KBC学園未来高等学校沖縄(沖縄)「自利利他」の信念のもとに
いまから約3年前、沖縄県高校野球に第4の私学高校野球部が創設された。そのKBC学園未来高等学校沖縄(以下、未来沖縄)の初代監督に白羽の矢が立ったのが、豊見城高校(部長)、沖縄水産、そして那覇商(ともに監督)で甲子園出場し白星を収めてきた神山昂氏。
那覇南・南部地区野球大会で昨年、今年と2連覇。同じく昨年の一年生中央大会では優勝を収め、この春の県大会では優勝することとなる沖縄尚学を相手に互角の戦いを見せるなど成果が見えている。この夏の選手権沖縄大会を制する可能性のあるチームのひとつ、未来沖縄の野球部へ訪問してきた。
神山 昂監督(未来沖縄)
日本国民に広く愛されている野球。その中でも高校野球の愛され方は大きい。世界をつくる元気な学校をテーマにしている未来沖縄でも硬式野球部を立ち上げて、学校はもちろん地域社会にもっと元気を与えようと考えた。KBC学園グループの信念・信条となっている「自利利他」。無心になって他人の喜ぶこと、ためになること、他人の利益になることを徹底してやること。自分の本当の利益とは、人々の幸せを図っている行為そのものであるという理念は、野球部の選手たちの心にも深く刻まれている。
「内容を聞いてみたら、グループが持つ様々な分野を活かして生徒たちに資格を取らせて真の文武両道を目指そうと。野球だけで結果を残せばいい、ということでは無かった。」高校の教員として、高校野球の監督として走り切った定年後の神山氏の胸が再び熱くなった。
指導方法もちろん目標は甲子園出場を目指し全国優勝。そのサポートとして、ご自身の息子であり部長を務める神山剛史氏と前城大悟氏が、監督の脇を固める。「二人とも東京六大学などレベルの高い大学野球を見てきて、そのノウハウを知っているし非常に情熱的。そこに僕の知識と経験を反映させていく。日を追うごとにどんどん選手たちのレベルアップが見られる。」
昨年11月に行われた一年生中央大会。優勝した未来沖縄は現エースでもある新垣 龍希が週を隔てての土日4試合で完投。「高校野球というのはひとつの柱があるもの」という神山監督。
ピッチャー陣を見ている前城副部長も、彼らに週700球ほどの投げ込みを課す。「夏の大会というものは普段の練習の1.5倍から2倍ほど疲れてくるものなのです。」
野手陣を見るのは剛史部長。監督は巡回して全体を見る。それが県立高校では中々かなわなかった。「一人で全部やってましたねぇ(苦笑)」
指導陣、指導法の確立に続き昨年、グラウンドが完成。甲子園を目指す礎は着々と出来つつある。
3学年そろうまでの道のりミーティングに臨む未来沖縄ナインようやく他校と同じ3学年が揃った未来沖縄。それを支えてけん引してきたのは紛れもなく現三年の一期生たちだ。「昨年後輩が入ってきて一年生中央大会で優勝するのだけど、一期生たちの練習サポートがあったればこその結果でした。」
個々の力は上の一期生。12名で練習し、12名で試合に臨む。道具の管理も片付けも、全部12名でやらねばならなかった。彼らのケガも苦労も全て知っている神山監督の労いの言葉からは、一期生に対する愛情があふれていた。
二期生たちが入ってきた昨年の夏が終わっての長崎県遠征では甲子園出場の創成館や長崎商を相手に5勝1敗。一年生中央大会ではV。今年の春の対外試合解禁では作新学院にも勝利を収めた。だが主要三大会で結果がついてこない。
「大人でいうアフターファイブ。練習が終わった以降の時間の過ごし方というのかな。それを見直していこうと。」力はある。自信を持って臨んだ春の県大会。豊見城南戦では3回の5得点を含み、4回まで毎回得点。13安打11得点で快勝。2回戦は沖縄尚学高校となった。
敗戦から学ぶ3回、チームに初ヒットが生まれると一死二塁とする。ワイルドピッチで三進し、ピッチャーのフィルダースチョイスで先制点を挙げた。さらに4回、2本のヒットで一、三塁として新垣 龍希のスクイズが成功して逆転した。2回に1点を失った新垣 龍希だったが、その後は要所を締めるピッチングで沖縄尚学打線にホームを踏ませない。
だが「新垣の球威がガクンと落ちた。一年生中央大会では土日の連戦で完投しているし、冬でより体力もついているからおかしいなと。」 3回まで54球、5回90球を投げていた新垣 龍希は、リードしつつ且つ1失点ながら結局7回でマウンドを降りざるを得なかった。チームは9回に3点を失い逆転負け。砂川 リチャードをはじめ好選手が揃う沖縄尚学打線に対し、意識しすぎた新垣 龍希の、余りにも序盤から全力で投げすぎた結果ではないかと分析した。
「その後は、例えば体力を消耗しない変化球を覚えようとかね。」それだけではない。相手打者に対しての観察感を研ぎ澄ませば、どのコースのどの球種を狙っているのか分かる。その逆をいけばいい。春から積み重ねてきた練習試合で、そのような経験をクリアし上積みしてきた。打者も同様。
「足の速い子も多いので色々なパターンの攻撃が出来る。今のチームなら、1試合に必ず何度かはチャンスが巡ってくるしそのときに得点する確率が大きい。」大矢BBC出身でヤングリーグ春季全国準優勝し、JAPAN代表にもなった伊波洋一(1年生)も入った現チーム力は、同じ私学の沖縄尚学や興南と比べても遜色ないほどになった。
頂点を掴むための心を成長夏を迎える彼らにとっての勝利のキーワードのひとつが「心」の部分積み重ねてきた体力・技術力はある。「普通は心技体ですが、最初は1学年のみ。体つくりから技の習得へ。これがスタートでした。」
この2年間でそれは作られてきた。そうすると“心”の部分が見えてくるようになってきた。「奢り、かな。」一年生中央大会や那覇南・南部地区の大会で二連覇。練習試合とはいえ作新学院にも勝利するとなると、なかなか謙遜になれない。ましてや他校と違い、歴史や伝統、先輩たちの教えといったものはなかったのだから。
「ここはアウトになってはいけない。そういう場面で憤死する。二死からあがったフライを落としてしまう。これで落とした試合が多々あった。」 決して心の成長をないがしろにしてきたわけではない。それは未来沖縄にあって他校にはない、ここだけの心つくりであるKBC学園グループの信念・信条である自利利他に見られる。素直になること、プラス思考をもつこと、思い遣り、気配りできること、積極性などなど。
それは練習中においても、試合においても、学校で授業を受けているときも同じ。学校も練習も終わったから、もう信念は関係ない、ということをしていては、大会の負けられない大事な場面で悔やんでも悔やみきれないミスを犯してしまうかも知れない。夏を迎える彼らにとっての勝利のキーワードのひとつが「心」の部分なのだと神山監督は語る。
高校野球を40年間やってきた経験と豊富な知識を持つ監督。田中 将大や斎藤 佑樹ら、近代野球や練習法を見てきた確かな見識がある部長と副部長が脇を固める。「本当にいい環境でやらせて頂いている。この高校でなら、僕は甲子園出場だけでなく全国優勝も狙えると心から思っている。」
指導陣や学校のそのような期待は選手たちにも通じる。全体練習のあとの自主練習にも一層身が入る。「そんな選手たちを見ていると嬉しくて。一刻も早くグラウンドに着きたい。彼らを帰したくないくらい(笑)」
名門PL学園にも似たユニフォームに身を包む沖縄代表校が、聖地甲子園の土を踏むのはそう遠くない未来。そう、この夏なのかも知れない。
(取材・文=當山 雅通)
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