置き
駆動方式 後輪駆動 前輪駆動
最高出力 86ps/6000rpm 127ps/6600rpm
最大トルク 14.7kg-m/3200rpm 14.7kg-m/5200rpm
トランスミッション/td>5速マニュアル 5速マニュアル
乾燥重量 912kg 1046kg
0-97km/h加速 10.8秒 9.2秒
最高速度 176km/h 189km/h
もうひとつの選択肢スマート・ロードスター
スマート・ロードスター
21世紀のMGミジェットとも言うべきスマートロードスターは、きわめてファントゥドライブ。
品質保証に関する膨大なクレームと馴れを要する6速セミオートギアボックスのために、生産打ち切りに追い込まれた。ブラバス仕様が最も人気が高い。
■生産期間 2003〜06年■生産台数 4万3091台
■最高速度 173km/h
■0-97km/h加速 10.6秒